ヒトB細胞由来の抗体作製に関する研究

文献情報

文献番号
199800452A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトB細胞由来の抗体作製に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
垣生 園子(東海大學医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大學医学部)
  • 橘祐司(東海大學医学部)
  • 穂積勝人(東海大學医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト型抗体は、有効な治療方法がないウイルス感染、自己免疫病あるいは移殖に新しい治療方法を提供できると期待されている。しかし、現存するヒト・キメラ抗体や大部分の配列をヒト型化した人工抗体では、マウスのアミノ酸配列やマウス型糖鎖を含むため、有効性や安全性の面から臨床応用には問題がある。これら問題点の解消を目指して、本研究ではヒトB細胞由来のモノクロナール抗体を大量に作製する方法を2つの側面から開発する。具体的には、遺伝子工学的手法を駆使して、末梢ヒトB細胞によって末梢中に産生されている種々の病原体や自己抗原に対する抗体を大量に作製する。又一方では、目的とする抗体を産生するB細胞を抗原免疫によって得られるように、ヒト免疫系を再構築したモデルマウスを作製する。
研究方法
1. EBウイルス(EBV)トランスフォーム法とファージディスプレイ法の併用によるライブラリー作製と抗体遺伝子の増幅:ヒト末梢血中で抗体を産生しているB細胞をEBV感染でトランスフォームし、培養上清でスクローニングしてオリゴクローンを得る。それらのRNAからRT-PCRにて増幅した抗体遺伝子を大腸菌(JM109)に導入して大量発現させる。 2. 抗体の特異性: 得られた抗体の特異性は、ELISA法、免疫染色特法あるいは中和活性によって検討する。 3. 免疫不全マウス内でのヒトBおよびT細胞の分化誘導:ヒトCD34+幹細胞を臍帯血から分離し、免疫不全マウスであるNOD SCIDマウスに移植し、BおよびT細胞の分化を誘導する。B細胞の場合には、照射したレシピエントマウスにCD34+細胞を静注する。T細胞の場合には、あらかじめin vitroでマウス胎仔胸腺由来のストローマ細胞環境と幹細胞を共培養した後に、レシピエントマウスの腎臓被膜下に移殖する。これらマウスに出現するヒトBおよびT細胞を、BおよびT細胞の細胞表面マーカを指標にflowcytometerにて経時的に解析する。
結果と考察
1. EBVトランスフォーム法とファージディスプレイ法の併用による新しいヒト抗体作製法の樹立:上記2つの方法を組み合わせることによって、産生量が少ないHBウイルス表面抗原(HBb)に対する抗体とTNF-aに対する自己抗体を、大腸菌によって大量作製することに成功した。得られた抗体のうち、抗TNF-aに中和活性を示唆するものがあり、現在確認を急いでいる。また、中和活性がない抗体に関しては、遺伝子工学的操作を加えて抗体分子の改変を図るべく、準備をしている。2. ファージディスプレイ法単独による抗体作製:高い抗体値をもつアメーバ膿瘍の患者より得た末梢血B細胞から、直接ファージディスプレイ法によりライブラリーを作製し、大腸菌の発現系を用いて赤痢アメーバに対するヒト抗体を大量に作製することに成功した。得られた5クローンの抗体遺伝子は、H鎖では3種類、L鎖では4種類の異なった配列であった。これら抗体は固定した虫体とは特異的に反応するが、生きた虫体とは反応しなかったので、虫体表面以外の部分に対するものであることが示唆された。今後さらなるクローニングと、1.で述べた遺伝子操作により中和抗体作製を試みる。3. 免疫不全マウス内でのヒトBおよびT細胞の分化誘導:臍帯血より分離したヒトCD34+幹細胞は、移殖されたNOD SCIDマウス内で以下の様な条件でヒトBおよびT細胞に分化した。(1)B細胞の分化:CD34+細胞静注後6週間で、血清中にヒトIgMとIgGが検出された。ヒトCD45+19+細胞は末梢血中にはほとんどみとめられなかったが、骨髄および脾臓ではCD45+細胞が最高40%みとめられ、そのうちCD19+細胞はほぼ50%であった。この結果は、レシピエントであるNOD SCIDマウスに300-350 radの照射をし
た場合に最も効率良く見られた。(2)T細胞の分化:ヒトCD34+細胞を胎仔マウス胸腺から得たストローマ細胞と凝集して共培養すると、胸腺小葉内で培養するFTOCに比較してより効率よく成熟型に分化することが、判明した。これら凝集細胞複合体をNOD SCIDマウスの腎臓被膜下に移殖すると、局所で末梢型の成熟T細胞に分化すると共に増殖も促進された。以上の移殖実験ではB細胞とT細胞を別個に分化誘導することに成功したが、この系ではT細胞依存性の抗原に対する抗体は産生されない。従って、理想的なモデルではT-B細胞の相互作用が期待される。そのためには、TおよびB細胞を同一臓器内で分化誘導するか、或いは集積させる必要がある。また、マウス胸腺で分化したT細胞との相互作用にはB細胞がマウスMHCを発現することが望まれる。来年度はこの点を課題に研究を進めるべく準備をしている。
結論
遺伝子工学的手法の組み合わせを工夫することにより、ヒトB細胞由来のモノクロナール抗体を大腸菌で大量作製することに成功した。特に、抗体産生量が少ないか或いはクローンの拡張が小さいB細胞から抗体遺伝子を単離する場合には、EBVトランスフォーム法とファージディスプレイ法とを併用すると、大腸菌で抗体を大量に作製することが可能であることを、世界に先駆けて示した。この方法により、本年度は2種類の病原体(HBVと赤痢アメーバ)と自己成分(TNF-a)に対する抗体を得た。一方、臍帯血から分離したCD34+幹細胞を免疫不全マウスに移殖して、ヒトBおよびT細胞に分化誘導できることを証明し、ヒト免疫系 が再構築されたモデル作製に大きな進展をみた。このモデルは、血清中に検出されないが、臨床応用に期待されている抗体作製に有用である。

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