ウェアラブルICT技術と隣保制度を利用した健康増進プログラムの開発

文献情報

文献番号
201439019A
報告書区分
総括
研究課題名
ウェアラブルICT技術と隣保制度を利用した健康増進プログラムの開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
黒田 知宏(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 野間 春生(立命館大学 情報理工学部)
  • 多田 昌裕(近畿大学 理工学部)
  • 松村 耕平(立命館大学 情報理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先進国共通の課題である国民総医療費の圧縮のためには、個人が健康リスクを低減する活動を推奨する必要がある。その具体的方法として、平成25年6月にとりまとめられた日本再興戦略や平成25年8月にとりまとめられた社会保障制度国民会議報告書等において、「ヘルスケアポイント」などの、健康作りに繋がるインセンティブ付与の仕組みの開発が課題として提示されている。
 本研究では、ウェアラブルICTを用いてゲーミフィケーションし、隣保制度を用いた新しい形態のインセンティブを提供することで、健康作りのきっかけを与えることが可能かどうかを検討する。
研究方法
 本研究では、申請者らが構築したウェアラブルICT機器を用いた行動履歴分析・収集システムを用いて、対象者の歩数を計測し、これにインセンティブを与えるイベントを行う、前向き並行群間比較対象研究を実施した。
 イベントは、2014年11月に実施し、参加者は5人一組、3人一組、個人参加のいずれかのコースに参加費を払って参加する。期間中の10日間に、それぞれ、200 km、120km、40kmの距離を歩いた場合に抽選に参加する権利を獲得するものとした。
 対象者は、長浜市国民健康保険被保険者である。対象者を、特定保健指導対象イベント参加群、特定保健指導非対象イベント参加群、特定保健指導対象イベント非参加群に分類し、それぞれ、群毎の健康増進行動の継続率、健康指標の改善率等を、イベント開始前、イベント終了後、イベント終了1ヶ月後、イベント終了3ヶ月後のアンケート、及び、イベント開始直前と終了直後の特定健診結果について比較した。
結果と考察
 申請者らは、まず実験環境として、携帯端末等のウェアラブルICT機器で得られる行動履歴情報から実際に歩いた歩数を計測する情報環境を構築し、その情報を「見える化」する情報環境を構築した。具体的には、Moves環境を用いて、スマートフォン上で行動履歴を歩行、走行、自転車、交通機関利用にわけて計測し、「歩行距離」のみを蓄積して見える化するシステムを構築した。このシステムを「てくペコ」と称する。
 申請者らは、このシステムを用いて、「隣保制度」を導入したイベント、「ながはま健康ウォーク」を行った。本企画では、予め少額の参加費を支払って参加したチーム全員が(グループ化)、一定期間内に目標歩数を達成した場合に賞品が当たるなどの報酬を与えるイベント(ゲーム化)を行う。具体的には10月中に募集を開始し、予め定めた10日間に5人で200km(1日1人4km)を完歩すれば、予め支払った600円の参加費と協賛団体からの協賛金で賄われる賞品が当たる抽選会の参加証を供与した。
 イベント参加者は、495名(5人組42チーム、3人組54チーム、個人参加85人)であった。参加者の完歩率は90%であり、特に5人組チームの完歩率は97.6%、未達成は1チームのみであった。
歩行履歴をプロットしたところ、チーム人数が多くなるにつれ、双峰性の履歴を描くことが明らかになった。更に詳細に評価を行なったところ、5人組チームでは、後半のある時点から、急激に歩行距離が伸びる参加者が一定以上発生していることが明らかになった。イベントの直前と直後のアンケートの比較からも、グループの仲間からの励ましが力になったとの回答が多く、隣保制度の導入は、効果的であったことが見て取れる。
次に、イベントによる行動変容について、直前・直後のアンケートの結果を示す。徒歩10分以内で行ける場所へ徒歩で行くようになったとの回答が10ポイント増えており、30%程度の人が行動変化したと答えている。

 イベント参加者の中には、既に日常から運動習慣を持っていた人々も多く参加していることから、30%程度の人が行動変容を起こしたことは、本実施イベントが、大変大きな効果を発揮したと解釈することが出来る。
 先行研究で指摘されていたとおり、効果の見える化とゲーミフィケーションが、行動変容を起こさせることに効果的に働くことが明らかになった。加えて、本研究で提案した、隣保制度の導入が、行動変容のきっかけ作りに極めて高い役割を果たすことが明らかになった。
 今後は、更にフォローアップを行っているアンケートについて分析することで、長期の効果が見られるかどうかを評価する必要がある。
結論
ウェアラブルICTと隣保制度を導入した健康増進プログラムの導入によって、日常生活の行動変容を起こさせることが可能であることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201439019C

収支報告書

文献番号
201439019Z