ALSに対する新規治療技術の創出

文献情報

文献番号
201442004A
報告書区分
総括
研究課題名
ALSに対する新規治療技術の創出
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
山梨 裕司(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 尚巳(日本医科大学大学院医学研究科)
  • 長村 文孝(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 難治性疾患等実用化研究(難治性疾患実用化研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
77,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年の臨床研究や疾患モデル研究の進展により、呼吸を含む重篤な運動機能障害を呈するALSにおいて神経筋接合部(NMJ)の形成不全の重要性が示されつつある。NMJの形成は筋特異的な受容体型チロシンキナーゼMuSKによって制御されるが、代表者らは独自に単離したDok-7がMuSKの細胞内領域に直接作用し、活性化することがNMJ形成シグナルの駆動に必須であることや、その異常がNMJの形成不全と重篤な運動機能障害を呈する先天性筋無力症(DOK7-CMS)の原因であることを発見した(Science, 312: 1802-5, 2006; Science, 313: 1975-8, 2006)。さらに、Dok-7の過剰発現が個体のNMJ形成を高度に増強することを発見し(Science Signal., 2: ra7, 2009)、Dok-7の発現増強が、NMJ形成不全による運動機能障害に対する新規治療技術の創出に貢献し得ると考えた。
 以上の経緯を踏まえ、本研究ではALSに対する新規治療技術の創出を目指し、NMJ形成増強治療に関する非臨床POCの取得を主たる目的とした。
研究方法
(1) マウスを用いた試験
 上記の目的を達成するために本研究においてはNMJの形成不全を呈する疾患モデルマウスに対するNMJ形成増強治療の先行研究を実施した。その為に、NMJ形成増強技術としてアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いたヒトDOK7遺伝子発現ベクター(AAV-D7)を作出し、また、NMJ形成不全を呈する疾患モデルマウスとしてDOK7型筋無力症マウスを独自に樹立すると共に、常染色体優性エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー(AD-EDMD)マウスを導入した。
(2) 霊長類を用いた試験
 本研究では、NMJ形成増強治療に関するPOCの取得を齧歯類のみならず、霊長類においても目指している。そこで、コモンマーモセットを用いた試験を計画した。具体的には、当該動物におけるNMJ可視化技術を確立すると共に、AAV投与条件の検討を進めた。
3) 規制・知財対応
 本研究を支える特許は研究代表者らによって既に日本および米国で成立し(特許 第5339246号;米国特許 US8222383)、欧州で審査中である。そこで、本件特許に対する知財調査を実施した。本研究が目指す遺伝子治療に必須のAAVベクターについても、その知財権の状況を調査、検討した。
結果と考察
・結果
(1) マウスを用いた試験
 上述の通り、本研究ではヒトDOK7遺伝子発現ベクター(AAV-D7)を作出し、出生後のマウスへの投与によってNMJが拡張されることを示した。さらに、独自に作出したDOK7型筋無力症マウスやAD-EDMDマウスへの発症後の投与による運動機能改善効果と延命効果を実証した。
(2) 霊長類を用いた試験
 本年度の研究においては、コモンマーモセットのNMJの可視化が想定以上に難しいことが判明し、その可視化条件の至適化を進め、安定的な可視化条件を確立した。そこで、EGFPを発現するAAVベクター(AAV-EGFP)を用いてマーモセットへの投与条件の検討を進め、至適条件を決定した。現在、AAV-D7の投与実験を進めている。
(3) 規制・知財対応
 本研究に関する医薬品医療機器総合機構との薬事戦略相談事前面談では、試験物の規格決定後に品質および非臨床試験について相談を行う事となった。そこで、当該試験物に関する国内外の規制情報を収集し、それに基づく対応策の策定を進めた。また、企業への導出も視野に入れ、本件特許を保有する東京医科歯科大学のTLOと導出条件等に関する相談を進めた。
・考察
 本年度の研究においては、DOK7型筋無力症のモデルマウスだけでなく、dok-7遺伝子は正常なAD-EDMDモデルマウスについても、AAV-D7の発症後の投与による運動機能の改善効果や延命効果を示すことができた。この事実は、AAV-D7を用いたNMJ形成増強治療がDOK7遺伝子に異常をもたないNMJ形成不全にも有効であることを示唆するものである。今後は、この治療効果の実体を知るための分子生物学的な解析や病態生理学的な解析が望まれる。さらに、将来の治験を視野に、本年度の研究により確立された、霊長類を用いた試験条件と規制・知財対応の基本姿勢を踏まえた開発研究を着実に推進する必要がある。
結論
 本年度の研究においては、先行実験として実施したDOK7型筋無力症とAD-EDMDのモデルマウスの運動機能障害に対する改善効果を示すことができた。また、霊長類を用いた試験と規制・知財対応については、本年度の研究により、次年度以降の研究基盤を固めることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201442004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1) 研究目的の成果:本研究ではヒトDOK7遺伝子発現ベクター(AAV-D7)を作出し、出生後のマウスへの投与によってNMJが拡張されることを示した。さらに、独自に作出したDOK7型筋無力症のモデルマウスや常染色体優性エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー(AD-EDMD)のモデルマウスへの発症後の投与による運動機能改善効果と延命効果を実証した。
(2) 研究成果の学術的・国際的・社会的意義:上記の成果は米国の科学誌Scienceに掲載され、国内外から大きな反響があった。また、AMEDからの当該受託事業(H27-H28年度)をさらに推進し、上記AAV-D7の発症後の投与によるALSモデルマウスの筋萎縮、運動機能、生存期間に対する改善効果をEMBO Mol. Med. 誌にて発表したが(5月10日、オンライン掲載)(EMBO Mol. Med. 9:880-889, 2017)、既に、国外、国内から多くの反響を得ている。
臨床的観点からの成果
(1) 研究目的の成果:本研究では、ALSに対する新規治療技術の創出を目指し、神経筋シナプス(NMJ)の形成不全に対するNMJ形成増強治療の非臨床試験を進めた。この点では、本治療技術の可能性をマウスレベルで実証したことが成果と言える。
(2) 研究成果の臨床的・国際的・社会的意義:上記の成果は、ALSの新規治療技術の創出に関わる基礎的な成果であり、将来の臨床応用に向けた非臨床試験の第一歩として意義がある。
ガイドライン等の開発
特記事項なし。
その他行政的観点からの成果
特記事項なし。
その他のインパクト
ヒトDOK7遺伝子発現ベクターの開発とマウスモデルでの治療効果に関する記事が朝日新聞(平成26年9月19日、朝刊)や米国の科学誌Nature Reviews Neuroscience(平成26年9月18日、Research Highlights欄)等に掲載された。また、直近の発表(EMBO Mol. Med.、平成29年、5月10日、オンライン掲載)についても、ALS Research ForumのNews in Brief(平成29年、6月5日)、ALS News TodayのNews(平成29年、5月15日)、日刊工業新聞(平成29年5月11日)、日経産業新聞(平成29年5月12日)にて紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2019-06-05

収支報告書

文献番号
201442004Z