変形性膝関節症の発症・増悪予測スコア作成により要介護を防止する治療戦略構築

文献情報

文献番号
201444001A
報告書区分
総括
研究課題名
変形性膝関節症の発症・増悪予測スコア作成により要介護を防止する治療戦略構築
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松田 秀一(京都大学大学院医学研究科整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 宣(京都大学大学院医学研究科整形外科)
  • 青山 朋樹(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)
  • 松田 文彦(京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 田原 康玄(京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 坪山 直生(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)
  • 市橋 則明(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)
  • 池添 冬芽(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)
  • 中山 健夫(京都大学大学院医学研究科健康情報学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 長寿科学研究開発
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
15,047,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、滋賀県長浜市の一般地域住民約1万人を対象とした大規模コホート研究から、変形性膝関節症(膝OA)とその周辺症状のクラスタリングから介護状態に至るリスク因子を明らかにすることである。
研究方法
滋賀県長浜市の一般地域住民10,082名からなる「0次(ゼロジ)コホート」で本研究を実施する。本研究では、第1期および第2期のベースラインデータ、ならびに平成19~27年のエンドポイント発症のデータを解析に用いる。
【調査項目と調査方法】
<第1期ベースライン調査>
膝痛の評価には日本版変形性膝関節症患者機能評価表を用いた。調査では、整形外科領域の項目に加えて、性別・年齢などの属性データ、動脈硬化度などの臨床検査結果、血液検査値、遺伝子解析結果等のデータを得た。
<第2期ベースライン調査>
平成24年度からの第2期事業では、第1期にリクルートした1万人を対象にフォローアップ調査を行っている。第2期からは60歳以上の希望者を対象に整形外科・運動器に関する健診(ロコモ健診)を取り入れた。第2期調査は平成24~27年度にかけて行う計画である。
基礎データ:年齢、性別、体重、身長、腹囲などの基礎データを収集する。

運動器健診
運動器の機能的検査 歩行速度、重心動揺、握力、バランス、下肢筋力、下肢筋パワー(立ち座りテスト)、下肢筋持久力(段差昇降テスト)、動作能力(up and goテスト)、ロコモ25。
画像検査
超音波にて関節軟骨の変性を評価する。関節内水腫および炎症の状態を超音波検査にて評価する。
解析計画
 膝OA発症・増悪因子の予測アルゴリズム式を作成する。次に要介護に至る要因の予測アルゴリズム式を作成し、これらをもとに膝OAに伴う介護要因予測スコアを作成する。
結果と考察
ベースライン調査においては平成26年12月までに1,211名の両膝の立位荷重時X線撮影を行った。。使用した評価法はKellgren-Lawrence gradeで、Grade 2以上をX線学上の変形性膝関節症と判断すると、60歳以上の成人の45%において、どちらかの膝にX線学上の変形性膝関節症が見られることとなる。また33.2%が両膝の平均がX線学上の変形性膝関節症を持っていることとなる。運動器健診は平成26年度は、205名において下肢筋力およびバランス機能と歩行能力との関連性について解析を行った。快適歩行について、歩行速度を目的変数とした重回帰分析の結果、歩行速度には下肢筋力のなかでも大腿四頭筋セッティング筋力が関連すること、歩行周期変動には下肢筋力よりもバランス機能のほうが関連することが示唆された。また、単純課題と二重課題の歩行速度および歩行周期変動の違いについて分析した結果、歩行速度は二重課題条件において有意に減少したが、歩行周期変動では単純課題と二重課題との間に有意差はみられなかった。高齢女性177名を対象に、立位姿勢での脊柱アライメントが動作能力に及ぼす影響を年代別に検討した。70歳以上の女性においては腰椎後弯のアライメント変化が歩行速度に影響を及ぼしていることが示唆された。
両膝関節超音波は、673名に対して施行した。平成26年度末までには約900名に対して施行する予定である。解析が終了した203名の結果は、膝蓋上嚢滑膜肥厚4.9%、膝蓋上滑液貯留6.3%、内側半月板突出54.2%、内側骨棘29.6%、内側関節裂隙滑膜肥厚および滑液貯留48.6%、外側関節裂隙滑膜肥厚および滑液貯留72.5%、大腿骨遠位内側顆軟骨厚平均1.34mm、grade分布は0:27%、1:30%、2a:29%、2b:9%、3:4%であった。
変形性膝関節症患者における動的不安定性とその臨床症状との相関の解析を、変形性膝関節症の治療目的で通院中の290名患者を対象に行った。①静的アライメント変化なし、動的不安定性(スラスト)なし群、②静的アライメントあり、動的不安定性なし群、③静的アライメントなし、動的不安定性あり群、④静的アライメントあり、動的アライメントあり群の四群比較で、変形性膝関節症患者機能評価尺度における痛み、こわばりのスコアは①~④の順に強くなることが明らかになった。
結論
平成26年12月までに、第2期ベースライン調査を3,281人、運動器健診を752名について施行した。60歳以上の成人一般人口において、45%がどちらかの膝にX線学上の変形性膝関節症を有していた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201444001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ながはまコホートのベースライン調査のデータおよび2回のJKOM質問表のデータを用いて、多変量解析により将来の膝関節症状の悪化を予測するモデル作成を行い、その妥当性を検証した。完成したモデルをもとに、年齢・性別・BMIなどの属性および体重増減・メンタルヘルス・腰痛の有無から、5年後の膝関節症状の悪化の可能性を簡便に算出できる表を作成した。
 ロコモティブシンドロームのリスク度に対して、加齢や性別、体重とは独立して四肢骨格筋量の減少(サルコペニア)が関連することを明らかにした。
臨床的観点からの成果
変形性膝関節症の症状を増悪させる因子については、今まで十分な解析がなされていなかったが、本研究を通して膝関節症状の悪化を予測するモデルを作成することができた。今後は本モデルを前向きに検証することで、モデルの精度を高めることが可能になる。また、変形性膝関節症の治療は患者別に変えるべきと考えられているが、明確な指針はまだない。今後ハイリスク群に対する予防介入試験を行うことで、患者の病態に合わせた適切な治療方法を確立することが可能になると考えられる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
市民公開講座
1. 京大の先生と楽しく学ぶサイエンス「謎を解いて学ぶDNA講座」,田原康玄, 川口喬久, 瀬藤和也, 松田文彦, いきいき健康フェスティバル2016, 2016/5/22, 国内.
2. 「どうして治す 膝の痛み」市民公開講座ロコモを防いで健康長寿, 伊藤宣,松田秀一, 2017/1/15,国内

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iijima H, Fukutani N, Aoyama T, et al.
Clinical phenotype classifications based on static varus alignment and varus thrust in Japanese patients with medial knee osteoarthritis.
Arthritis Rheumatol.  (2015)
原著論文2
Fukutani N, Iijima H, Fukumoto T, et al.
Association of varus thrust with pain and stiffness and activities of daily living in patients with medial knee osteoarthritis.
Phys Ther.  (2016)
原著論文3
Iijima H, Fukutani N, Isho T, et al.
Changes in clinical symptoms and functional disability in patients with coexisting patellofemoral and tibiofemoral osteoarthritis: a 1-year prospective cohort study.
BMC Musculoskelet Discord.  (2017)
原著論文4
Iijima H, Fukutani N, Aoyama T,et al.
Clinical impact of coexisting patellofemoral osteoarthritis in Japanese patients with medial knee osteoarthritis.
Arthritis Care Res (Hoboken).  (2016)
原著論文5
Iijima H, Aoyama T, Nishitani K, et al.
Coexisting lateral tibiofemoral osteoarthritis is associated with worse knee pain in patients with mild medial osteoarthritis.
Osteoarthritis Cartilage  (2017)

公開日・更新日

公開日
2023-05-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201444001Z