文献情報
文献番号
199800461A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症発生動向調査等に関する研究(我が国におけるポリオ根絶宣言のための小児AFPサーベイランスの体制の確立)
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
宮村 達男(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 植田浩司(西南女学院大学)
- 岡部信彦(国立感染症研究所)
- 神谷 斎(国立療養所三重病院)
- 鈴木 仁(福島県立医科大学)
- 山本悌司(福島県立医科大学)
- 山崎修道(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
WHOを中心とする世界レベルの根絶計画が着々と進み, 我が国の属する西太平洋地域では1997年3月以降, 一例の野生株ポリオウイルスもマヒ患者からは分離されていない。この地域から野生株が一掃され, 根絶計画が完遂されたことを証明するために, それぞれの国でサーベイランスを強化し, 野生株のポリオウイルスによる患者の発生がゼロになること以外に, 患者の周囲や環境中にも野生株ウイルスが存在しないこと, また万一国の外部からウイルスが持ち込まれた場合にも, その検出体制が確立していること…などの状況証拠を積み重ねて, 初めてポリオゼロを確認できることになる。ポリオは急性弛緩性マヒを主徴とする神経疾患である。ギランバレー症候群の一部など, 他のエンテロウイルスによるものや, transverse myelitisなど, 非感染性の神経疾患との鑑別が必要である。本研究では, ポリオを含む小児の急性弛緩性マヒ患者のサーベイランスを徹底し, 患者からの糞便の検査を行い, エンテロウイルスの分離を行う。得られたウイルスの解析を行い, 本当に野生株ポリオウイルスがいないことを立証し, 我が国においてポリオ根絶を宣言するための理論的な根拠とする。
研究方法
全国の6ヶ所の病院及び衛生研究所から成る研究拠点をたちあげた。
1)札幌医科大学小児科(千葉峻三), 市立札幌病院小児科(富樫武弘), 北海道立衛生研究所(沢田春美)
2)福島県立医科大学神経内科(山本悌司), 福島県立医科大学小児科(鈴木 仁), 福島県衛生公害研究所(鈴木さよ子)
3)聖マリアンナ医科大学小児科(加藤達夫), 横浜市衛生研究所(野口有三)
4)国立療養所三重病院(神谷 齊)
5)大阪大学医学部小児科(岡田伸太郎), 大阪市立環境科学研究所(春木孝祐)
6)西南女学院大学保健福祉学部(植田浩司), 福岡県保健環境研究所(千々和勝巳)
上記6地域で, 地域のギランバレー症候群, 横断性脊髄炎, 及びその他の急性弛緩性マヒをきたす疾患の15才以下の患者の発生頻度を調べ, ポリオが含まれていないことを臨床的, ウイルス学的に再確認した(回顧的調査)。一方1999年1月より, 急性弛緩性マヒをきたした患者の便を速やかに採取し, ウイルス学的検査を行う一方, 患者の情報を臨床的に討論した(前方視的調査)。
1)札幌医科大学小児科(千葉峻三), 市立札幌病院小児科(富樫武弘), 北海道立衛生研究所(沢田春美)
2)福島県立医科大学神経内科(山本悌司), 福島県立医科大学小児科(鈴木 仁), 福島県衛生公害研究所(鈴木さよ子)
3)聖マリアンナ医科大学小児科(加藤達夫), 横浜市衛生研究所(野口有三)
4)国立療養所三重病院(神谷 齊)
5)大阪大学医学部小児科(岡田伸太郎), 大阪市立環境科学研究所(春木孝祐)
6)西南女学院大学保健福祉学部(植田浩司), 福岡県保健環境研究所(千々和勝巳)
上記6地域で, 地域のギランバレー症候群, 横断性脊髄炎, 及びその他の急性弛緩性マヒをきたす疾患の15才以下の患者の発生頻度を調べ, ポリオが含まれていないことを臨床的, ウイルス学的に再確認した(回顧的調査)。一方1999年1月より, 急性弛緩性マヒをきたした患者の便を速やかに採取し, ウイルス学的検査を行う一方, 患者の情報を臨床的に討論した(前方視的調査)。
結果と考察
(i) 回顧的調査:上記研究拠点より327病院に調査を依頼し276病院から回答を得た。その結果, 平成10年1月1日から同年12月31日の間に327病院で入院治療を受けた15才以下の小児のポリオとの鑑別を要するAFP症例を経験した病院は33病院, 46例であった。その46例の内訳は, GBS 22例, 横断性脊髄炎 3例, 痙攣後麻痺 3例, ADEM 3例, 上肢弛緩性麻痺例 2例, 脊髄腫瘍2例, 脳血管障害 2例, その他myelopathy, 一過性筋力低下, 筋炎、急性脊髄炎, 脳炎, ベル麻痺, 単神経根炎, 前脊髄動脈症候群, 反復性片マヒの各1例であった。15才以下人口10万対のAFP率は0.96-2.01と報告された。なお同じく15才以下人口10万対のGBS率は0.48-0.85であった。(ii) 前方視的調査:平成11年1~7月の間に 計9例の届出があった。糞便よりのウイルス分離を行ったがvいずれもウイルス分離は陰性であった。残留マヒはいずれも認められず, 一過性であった。(表2)
結論
わが国ではポリオ根絶計画のためにAFPで患者をくまなくサーベイし, そこからウイルス分離により患者を確定してゆくという方式を従来とってこなかった。1998年の回顧的調査によって得られたAFP様症例はいずれも臨床的にポリオとは診断されなかった。一方, 1999年1月~7月までの点検で決めたAFP症例からはポリオウイルスは分離されず, 又, マヒも残らなかった。わが国ではワクチンによるポリオは別として, 野生株による真性ポリオ患者が見逃されているということはないと考えられる。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-