文献情報
文献番号
199800454A
報告書区分
総括
研究課題名
O157等腸管出血性大腸菌感染症に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 成大(岩手医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 千田 勝一(岩手医科大学)
- 品川邦汎(岩手大学)
- 玉田清治(岩手県衛生研究所)
- 中村義孝(岩手県盛岡保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
腸管出血性大腸菌感染症 (Enterohaemorrhagic E.coli : EHEC) の疫学や病態および免疫については不明の点が多い。さらに溶血性尿毒症症候群 (Hemolytic uremic syndrome: HUS) の発症を防止するための治療についても極めて不十分な状態にある。また、EHEC の迅速診断と予防衛生学的対応を適切に行うための行政的支援機構の構築は感染症危機管理体制を確立するために必要である。これらの点を考慮し、本研究では以下の目的をもって研究を遂行した。(1)実験室診断:EHEC の実験室診断についてはPCR 法などを用い、迅速性の向上と精度管理を検討する。(2)疫*Pw:EHEC の疫学については、牛を対象とし、その保菌率や伝染経路を明らかにする。(3)診断と病態:診断と病態に関しては、とくに小児科領域における組織的な患者把握と診断・治療の成績を集積し、実験室診断の精度を検討すると共に、病態との関係を検討する。(4)免疫:感染後の免疫状態については患者を長期的にフォローし、その免疫状態を把握し、有効な予防ワクチンなどの開発に資する基礎的なデータを蓄積する。(5)行政的支援機構:行政的支援機構については、保健所の情報ネットワークと民間臨床検査センターの検体搬送システムを有効に活用し、医師会および医療機関との連携を向上させる。
研究方法
(1)EHEC迅速診断のためのPCR法の検討:糞便検体からDNAを抽出する操作において、Taq polymerase inhibitor を除去できる簡便な抽出法として Gene Trapping by Liquid Extraction 試薬(Gen TLE、宝酒造、京都)を使用した。PCR 法は通常の3ステップ法の他に、アニ-リング伸長反応を1サイクル6とした2ステップ法を行った。(2)O157 感染牛の実験モデルと疫学的研究:感染牛をモデルとして、 血清疫学に必要な抗体価測定の条件を検討する。O157 を経口感染させた牛から1週毎に採血し、型特異的LPS抗原(Sigmaおよびデンカ生検)を用い、血清抗体価をELISA法により測定した。岩手県内の食肉処理場において採取した牛糞便からPCR法を用いべロ毒素遺伝子を検出した。(3)EHEC感染の診断:EHEC感染下痢症群とその他の病原体による下痢症群とに分け、血清抗体価測定による実験室診断の精度を細菌分離と合わせて前方視的に検討する。(4)免疫:感染後の免疫状態、特にべロ毒素に対する液性免疫についての抗体価の推移を検討する。(5)行政的支援機構:感染症発生情報ネットワークおよび検体搬送方法を医師会及び医療機関と協議し再構築する。
結果と考察
(1)EHEC迅速診断のためのPCR法の検討:糞便からTaq polymerase inhibitor を除去することは従来のフェノール・ク*
鴻鴻zルム法では困難であったが、Gen TLE法を利用することで短時間にPCR用のDNAを精製することが可能となった。Gen TLE法によるDNA抽出と2ステップPCR法を組み合わせると、検体処理からアガロースゲル電気泳動による結果判定まで約5時間で終了し、EHEC感染の即日診断が可能となった。本法による糞便中のべロ毒素遺伝子の直接検出法は増菌培養後に行ったPCRの結果に匹敵するものであり、感度、特異性とも優れている。(2)O157 感染牛の実験モデルと疫学的研究:EHECO157感染牛およびO157保菌牛から血清を採取しO157特異的抗LPS抗体を測定した。感染牛においては、感染初期にIgM抗体の上昇が見られたが、IgG抗体の産生は遅く13~15週後から上昇することがわかった。O157保菌牛では実験感染牛に比べ抗体価の変動は少なかった。食肉処理上における牛のEHEC 保菌率は4/201(2.0%)であった。その内訳はO157:H7(VT1&VT2) 1株、O128:H2(VTy1) 1株、血清型OUT:HUT(VT2)2株であった。また、感染牛から感染した事例では井戸水、ハエからも同一パルスフィ-ルド・パタ-ンを示すO157株が分離されている。(3)EHEC感染の診断と病態:EHEC感染症患者(O157またはO26)群と他の病原体による感染または病原体を特定できなかった細菌性腸炎患者の群について、急性期および回復期血清を用いて抗LPS 抗体と抗べロ毒素抗体を測定した。その結果抗LPS抗体体上昇の認められたものはEHEC群9/13、その他の群1/9であった。HUS患者は両群とも1名ずつみられた。べロ毒素抗体は急性期、回復期いずれも陰性であった。(4)免疫:べロ毒素に対する抗体産生をO157集団感染児童について検討した。発症後17日目以内の抗VT1抗体の陽性率は3/77(3.9%)、抗VT2抗体の陽性率も3/77(3.9%)で、症例としては1例(同一症例)であった。この症例では発症後14ヶ月目においても低いなが□迯RVT1抗体、抗VT2抗体とも検出された(5)行政的支援機構:行政的支援機構については、盛岡保健所が中心となり関係機関連絡フローチャートを作成し、情報連絡の迅速化を促し、また、保健所の衛生学的対応をより迅速化した。EHEC 感染症の集団感染は全国的に減少傾向にあるが、散発例は依然として跡をたたない。岩手医大付属病院においても平成10年度は2例のHUSを経験しており、EHEC 感染の危機は今後も続くことが予想される。平成10年度の本研究における研究成果を考えると、実験室診断のPCR法による迅速化が進み、今後各方面での利用が期待される。また、PCR迅速診断法は細菌検査法の精度管理に適した方法でもあり、今後さらに改良を加えて普及を図りたいと考えている。疫学的な面ではO157感染牛モデルの実験からIgG抗体産生までに比較的長時間を要することがわかって来た。このことから、IgM、IgA、IgGのサ'ブクラスを検出することで、EHEC の侵淫状況の時期的なものも推測することが可能であると考える。今後、子牛の予防に対する初乳中の抗体の効果も検討してゆく。また、食肉処理場での疫学調査から牛のEHEC の保菌率が約2%であることがわかり、今後の牛の保菌率の推移をみる上で重要な指標を得たと考える。さらに、感染牛から罹患した事例があることから、保菌牛に対する疫学的監視と除菌の方法を検討してゆくことが重要であると考える。EHEC感染性下痢症とその他の病原体による下痢症の鑑別診断については、O157、O26、O111など本邦での検出頻度の高い血清型については血清診断が信頼できる補助診断法であることが明らかになってきた。今後、診断可能な血清型を増やすことと、PCR法を加えより正確な診断をおこない、患者の病態や治療効果について検討してゆく。EHEC感染後の免疫状態についてはわずか1例ではあったが、14ヶ月後も抗VT1抗体、抗VT2抗体とも陽性を保っ*貽いる例があった。また、対照群血清においても抗べロ毒素抗体陽性のものもあることから、べロ毒素に対する免疫は十分期待できると考える。今後、べロ毒素の免疫に必要な感染条件や接種条件およびELISA抗体価と中和抗体価の相関などを検討すると共に、べロ毒素のトキソイド化を検討してゆく。行政的支援機構については今年度の研究において患者情報の収
集と検体搬送の迅速化に重要な役割を果たした。今後さらに政策提言できるレベルまでこのシステムを充実させ、感染症危機管理システムに貢献できる研究を完成させるべく検討中である。
鴻鴻zルム法では困難であったが、Gen TLE法を利用することで短時間にPCR用のDNAを精製することが可能となった。Gen TLE法によるDNA抽出と2ステップPCR法を組み合わせると、検体処理からアガロースゲル電気泳動による結果判定まで約5時間で終了し、EHEC感染の即日診断が可能となった。本法による糞便中のべロ毒素遺伝子の直接検出法は増菌培養後に行ったPCRの結果に匹敵するものであり、感度、特異性とも優れている。(2)O157 感染牛の実験モデルと疫学的研究:EHECO157感染牛およびO157保菌牛から血清を採取しO157特異的抗LPS抗体を測定した。感染牛においては、感染初期にIgM抗体の上昇が見られたが、IgG抗体の産生は遅く13~15週後から上昇することがわかった。O157保菌牛では実験感染牛に比べ抗体価の変動は少なかった。食肉処理上における牛のEHEC 保菌率は4/201(2.0%)であった。その内訳はO157:H7(VT1&VT2) 1株、O128:H2(VTy1) 1株、血清型OUT:HUT(VT2)2株であった。また、感染牛から感染した事例では井戸水、ハエからも同一パルスフィ-ルド・パタ-ンを示すO157株が分離されている。(3)EHEC感染の診断と病態:EHEC感染症患者(O157またはO26)群と他の病原体による感染または病原体を特定できなかった細菌性腸炎患者の群について、急性期および回復期血清を用いて抗LPS 抗体と抗べロ毒素抗体を測定した。その結果抗LPS抗体体上昇の認められたものはEHEC群9/13、その他の群1/9であった。HUS患者は両群とも1名ずつみられた。べロ毒素抗体は急性期、回復期いずれも陰性であった。(4)免疫:べロ毒素に対する抗体産生をO157集団感染児童について検討した。発症後17日目以内の抗VT1抗体の陽性率は3/77(3.9%)、抗VT2抗体の陽性率も3/77(3.9%)で、症例としては1例(同一症例)であった。この症例では発症後14ヶ月目においても低いなが□迯RVT1抗体、抗VT2抗体とも検出された(5)行政的支援機構:行政的支援機構については、盛岡保健所が中心となり関係機関連絡フローチャートを作成し、情報連絡の迅速化を促し、また、保健所の衛生学的対応をより迅速化した。EHEC 感染症の集団感染は全国的に減少傾向にあるが、散発例は依然として跡をたたない。岩手医大付属病院においても平成10年度は2例のHUSを経験しており、EHEC 感染の危機は今後も続くことが予想される。平成10年度の本研究における研究成果を考えると、実験室診断のPCR法による迅速化が進み、今後各方面での利用が期待される。また、PCR迅速診断法は細菌検査法の精度管理に適した方法でもあり、今後さらに改良を加えて普及を図りたいと考えている。疫学的な面ではO157感染牛モデルの実験からIgG抗体産生までに比較的長時間を要することがわかって来た。このことから、IgM、IgA、IgGのサ'ブクラスを検出することで、EHEC の侵淫状況の時期的なものも推測することが可能であると考える。今後、子牛の予防に対する初乳中の抗体の効果も検討してゆく。また、食肉処理場での疫学調査から牛のEHEC の保菌率が約2%であることがわかり、今後の牛の保菌率の推移をみる上で重要な指標を得たと考える。さらに、感染牛から罹患した事例があることから、保菌牛に対する疫学的監視と除菌の方法を検討してゆくことが重要であると考える。EHEC感染性下痢症とその他の病原体による下痢症の鑑別診断については、O157、O26、O111など本邦での検出頻度の高い血清型については血清診断が信頼できる補助診断法であることが明らかになってきた。今後、診断可能な血清型を増やすことと、PCR法を加えより正確な診断をおこない、患者の病態や治療効果について検討してゆく。EHEC感染後の免疫状態についてはわずか1例ではあったが、14ヶ月後も抗VT1抗体、抗VT2抗体とも陽性を保っ*貽いる例があった。また、対照群血清においても抗べロ毒素抗体陽性のものもあることから、べロ毒素に対する免疫は十分期待できると考える。今後、べロ毒素の免疫に必要な感染条件や接種条件およびELISA抗体価と中和抗体価の相関などを検討すると共に、べロ毒素のトキソイド化を検討してゆく。行政的支援機構については今年度の研究において患者情報の収
集と検体搬送の迅速化に重要な役割を果たした。今後さらに政策提言できるレベルまでこのシステムを充実させ、感染症危機管理システムに貢献できる研究を完成させるべく検討中である。
結論
感染症危機管理体制の構築は国家として重要な課題であり、EHEC感染症の封じ込めを一つのモデルとして、診断、治療、予防のそれぞれの方面について今後とも研究を継続する必要がある。特に感染症発生情報ネットワークの構築はその中心的課題である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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