遺伝子導入とサイトカインによる巨核球系白血病の分化による血小板の生成の研究

文献情報

文献番号
199800449A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子導入とサイトカインによる巨核球系白血病の分化による血小板の生成の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
畠 清彦(自治医科大学血液学)
研究分担者(所属機関)
  • 照井康仁(自治医大・血液内科)
  • 大月哲也(自治医大・血液内科)
  • 冨塚浩(自治医大・血液内科)
  • 上井雅哉(自治医大・血液内科)
  • 森政樹(自治医大・血液内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血小板は現在健康保険制度上、2万/mm3以下であるか、または出血傾向を呈している状態に輸血することが認められている。血小板産生を刺激するサイトカインの同定及び解析の結果、インターロイキン6、11、マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチンがある。血小板輸血は、できるだけ節約し、輸血による副作用の発現を最小限におさえ、成分輸血のドナーの見つからないまれな血液型やHLAタイプの患者さんにも投与できるものが必要である。またそのようなものが入手できれば、一般薬として販売されているH2ブロッカー(消化性潰瘍剤)の副作用や、抗腫瘍剤として用いられているプラチナ製剤の副作用としても血小板減少が重篤であり、これらの副作用による出血などの対策も可能となる。
血小板輸血は癌化学療法後の血小板減少や再生不良性貧血での血小板減少時には必須のものである事は言うまでもないが、HLA型に対する血小板抗体の出現や製剤自体が高価である事を考えると、ヒト由来の血小板製剤の使用を最低限に抑制すべきである。そのためは基礎的研究としてまず現在入手可能なサイトカインや種々の薬剤により血小板機能が亢進する事や受容体の存在する事の意義と作用機序を理解した上で、止血機能を保持した血小板、巨核球系白血病から遺伝子導入とサイトカインにより血小板又は血小板に近いものが分化、機能できれば、緊急の出血状態に対処できるものとなる。血小板減少と言っても、血小板ではなくても機能を有するものが一時的に機能が保持されれば危険は脱することができる。本研究では血小板の分化、機能を刺激する至適なサイトカインと巨核球への分化を誘導する遺伝子、転写因子GATAを用いて巨核球系白血病を分化させ、血小板の生成を計画する研究を行う。緊急に出血傾向を伴う患者さんの手術に対して出血の防止に作用できるものを開発する。巨核球系白血病については分化させた時の血小板様物質が凝固機能に対して与える影響を研究する。凝固を補助できれば緊急時に血小板が入手できなくても出血傾向に対応できる可能性がある。このように血小板の誘導もしくは類似構造物を産生できるような系を開発することを目的とする。
研究方法
トロンボポエチンに対する受容体c-mpl, bcl-XL, gp130など巨核球系/血小板への分化に関与するサイトカイン及びその受容体の遺伝子やシグナル伝達に関係する遺伝子や転写因子ファミリーのひとつGATAを導入して巨核球への増殖、分化に進ませる白血病株細胞を作成する。遺伝子導入にあたっては、ネオマイシン耐性遺伝子の他に、誘導系の遺伝子を組み込んで用いる。現在G-CSFにより分化する骨髄異形成症候群患者から由来した細胞株を樹立しているので、この細胞株またはその他の巨核球系白血病細胞株を用いて、外からはTPO,IL-3,IL-6,などの増殖分化因子の組み合わせ、抗Fas抗体,抗TNF抗体,抗IFNg,抗IL-8抗体,抗血小板抗体などの組み合わせにより血小板の産生または血小板様構造物の生成を誘導することを試みる。これについては、電子顕微鏡やFACSを用いて、血小板に対する抗体を用いて同定する。血小板が生成されなくても、アポトーシスに陥ると決定づけられた巨核球系白血病に止血凝固作用があるかどうか、電子顕微鏡を用いて血小板の構造物が出現するかどうかを調べる。また遺伝子の人体への投与または遺伝子を導入した細胞由来の構造物を臨床応用する際に、白血病由来の細胞成分を人体に投与するにあたっては、投与前後の細胞がきちんと増殖しないように、また細胞死をおこすなどで、絶対に増殖しない系が必要であり、アポトーシスを制御することは、白血病細胞や遺伝子導入細胞の細胞死を誘導して増殖をしないようにすることが重要だからである。血管内皮細胞については活性化の研究として、内毒素や単球、白血病細胞との共培養、各種サイトカインによる変化により、細胞死を増強できる系を報告した。
血小板に対する抗体を誘導しないように、HLA分子の表現されていない細胞K562細胞を標的細胞とする。またHLA分子の表出している細胞に対しては、抗体やリガンドを介する細胞死の誘導により選択する。
なおc-mpl遺伝子、Stat遺伝子、トロンボポエチン遺伝子などについてはすでに入手し、プラスミドを準備した。今後転写因子GATAとの組み合わせも含めて、複数の遺伝子導入を行う。
結果と考察
血小板増加が疾患の活動度の指標として考えられるものとして、川崎病における血小板増加と血管炎の機序を明らかにするためサイトカインの関与を検討したところ、M-CSF,G-CSF,IL-6が重要で、血小板増加は必ずしもトロンボポエチンによるものではなかったことを報告した。次に骨髄における幹細胞の増殖に関係する成果として、ストロマ細胞の増殖も血液系の回復に重要であり、M-CSFの支持細胞に対する効果を検討した。マウスでは増殖を刺激することを報告し、ヒトでも刺激することを見い出した。化学療法後の長期の骨髄抑制に有効である場合の症例があることから、M-CSFがストロマ細胞に刺激的に作用することがわかった。また多核となる巨核球への研究に応用する目的で、細胞周期、分化や核数を制御する遺伝子bcl-XL, vprや、シグナル伝達の機序を明らかにするため、増殖因子で誘導されるキナーゼTecを研究した。
また白血病細胞を分化させたものをヒトに投与したり、遺伝子導入した細胞を移植、投与することを考えると、移植または投与後の白血病細胞や遺伝子導入した細胞の細胞死を制御することが重要であり、アポトーシスの制御する機構を研究した。白血病株細胞をホルボルエステルで分化導入し、アポトーシス誘導する新規の蛋白を精製した。そのうち内皮細胞型インターロイキン8が重要で、血管内皮細胞との相互作用について研究した。ヒトHLA遺伝子の制御機構を検討するために、HLA抗原に対する抗体を用いて細胞増殖に対する研究を行った(投稿中)。新たにbeta2-microglobulinにアポトーシス誘導の機序が関係していることを報告した。転写機構についても研究し、mpl遺伝子、ベクター遺伝子、シグナル伝達で活性化されるStat遺伝子のプラスミドDNAを導入のため準備した。当初の計画に必要な遺伝子、特に株細胞の確保と、プラスミドDNAの確保、多核となる遺伝子などの解析が進行したので、また投稿準備中であるが、トロンボポエチンに反応し、巨核球系マーカーも有する株細胞を樹立したので、活性化された時の電顕像を試みた。G-CSFにより活性化される遺伝子についても報告した(投稿準備中)。
HLA型は血小板輸血の際に抗体出現を促進し、反復して輸血する際の最も大きな弊害の一つである。そこでHLA分子の発現していない白血病細胞株K562細胞を標的細胞とし、トロンボポエチン受容体遺伝子c-mplやシグナル伝達分子Statを導入できるようにプラスミドDNAを作成準備した。分化促進するbcl-XLK562細胞に発現させると巨核球系に分化することを報告した。トロンボポエチンに反応する細胞株を樹立した。血小板は出現していないが、アポトーシス、細胞の周期や分化、核数を制御する遺伝子やサイトカインを解析した。白血病細胞から分化誘導して血小板を誘導した後、細胞は完全死を誘導していることが大前提である。血管内皮細胞とK562細胞との付着により分化、アポトーシスの制御が可能となり、報告した。HLA分子を介する新しい細胞死の系を見い出したので、投稿準備中である。
転写因子GATAとbcl-XL,mpl遺伝子を用いて巨核球系に分化することを制御し、分化した白血病株細胞または正常細胞から血小板様物質が最も多く出現する条件、及び凍結などによる保存方法を検討する必要がある。ヒトでは樹状細胞などの免疫担当細胞との相互作用により抗原性の有無について検討することが今後重要である。
白血病由来の産物もしくは細胞成分を人体に投与することは、いかにしてその発がん性を否定するのかが、重要であり、これについては、誘導した産物が増殖能力のないこと、細胞の抗原性のチェックなどを十分に検討したい。
結論
人工血小板は、人工血液の中でも重要で、特にHLAの適合するドナーの見つからない患者さんや、震災などの大きな災害、緊急時に必要である。本年はそのうち、新しい巨核球系への制御遺伝子bcl-XL,白血病細胞から分化または細胞死を誘導する蛋白や遺伝子の同定をし、報告した。1999年度に向けて、さらに転写因子や細胞周期を制御する遺伝子やシグナル伝達に関与する遺伝子の準備を行った。さらに具体的な成果として得るために、遺伝子導入した細胞の機能や由来構造物の凝固止血機能を検討する予定である。どのような組み合わせの遺伝子を導入すれば、最も巨核球系/血小板への増殖分化を刺激できるのかが重要である。

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