人工抗体ライブラリーの作製とその利用法の開発

文献情報

文献番号
199800448A
報告書区分
総括
研究課題名
人工抗体ライブラリーの作製とその利用法の開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 良和(藤田保健衛生大学総合医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、「臨床に役立つヒト抗体を単離し大量調製する」ことを目標に研究を行っている。その目標達成のために研究を二段階に分け、最初はそれをスクリーニングするだけで様々な抗原に対する抗体が必ず単離できる理想的なヒト抗体ライブラリーを作製すること、第二段階に抗ウイルス中和抗体、抗腫瘍特異抗体、抗毒素中和抗体を単離する。
研究方法
抗体ライブラリーはファージディスプレー系を用いて作製した。具体的にはFab型ヒト抗体がcpIIIタンパクと融合した形でファージ膜上に発現される。抗体遺伝子のソースとしては、Bリンパ球に富む数10名分に相当する扁桃、臍帯血、骨髄、末梢血を用いた。mRNA単離後、RT-PCRで増幅し、L鎖については数100クローンの塩基配列を決定し、大腸菌中での発現-folding-VHドメインとの会合が起るクローンを選別した。H鎖については巨大なVHDJH遺伝子ライブラリーを作製した。これを組み合わせて巨大なライブラリーを作製した。特定の抗原に対する抗体を得るにはpanning法を用いた。抗原をチューブに付着した後ファージ抗体ライブラリーを混合し、一定時間保温した後に数回洗浄し、最後にチューブに結合したファージ粒子を回収し、大腸菌に感染させる。この行程を数回繰り返すと回収されるファージ粒子の数が大幅に増加する。この段階で抗原に結合する抗体が濃縮したと判断し、ポリクローン抗体画分とした。それを更に大腸菌に感染させてプレートにまくとモノクローン抗体化される。個々のクローンの抗原結合力はELISA法で測定した。得られた抗体の性能はWestern blottingで調べた。
結果と考察
作製した抗体ライブラリーはVLJL遺伝子200種、10^9以上の独立したクローンからなるVHDJH遺伝子ライブラリーを組み合わせたもので、総計1,000億種の独立したクローンからなる。このライブラリーは数10名のヒト抗体レパートリーに相当し、万遍なく全ての発現された抗体遺伝子を覆っている。ライブラリー中の70%以上のクローンが正しくFab型抗体を発現している。この抗体ライブラリーを用いて20億種以上の抗原に対しスクリーニングしたところ、各々数10種類のモノクローン抗体を含むポリクローン抗体がファージ抗体として得られることが判明した。ファージ抗体は大腸菌に感染した後、ヘルパーファージを加えないで長時間培養するとFab型抗体がcpIIIタンパクに融合した形で分泌されてくる。得られた抗体の抗原結合力は10^6 - 5 x 10^7 M^-1に分布するものが多かった。得られたポリクローン抗体、及びモノクローン抗体をWestern blottingの試薬として用いると多くのタンパクの混合物でもback groundなしに標的抗原のみがsharpなbandとして検出された。抗原の検出限界は0.1~1ngであった。以上の結果は作製した抗体ライブラリーに含まれる抗体の性能は、従来の動物を免疫して得られる抗体と同等もしくはより優れていると判断できる。平成9-10年度の研究で本プロジェクトの第一段階は完了したと判断している。そこで具体的に抗ウイルス中和抗体、抗腫瘍特異抗体、抗毒素中和抗体を単離することを開始する。ウイルスとしては臨床でのニーズが高く、ウイルス粒子が入手し易く、ウイルス感染性を測定する系が利用可能なサイトメガロウイルスを予定している。腫瘍抗原としては既にマウスモノクローン抗体が単離され、抗腫瘍効果の認められる抗原についてヒト抗体を単離することから開始する。
結論
作製した1,000億個の独立したクローンからなるヒト型ファージ抗体ライブラリーは非常に優れた性能を持つことが判明した。スクリーニングによって得られる抗体は、従来の動物を免疫して得られる抗体より優れた性質を示す。そこで今後臨床に
役立つヒト抗体を抗原とする標的を選んで具体的に単離し、大量調製する。

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