文献情報
文献番号
201446017A
報告書区分
総括
研究課題名
発達障害を含む児童・思春期精神疾患の薬物治療ガイドライン作成と普及
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中村 和彦(弘前大学大学院医学研究科 神経精神医学講座)
研究分担者(所属機関)
- 傳田 健三(北海道大学大学院保健科学研究院生活機能学分野)
- 飯田 順三(奈良県立医科大学医学部)
- 松本 英夫(東海大学医学部専門診療学系精神科学)
- 辻井 正次(中京大学 現代社会学部)
- 田中 究(兵庫県立光風病院)
- 齊藤 卓弥(北海道大学大学院医学研究科 児童思春期精神医学講座)
- 岡田 俊(名古屋大学医学部附属病院)
- 渡部 京太(国立国際医療研究センター 国府台病院児童精神科)
- 斉藤 まなぶ(弘前大学医学部附属病院)
- 江川 純(新潟大学研究推進機構超域学術院)
- 稲田 俊也(公益財団法人 神経研究所附属晴和病院)
- 市川 宏伸(東京都立小児総合医療センター)
- 神尾 陽子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
- 金生 由紀子(東京大学医学部附属病院)
- 杉山 登志郎(浜松医科大学児童青年期精神医学講座)
- 高貝 就(浜松医科大学子どものこころの発達研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 障害者対策総合研究開発
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,640,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現在児童・思春期精神疾患(発達障害を含む)の薬物治療ガイドラインは我が国で作成されていない。我々はこのガイドラインを作成し普及することを目的とする。今回DSM-5改訂によってADHDとASDの併記が認められた。ゆえにADHDとASDが合併の有無による薬物治療について実態調査と合理的薬物治療を明示する。近年小児期うつの増加があるが、症状が多彩で、抗うつ薬の効果が限定的であるゆえ他の治療方法を十分配慮したガイドラインを作成する。作成後研修、啓蒙を行う。
研究方法
薬物ごとのガイドライン作成 児童・思春期の精神医学的問題の多くに対して薬物治療は有望な治療上の選択肢である。欧文や欧米のガイドラインを検討し、現状で有効と思われるガイドライン作成を薬物ごとに検討する。自閉症スペクトラム障害のガイドライン作成 自閉症スペクトラム障害における中核症状に対する適切な薬物治療はなく、経験の下で各種薬剤が使用されている。さらに様々な合併症を伴うが、効果的な薬物治療のガイドラインはない。ゆえに薬物療法ガイドラインを作成する。少量薬物治療の検討 児童は少量の薬物で各主症状の改善が認められることがある。どのような条件下で治療効果があるかを検討する。
結果と考察
児童・青年期の大うつ病性障害に対する薬物療法:三環系抗うつ薬は、有効性が確認されていない。SSRIは中等度の有効性を示しており、児童・青年期のうつ病の治療薬として有効性が確認された。児童・青年期のうつ病患者に対してはまず心理社会的支援を実施し、必要に応じて薬物療法を検討するという基本的な治療姿勢が重要である。ADHDとASDが併存の薬物療法及び児童に対する薬物療法の適応外使用について:ADHDとASDの併存症例に対して,MPHの有効性が示され,有意な改善を認めた。ADHDとASDの併存症例に対してATXの有効性が示された。向精神薬の適応外使用に関しては,日本児童青年精神医学会の医師会員696名から回答を得た。対象者の91.0%に適応外使用を行い、81.0%が適応外使用について説明している。適応外使用を行うことの最も多い薬剤として「抗精神病薬」「抗うつ薬」「抗てんかん薬/気分安定薬」が順に挙げられた。抗精神病薬の行為障害、摂食障害、人格障害、依存症への適応:行為障害に対してはリスペリドンが有効、人格障害の抗精神病薬の投与は短期使用が原則である。 薬物療法を受ける児童やその家族の薬物療法の捉え方:多くの保護者が“投薬に抵抗感を感じていた”、薬物療法に関する情報が保護者の間で共有されていないことが明らかになった。自閉症スペクトラム障害(ASD)の薬物療法ガイドライン作成:欧米のASD診療ガイドラインの検証を行った。包括的支援の枠組みの中で薬物療法の必要性を検討する重要性が強調された。さらに、NICE clinical guidelineを中心とした代表的な「ASD診療ガイドライン」の主に薬物療法に関する指針の検証を通し、現段階における「ASD薬物療法ガイドライン(案)」を作成した。児童・思春期精神科患者の薬物投与方法のガイドライン策定:小児薬物療法に関する総説,研究報告,症例報告,RCT,メタ解析等の論文を収集し、網羅的に調査し、添付文書・インタビューフォームに記載されている児童・青年期における適応とその投与量について表示した。その結果,ほとんどの薬剤で記載されている内容は「出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない(ので投与しないこと)」「使用経験が少ない」「使用経験がない」等であった。薬原性錐体外路症状評価尺度DIEPSSの多言語化とその信頼性・妥当性の確立:DIEPSSにより綿密な評価が日常臨床でも可能になり、 DIEPSSの国際標準化に貢献するものと考えられる。児童青年期の発達障害ならびに精神疾患に対する薬物療法のエビデンス:児童青年期のエビデンスは限定され、エビデンスは成人期のエビデンスと必ずしも一致していないことそのために適切な保護者へのインフォームドコンセントと患児へのアセントの実施が重要であると考えられた。発達障害への少量処方の検討:少量処方が有効である症例は発達障害が基盤にあることが明らかになった。薬理効果は逆相関型であり低用量ほど強い効果を発揮し、増量するとその効果は軽減される。
結論
薬物ごとのガイドライン作成は、抗うつ薬の小児に対する有効性について明示することができた。ADHDとASDが合併の有無による薬物治療のレビューができ、薬物療法の適応外療法について調査をすることができた。抗精神病薬におけるその他の疾患について検討した。自閉症スペクトラム障害の薬物ガイドラインを作成した。少量薬物治療の検討については、具体的な処方を提案した。
公開日・更新日
公開日
2015-09-17
更新日
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