音響情報を用いた認知症行動・心理症状に対する新規非薬物療法の開発

文献情報

文献番号
201445008A
報告書区分
総括
研究課題名
音響情報を用いた認知症行動・心理症状に対する新規非薬物療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
本田 学(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部)
研究分担者(所属機関)
  • 山下 祐一(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 )
  • 河合 徳枝(公益財団法人 国際科学振興財団)
  • 吉田 寿美子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 病院臨床検査部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 認知症研究開発
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、人間の可聴域上限をこえる超高周波成分を豊富に含む音響環境情報が、脳幹部・前頭前野などの脳領域の活動を活性化させる効果を応用し、認知症および軽度認知障害(MCI)の行動・心理症状(以下BPSD)に対する、新しい非薬物療法を開発することを目的とする。
研究方法
研究代表者らは、超高周波成分を豊富に含む音響情報が、脳幹、視床、視床下部などの脳深部とそこから前頭前野に拡がるモノアミン神経系を活性化することを発見した[Oohashi et al., Journal of Neurophysiology, 2000]。またこの現象を応用して、音響情報の曝露の前後で、うつ病患者の状態不安指標が有意に改善することを示した(厚生労働科研費医療技術実用化総合研究事業平成22~24年度)。本研究では、この独創的な発見を応用し、脳幹部・前頭前野などの脳領域の活性が低下していると目される認知症・MCI患者に対して、超高周波成分を豊富に含む音響情報を提示することで、BPSD症状の治療効果が得られることを確かめようとする。さらに、従来の行動指標に加えて、脳波(EEG)、近赤外線トポグラフィ(NIRS)などの非侵襲脳計測法を用いた客観的な効果測定方法を確立し、BPSDに対する非薬物療法の有効性について、科学的妥当性の高いエビデンスを構築することを目指す。
結果と考察
1.入院病室用高周波音響呈示システムの開発・構築
既存の音響呈示装置は、大きく、不用意に触れられることを想定していない、超高周波の指向性が狭くリスニングポイントが限定される、スピーカーからの磁気漏洩が大きい、などの問題があった。入院病室で運用するにあたって、音源からスピーカーまでの全システムがコンパクトなワゴン1台に納まるよう小型化した(図)。特に、超高周波再生に圧電素子を用いた超高周波再生用アクチュエータシステムを開発した。それによって、小型軽量化、上下左右とも180度に近くまで指向性を拡大し、原理的に磁気漏洩も発生しない、安全面と超高周波の曝露の点で聴取位置を限定せず効果を発揮するなど、入院病棟での運用に問題ないレベルまで大きな改善を達成した。

2.構築した病室用音響呈示システムを用いて入院患者を対象とした試験運用を開始
 興奮、易刺激性、脱抑制、不眠、異常行動などのBPSDが問題となり入院した72歳男性の症例に対して、実施可能性・安全性を検証するための試験運用を行った。入院中の病室で、24時間連続・4週間の高周波音響呈示を行った。装置設置による危険や治療への支障、病状が悪化するなどの有害事象は認められなかった。また介入前後で、NPI-NHのスコアが、19(職業的負担度11)から0 (職業的負担度0)まで改善した。
結論
今年度の研究成果により、機能面でも安全面でも、入院病棟での運用に適した入院病室用超高周波音響呈示システムの開発・構築に成功した。これにより、実際にBPSDを呈する認知症の入院患者を対象に、入院中の病室で長時間呈示する臨床試験を開始することができ、現在までの試験では安全性に問題ないことが示唆されている。しかし、試験実施件数が十分でないため、引き続き安全性の確認を行い、科学的妥当性の高い方法で、治療効果を確かめるための準備を進めていく必要がある。同時に、非侵襲脳計測法を用いた客観的な効果測定方法の確立を目指していく。

公開日・更新日

公開日
2016-03-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201445008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、人間の可聴域上限をこえる超高周波成分を含む音響情報が、脳を活性化する現象を応用し、認知症の行動心理症状に対する、新しい非薬物療法を開発することを目的とする。これまでの本研究で、入院病室用高周波音響呈示システムの開発・構築を行い、小型軽量化と聴取位置を限定せず効果を発揮する指向性拡大を実現し、安全面と超高周波曝露の点で、入院病棟での運用に問題ないレベルまで大きな改善を達成した。また構築したシステムを使用して、入院患者を対象に実施可能性・安全性を検証するための試験運用を開始した。

臨床的観点からの成果
構築した病室用音響呈示システムを用いて、入院患者を対象として、超高周波音響療法の実施可能性・安全性を検証するための臨床試験を開始した。24時間連続・4週間の超高周波音響呈示の介入中に、装置設置による危険や治療への支障、病状が悪化するなどの有害事象は認めなかった。また、介入前後で症状の改善を認めた。今後は、さらに症例を重ね、薬物反応性・認容性に対する効果も合わせて評価していくことで、安全性の検証を進めることができる。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
該当無し
その他のインパクト
該当無し

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
1) Fukushima A, Yagi R, Kawai N et al.
Frequencies of inaudible high-frequency sounds differentially affect brain activity: positive and negative hypersonic effects.
PLoS One , 9 , e95464-  (2104)
原著論文2
2) Ogawa S, Hattori K, Sasayama D et al.
Reduced cerebrospinal fluid ethanolamine concentration in major depressive disorder.
Sci Rep , 5 , 7796-  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2016-07-14

収支報告書

文献番号
201445008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,200,000円
(2)補助金確定額
9,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,794,783円
人件費・謝金 937,581円
旅費 80,030円
その他 1,264,606円
間接経費 2,123,000円
合計 9,200,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-03-22
更新日
-