Q熱による呼吸器感染症の国内での発症状況および病像に関する研究         

文献情報

文献番号
199800460A
報告書区分
総括
研究課題名
Q熱による呼吸器感染症の国内での発症状況および病像に関する研究         
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 彰(東北大学加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 徳江 豊(東北大学加齢医学研究所)
  • 高橋 洋(東北大学加齢医学研究所)
  • 白石 廣行(宮城県保健環境センター)
  • 平井克哉(岐阜大学農学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は市中発症型の呼吸器感染症としてのQ熱の頻度および病像を解析することにある。Q熱とはCoxiella burnetiiに起因する人畜共通感染症の総称であり、種々の家畜やペット、野生動物の排泄物や分泌物を介した経気道伝播がヒトへの主要な感染ルートとなる。急性型Q熱の患者の多くは上気道炎や気管支炎、あるいは肺炎等の呼吸器感染症として発症し、基本的な予後は良好であるが、脳炎や髄膜炎等の合併症も報告されており、また急性型Q熱に罹患した患者のうちの数%が心内膜炎などの特異な病像をとる予後不良な慢性型に移行するため注意が必要である。Coxiellaは欧米においては市中肺炎の数%程度を占める重要な起炎菌としてよく認識されているが、本疾患の国内におけるひろがりや病像に関しては未だ未解明の点が多い。したがって今回我々は、国内におけるQ熱の現状を具体的に把握するためのアプローチのひとつとして、Q熱による市中発症型呼吸器感染症のサーベイランスを立案、施行した。
研究方法
今回我々は、市中病院や診療所などの各種施設と連携して呼吸器感染症の患者検体をprospectiveにひろく収集し、血清抗体価とPCR法を中心としたQ熱症例の検索を試みた。対象施設は都市部から郊外まで、そして一次医療機関から三次医療機関までが含まれるように調整して宮城県内各地域の18臨床施設とした。検討期間中に来院した市中発症型の呼吸器感染症患者に対して、各施設の担当医が患者同意を得たうえで症例を登録、また同時に血清、咽頭拭い液、喀痰など各種患者検体を収集した。Q熱症例の検索は、間接蛍光抗体法によるIgMおよびIgG抗体価の測定、咽頭拭い液と喀痰および血清を検体としたPCR法により行い、さらに一部の症例に関しては、凍結保存血清からのコクシエラの分離培養を試みた。
結果と考察
237症例が最終的に本サーベイランスに登録された。症例の内訳は肺炎が51例、上気道炎が97例、気管支炎が85例であった。また動物との接触歴がある症例は全体の3分の1程度であった。血清IgG抗体価は、40倍以上を陽性と評価すれば28例(全体の11.8%)検出され、分献的な国内の健常人の抗体保有率(数%)よりも高値を示した。ペア血清での有意の抗体価上昇例は認められなかった。陽性例の内訳は2560倍以上が1例、640倍が2例、320倍が1例、160倍が9例、80倍が9例、40倍が6例であった。このうち抗体価が320倍以上を示した4例をQ熱による急性呼吸器感染症である可能性が高いものと判断された。一方IgM抗体価に関しては今回の検索では明白な上昇例は検出されなかった。またPCRでは上記4例とは別に咽頭拭い液3件、血清1件が陽性となり、やはりQ熱の可能性大と考えられた。すなわち今回今回のサーベイランスでは237症例のうちで8例(全体の3.4%)がQ熱疑い症例と判定され、本邦にもQ熱症例は欧米と同様にまれならず存在している可能性が示唆された。この8症例の病像を見ると、上気道炎が5例、気管支炎が2例、肺炎が1例となっていた。発熱はほとんどの症例が39℃以上であり、また急性期の肝機能障害は検査が施行されていた3例中の2例に認められた。動物との接触歴は濃厚ではなく、接触機会なしと答えた症例が過半数を占めていた。 
結論
今回のサーベイランスにより登録された市中発症型呼吸器感染症237例のうちの8症例、3.4%がQ熱に起因するものと考えられた。ただし本邦におけるQ熱の病像をより正確に把握するためには今後もさらに各方面からの症例を追加集積していく必要がある。我々も1999年度の夏期において今回と同様のサーベイランスを施行し、その発症状況を冬期と比較するとともに症例の集積をはかる予定である。

公開日・更新日

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