非A非B型肝炎の臨床的総合研究

文献情報

文献番号
199800464A
報告書区分
総括
研究課題名
非A非B型肝炎の臨床的総合研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
飯野 四郎(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 熊田博光(虎ノ門病院)
  • 清澤研道(信州大学)
  • 小林健一(金沢大学)
  • 各務伸一(愛知医科大学)
  • 岡上武(京都府立医科大学)
  • 林紀夫(大阪大学)
  • 恩地森一(愛媛大学)
  • 佐田通夫(久留米大学)
  • 矢野右人(国立長崎中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.C型肝炎 C型肝炎ウイルス(HCV)は持続感染を起こしやすく、持続感染例では慢性肝炎から肝硬変・肝細胞癌へと時間経過に従って進展する疾患である。しかし、数十年にわたる詳しい経過はほとんど知られておらず、その間の治療がどのように経過を修飾するかも未知の部分が多い。更に、HCV感染における肝細胞障害機序も明らかにされていない。平成10年度の計画は以下のものであった。1)自然経過での病期、病態に応じた進展速度の分析。2)無症候性キャリアの追跡調査。3)肝硬変の血液を用いた診断式の作成。4)インターフェロン作用に関連する因子の分析。5)HCV肝炎発症機序の解明。6)病態に関係する遺伝子の解析。7)HCVの肝外症状。 2.TTV この数年間にGBV-C/HGVとTTVが新しい肝炎ウイルスとして発見された。しかし、肝炎ウイルスと報告されたにも係わらず、肝疾患との関わりは不明である。平成10年度は主としてTTVが急性および慢性肝疾患にどのように関連しているかを検討した。
研究方法
個々の研究で多岐にわたる研究方法が利用されている。
結果と考察
1.輸血から肝細胞癌(HCC)に至るまでの期間 輸血歴を有するC型慢性肝疾患例350例について、性別、HCV遺伝子型別、輸血時年齢別に、経過年数に従ったHCC発生率を検討した。この中で輸血時年齢が最も顕著な差がみられ、高年輸血者ほどHCC発生までの期間が短いことがわかった。 2.無症候性HCVキャリア(ASC)の追跡調査。 75例のASCを4年間追跡し、その70%でGPTの異常を認めた。全体の10%のみが組織学的に正常肝であり、他は慢性肝疾患であった。HCV量は経過中10~100倍の変動があった。女性例が多かった。 3.肝硬変診断のための判別式 肝硬変の診断は本来、肝病理組織によってなされる。しかし、肝硬変例の肝生検は危険性が高くなり、頻回には行えず、又、進展した例でないと診断できない。病態的には病理的なそれより早期であることから、簡便で血液成分のみから慢性肝炎と肝硬変の判別式を作成することを試みた。腹腔鏡及び肝生検を行った慢性肝炎(CH)及び肝硬変(LC)の205例を対象に各種の血液成分と組織診断結果の対比を行った。その結果、簡便式としてはγ-グロブリン(%)×1.24+ヒアルロン酸(μ g/dl)×0.001+性別(男=1、女=2)×-0.413+血小板(万/mm3)×-0.075-2.005が得られ、(-)であれば慢性肝炎、(+)であれば肝硬変とほぼ判定できることがわかった。 4.IFN投与例の長期追跡 1256例の追跡調査で74例にHCCの発生をみた。IFNの効果に従って、又、肝組織進展度に応じてHCC発生率が変化した。 5.IFN不完全著効例の分析 IFN投与後、GPTは正常化したにもかかわらずHCVが残存した21例について検討した。不完全著効を予測する投与前因子は見出せなかった。HCV RNA量は投与後むしろ増加した。肝炎再発例と比較しても背景因子に差は見出せなかった。 6.HCV NS 5Bの変異とIFNの効果 HCV NS 5BのRNA依存性RNAポリメラーゼ領域の塩基配列を検討し、HCV 1bでは本酵素活性中心の近傍の変異がIFN感受性を高めているという結果を得た。 7.IFN-α、IFN-γ併用療法 HCV 1b 18例での結果はCR 4例であり、IFN-αの効果をIFN-γが増強することが示唆された。 8.高感度HCVコア抗原検出系 この測定系の検出度を核酸検出系と比較した。RT-PCR法には劣ったが市販キットによるPCR法より優れていた。 9.肝細胞のFas抗原発現とIFNの効果 Fas抗原発現レベルを定量化することにより、Fas抗原発現と肝の炎症度及びIFNの効果とが相関することがわかった。 10.C型慢性肝炎例の樹状細胞機能 C型慢性肝炎例ではHCVコア抗原に対する樹状細胞の機能低下が認められ、これが持続感染に関係していることが示唆された。また、IL-12及びIL-2により機能が回復することから新しい治療法への道が拓かれた。 11.HCV関連口腔内病変 口腔癌及び口腔扁平苔癬の患者では高頻度にHCV感染がみられる。これら病変部でHCV遺伝子の存在を検討し、(-)鎖及び(+)鎖のRNAを検出した。 12.分泌物・排泄物中のTTV 唾液、精液、涙液、便中に高率にTTV RNAが検出された。このこと
はTTVが非経口的のみならず、経口的に感染しうることを示す成績である。13.非A~G型散発性急性肝炎とTTV 66例中17例(26%)にTTVが検出された。17例中3例ではGPTの正常化に伴ってTTV DNAが陰性化した(うち2例はTTV DNA再出現)。残り14例では最終観察時までTTV DNA(+)であった。現時点では急性肝炎とTTVの直接的な関係は見出せなかった。 14.慢性肝疾患とTTV 非B~非C型慢性肝疾患78例中9例(11.5%)にTTV DNAが検出された。TTV感染例の経過、病像などを非感染例と比較した場合に、両者に明らかな差を見いだすことはできなかった。現時点でTTVの慢性肝疾患の進展要因であるか否かは決めることは出来ない。輸血後20年を過ぎるとHCC例が発見されるようになることはよく知られているが、どのような例が早期に発癌するかはよく知られていない。今回の検討では輸血時年齢が重要であることがわかったが、進展速度は決して一定ではないことから多くの要因が進展速度に影響を与えているであろうと考えられ、これら要因を見いだし、人為的に調節できるものは何か、どのように調節すればよいかを明らかにする必要がある。HCV持続感染者のほとんどが慢性肝疾患患者であり、無症候状態は肝炎の一休止期にすぎず、いつでも進展する可能性を持っていることを示す所見を再確認できた。今回得られたCHとLCの判別式を用いて、多くの施設でその妥当性を検証する必要がある。妥当なものであればCHからLCへの移行率を普遍性のある基準で決定できることになり、臨床的には非常に有益なものとなる。IFN療法がCHの予後を大きく改善させ、将来のHCCを減少させる決定的なものであることは昨年度に示されたが今回もその再確認が得られ、C型CHの第一選択薬であることの確認を得た。また、IFN療法の効果がHCV排除のみに目が向けれれがちであるが、HCC発生率からみても、GPT正常化が第一義であることは示されている。IFNの効果に関係するHCV遺伝子変異についてはHCV NS 5Aの変異がよく知られているが、今回、NS 5Bの変異も関係することが示された。IFNのHCV排除効果を増強するものとして抗ウイルス剤であるRibavirinが世界的に注目されている。Ribavirinの効果が抗ウイルス作用というよりは免疫賦活作用によるという成績もあり、今後、IFN-γや種々のサイトカインの併用による増強作用が注目される。HCV感染での肝細胞障害機序として、Fas-Fas-L系、細胞障害性T細胞系などが示されているがその詳細は十分には解明されていない。今回のFasに関する研究、樹状細胞に関する研究は機序解明への大きな一歩となると期待される。TTVに関しては、発見からの時間が短いこと、多くの遺伝子型が存在し、型による病原性が異なることが推察されており、今後、遺伝子解析を含めて慎重な検討が必要と考えられる。現時点では急性及び慢性肝疾患の重要な病因であるとは判断できない。これからの問題である。
結論
1.肝病変の進展度は進展速度と時間に規定されるが、今年度の研究で肝硬変判別式、進展度関連因子など今後の経過分析に有用な情報を得た。 2.IFNの効果を増強させる治療法の糸口が見いだされた。 3.HCVによる肝細胞障害機序の解明に向けた研究が一歩前進した。 4.HCVコア抗原測定系がPCR法に相当するまでに検出感度が上昇した。 5.TTVに関する研究が本格的に始められ、近い将来、TTV遺伝子型と肝障害の関係が明らかにされると期待される。

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