結核症及び非結核性抗酸菌症における生体防御機構の解明とその予防・診断・治療への応用

文献情報

文献番号
199800455A
報告書区分
総括
研究課題名
結核症及び非結核性抗酸菌症における生体防御機構の解明とその予防・診断・治療への応用
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山本 三郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小林和夫(国立感染症研究所)
  • 光山正雄(京都大学)
  • 本多三男(国立感染症研究所)
  • 赤川清子(国立感染症研究所)
  • 芳賀伸治(国立感染症研究所)
  • 山崎利雄(国立感染症研究所)
  • 後藤義孝(宮崎大学)
  • 持田恵子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核撲滅の世界戦略として、世界保健機関はEPIのもっとも基本的なワクチンとしてBCGをとりあげ、また結核短期療法としてDOTSを推進しているが、今日においても多数の新規患者が発生している。我が国においても、年間新規登録患者の減少鈍化が言われて久しく、BCGの効果への疑問、耐性結核菌の出現などから結核制圧は多くの困難に直面している。結核菌・非結核性抗酸菌に対する生体防御や病変形成は、菌側および宿主側の両因子が複雑に関与する宿主・寄生体関係を介して成立する。本研究では、結核・非結核性抗酸菌症について、宿主の感染抵抗性/感受性の発現機構を、宿主遺伝子、細胞や生理活性物質動態などの宿主側因子の解析結果から明らかにする。さらに、結核の予防、診断、治療戦略として、BCGに替わり得るワクチンの開発、結核とBCG感染を区別し得る新たな診断薬の開発、サイトカインなど免疫強化療法による薬剤耐性結核の制圧などを試みる。
研究方法
抗酸菌(非結核性抗酸菌やらい菌)をマウスに接種し、病変局所における宿主応答を解析した。リステリアのエスケープ因子であるLLOのリコンビナント蛋白を作成し、そのサイトカイン誘導活性の機構と活性部位の特定を行った。ブタ、ウシ、ヒト(エイズ患者)由来M.avium株各1株計4株を健康ブタの肺胞マクロファージに感染させ、10日目までの菌数を個体別に比較した。肺胞マクロファージにおけるNRAMP-1mRNAの発現量をRT-PCRにより健康ブタと感染ブタの間で比較した。結核菌群に特異的な遺伝子の検索、プライマーの設計、遺伝子増幅、増幅産物の証明、プライマーの特異性を検討し、結核菌群の臨床分離株の鑑別同定法を検討した。Glas-Col社のエアロゾール噴霧感染装置の安全性を検討した。ヒト末梢血より得たCD14 陽性単球をin vitro で分化誘導させて得たマクロファージに非定型抗酸菌M. avium を感染させ、菌の増殖及びマクロファージへの分化に対する影響を検討した。PPD皮膚反応陽性者の末梢血単核球(PBMC)より分離した単球よりGM-マクロファージあるいはM-マクロファージを得、同じドナー由来PBMCに加え、PPD刺激によるDNA合成とIFN-γ産生を測定した。標的遺伝子として結核菌の有する分泌型のα抗原蛋白及び類似の蛋白遺伝子をBCG東京株に発現させ、さらに培養液中に遊離する蛋白をWestern Blot法で確認した。α抗原をベクター(pcDNA3)のサイトメガロウイルス・プロモーター直下に組み込んで作製した。モルモットの遅延型皮膚反応は、抗原0.5―2μg/0.1mlを皮内接種し、24時間後の硬結と発赤を測定した。マウスは、左後脚足蹠(フットパッド)に抗原2μg/0.05mlを、右後脚足蹠に生理的食塩水を注射し、24時間後に両足蹠の腫脹差を測定し遅延型アレルギーの指標とした。細胞増殖反応は、免疫したモルモットまたはマウス脾細胞 2x106 cells/ml と抗原(PPDまたはMPB64)を混合培養し、3Hチミジンの取り込みを測定した。脾細胞1x107/mlと抗原を24時間培養した上清中のIFN-γはELISAによって測定した。
結果と考察
抗酸菌感染感受性マウスではIL-12応答不全、すなわち、内因的マクロファ-ジ欠陥が判明し、この欠陥はIL-12投与により是正された。しかし、IL-12補充療法により、肉芽腫炎症病変は増強した。すなわち、感染防御と病変形成が表裏一体であることが判明した。LLOの膜傷害活性活性発現にはC末端側の11個のアミノ酸が必須であるが、宿主サイトカイン誘導には関係がなく、よりN
末端側のペプチドが重要であった。抗体による抑制実験から、LLOはマクロファージからのIL-12, IL-18産生を促し、これらがNK細胞からのIFN-?産生を誘導することが判明した。またリポソーム封入LLOと免疫誘導活性を示さない菌株の併用で、菌体抗原特異的な感染抵抗性TH1細胞の誘導が可能であった。マクロファージにおけるM.aviumの増殖パターンは、株により著しく異なっていたが、菌増殖パターンはすべてのブタマクロファージにおいて類似していた。NRAMP-1 mRNAの発現量を健康豚由来マクロファージと感染豚のそれとの間で比較したが、いずれも有意差はみられなかった。結核菌DNAをコードする5組のプライマーを用いてM. tuberculosisとM. bovisの鑑別診断が可能になった。また、M. africanumはM. tuberculosisと同義語とすべきであることがわかった。モルモットを用いたエアロゾール噴霧感染及び肺からの菌の還元培養成績とMPB64やMPT64抗原による皮膚反応や抗体価測定とを組み合わせることにより肺結核に対するワクチン効果の有無を知ることが可能と考えられる。α-K抗原遺伝子をDNAワクチン作成用ベクターであるpcDNA3.1に挿入し、pcDNAα-K DNAワクチンを作成した。その発現を確認するためにM3.5.1細胞にトランスフェクションし、細胞を薬剤耐性下で培養し、さらに細胞をクローニングした。α抗原の発現をフローサイトメーターで確認するとNo.1, No.2のいずれのクローンも細胞表面にα抗原を著名に発現していることが確認された。α抗原遺伝子とシャトルベクターpSO及びpISの2種類のベクターに挿入し、BCG東京株にトランスフェクションし、培養液中の遊離されるα-K蛋白をWestern Blot法で確認した。この発現はrBCGをモルモットに投与しα-K蛋白でDTHを誘導することにより確認した。さらにα-K特異的抗体の産生能でも確認することができた。α-K抗原を用いてDNAワクチンを作成した。このα抗原を組み込んだDNAワクチンの発現を細胞にプラズミッドトランスフェクションして確認することができた。M. aviumをヒト単球に感染させると、GM-CSFによるマクロファージへの分化は抑制され、細胞死が誘導されたが、M-CSFによるマクロファージへの分化は抑制されなかった。ヒト単球のM-CSFによる分化をIL-10が増強することは既に報告したが、IL-10 はGM-CSF による単球のマクロファージへの分化を抑制することが知られた。M. aviumは単球からIL-10の産生を促すことが知られていることより、2種類のCSFによる単球のマクロファージへの分化にたいするM. avium 感染の異なる影響はIL-10の産生を一部介することが示唆された。これらの系における菌の増殖及び殺菌については現在検討中である。GM-マクロファージ(肺胞マクロファージのモデル)とM-マクロファージ(腹腔マクロファージのモデル)はPBMCによるDNA合成を同程度に抑制したが、M-マクロファージのみがIFN-γ産生を抑制した。M-マクロファージは分化誘導の過程で、また、誘導後にPPD刺激でinterleukin-10(IL-10)を産生したが、GM-マクロファージには認められなかった。Recombinant IL-10および中和抗体を用いた実験から、IFN-γ産生はIL-10により抑制されるが、DNA合成は主としてIL-10を介さない機序で抑制されることが示された。BCG生菌により免疫したモルモットに、4週後、PPDまたはMPB64を皮内注射したところ、MPB64の遅延型皮膚反応はPPDと同程度の陽性反応を示した。BCG生菌免疫マウスでは、PPDに対する足蹠反応はBALB/c、C57BL/6とも強い遅延型アレルギー反応を呈したが、MPB64については、いずれの系統のマウスでも弱い反応であった。BCG生菌免疫4週後のBALB/cマウス脾細胞と各抗原を培養し、24時間後の培養上清中のIFN-γ量をELISA法で測定したところ、脾細胞をPPDと培養した場合に比べ、MPB64との培養では、IFN-γ産生は少ないことがわかった。一方、脾細胞からmRNAを抽出し、RT-PCR法で調べたIFN-γ mRNA量は、PPD刺激とMPB64刺激との間に、大きな差異は認められなかった。
結論
抗酸菌感染に対する宿主防御機構でマクロファ-ジ-サイトカイン-T細胞連関による細胞性免疫が重要な役割を演じているこ
とを証明し、宿主の内因性防御機構の解明と発病における防御機構の欠陥を是正することにより、抗酸菌感染症の新規治療や予防戦略の可能性を提供した。今後、抗菌化学療法薬とサイトカイン免疫強化療法の併用療法を開発し、理想的な治療・予防方法を指向する。リステリアのエスケープ因子であるLLOの毒性活性部位と免疫賦活活性部位は解離することが可能であり、その免疫賦活活性は感染防御免疫応答の誘導に応用が可能である。今回調査した感染ブタのほとんどの例において、全身性に至る病変が見られなかったこと、またすべてのブタマクロファージにおける菌の増殖パターンが類似していたことから、調査対象とした個体では遺伝形質が同じであった可能性が高いと考えられた。今回調査した感染豚のほとんどの例において、全身性に至る病変が見られなかったこと、またすべての豚マクロファージにおける菌の増殖パターンが類似していたことから、調査対象とした個体では遺伝形質が同じであった可能性が高いと考えられた。感染研のバイオハザード対策が施されたP3動物実験室で、決められた手順を遵守して実験する限りに於いては、エアロゾール噴霧感染の安全性には問題の無いことがはっきりした。モルモットを用いたエアロゾール噴霧感染は肺結核の研究やワクチン効果判定の研究に有用である。結核症の研究に猿を用いることは有用と考えられる。M.avium のヒト単球への感染は、M-CSF依存性の単球からマクロファージへの分化は抑制しないが、GM-CSF依存性のマクロファージへの分化を抑制することが知られた。GM-マクロファージは、IL-10産生能を持たずIFN-?産生を抑制しないが、M-マクロファージはIL-10産生を介してDNA合成とIFN-γ産生を抑制した。

公開日・更新日

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更新日
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