失禁・排泄時の消臭拡散を防止する可搬型直列多重消臭システムの開発

文献情報

文献番号
201446009A
報告書区分
総括
研究課題名
失禁・排泄時の消臭拡散を防止する可搬型直列多重消臭システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
硯川 潤(国立障害者リハビリテーションセンター研究所 福祉機器開発部)
研究分担者(所属機関)
  • 山中 京子(国立障害者リハビリテーションセンター病院 看護部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 障害者対策総合研究開発
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
身体障害者にとって,自身の機能レベルに応じた排泄環境を整えることは,自立的な社会生活を営む上で極めて重要な課題である. 一方で,このような排泄の重要性が,一般的に広く認知されているとは言い難く,技術的な支援手法の開発も進んでいない. 業務主任者は, 2011~2013年度にかけて「排泄問題ワークショップ」を開催し,車椅子利用者からの排泄に関する支援技術のニーズ抽出を試みてきた. その結果,未充足(アンメット)ニーズの一つとして,屋外での失禁への懸念が活動の大きな制約となり,失禁時に「他人に気づかれずに帰宅する」ための支援技術が求められていることが明らかになった.
 本研究では,電動車椅子利用者を対象とした,便失禁時の臭い拡散を防止する消臭システムの開発を目的とする. 上述のワークショップで実施した当事者参加型の機能・構造デザインの結果をもとに,以下の機能を実現する実用性の高いシステム構成を目指す.
i) 車椅子に搭載でき,座位状態での失禁に対応する
ii) 便臭を封じ込め,臭気成分を除去する
研究方法
便臭の除去を実現するための機構として,原因分子の吸着に活性炭を,分解にオゾンと二酸化チタン光触媒をそれぞれ用いた実験機を製作した.製作した実験機の中を,有機物を含んだ清浄空気を通過させ,前後の物質濃度を比較することで,消臭効果を評価した.本研究では,ワンパスでの便臭除去を最終目的とするため,実験気体は循環させず,下流で捕捉した気体中の物質濃度を評価した.
 次に,光触媒と活性炭各フィルタを有する臨床評価機を製作し,基本性能を評価するために,実験機と同様の方法で,ワンパスで除去可能な物質濃度量を,検知管を用いて測定した.さらに,本臨床評価機を用いて,実際にベッド上排便を行っている身体障害者居宅にて試用評価を行った.
 また,臨床評価機の消臭実験と消臭機の活用に関する議論を行うユーザ参加型ワークショップを実施し,その意見を分析した.
結果と考察
多重化消臭機構の開発では,光触媒と活性炭フィルタの組み合わせにより,便臭をワンパスで除去する機構の原理確認に成功した.両フィルタを多段に配置した実験機へのアセトン含有吸気の通気実験では,50 ppmから検知下限以下まで濃度を低減できることを示した.また,ベッド上排便における臨床的評価から便臭除去の有効性を確認できた.想定ユーザを参加者としたワークショップでは,開発した臨床評価機の幅広い利活用方法や,ユーザビリティ向上のための技術的・意匠的課題を抽出できた.
光触媒および活性炭フィルタによるアセトン除去実験では,ワンパスでの100 ppmを超える濃度低減を確認できた.ただし,気体の流速は10 L/min以下と,非常に遅い.本消臭機は,電動車椅子での失禁時に用いることを主たる目的としている.従って,臀部周辺から除放される便臭を除去する性能の実現を目指した.これまでの検討から,臀部・腰部周辺を布などで遮蔽することで,低速の吸引でも便臭拡散を防止できることがわかっており,ここで示した消臭機構は,失禁時の便臭拡散防止に有用であると考える.
結論
 本研究では,失禁時の便臭拡散防止を実現するために,異なる消臭機構を多重化した新たな消臭システムを開発・評価した.同システムは,電動車椅子への搭載を想定し,失禁時に臀部から除法される臭気をワンパス除去することで,便臭の拡散を防ぐ.臭気成分の吸着と分解という異なる機構を,活性炭と二酸化チタン光触媒それぞれで実現し,それらを多段配置した機構を試作したところ,~10 L/minの低流速ではあるものの,高濃度のアセトンをワンパス除去できることを示した.また,同機構を実際のベッド上排便において試用したところ,定量的・主観的に有効性を確認できた.

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201446009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では,分解・吸着という異なる機構の消臭手法を多重に組み合わせることで,ワンパスでの便臭除去に成功した.これまで,大気中の臭気成分の除去は,循環を前提とした手法が主であり,多重化による消臭効果の評価は十分な検討がなされてこなかった.試作した消臭機の評価実験では,十分な性能を得られたことが示唆されており,障害者の社会参加を促進する新たな支援機器を提案できたと考える.
臨床的観点からの成果
障害者の日常生活や高齢者介護の現場では,便臭がもたらすQOLの低下が顕在化しており,本手法はそのようなアンメットニーズを解決するための先駆的な成果であると言える.障害者の日常生活支援という本来の目的を超え,様々な臨床応用の可能性が秘められており,今後の実用化と応用促進が期待される.
ガイドライン等の開発
該当なし.
その他行政的観点からの成果
本研究で着目したニーズは,代表者が参画している「福祉機器の利活用と開発を促進するための社会技術基盤の創成(厚生労働科学研究費補助金・障害者対策総合研究事業)」におけるデザインワークショップで議論されたものである. このような当事者ニーズ主導での技術提案を開発プロセスにつなげるアプローチは,今後の支援技術開発に欠かせない. 本研究は,申請者らが取り組んできた参加型開発の最終フェーズに位置付けられ,単なる技術開発にとどまらず,施策に反映可能な開発方法論の確立という点からも有意義である.
その他のインパクト
本研究の一部は,平成26年度「あ・い・ち・ふ・く・し」シンポジウムにて紹介された.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201446009Z