人工免疫グロブリン等の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800447A
報告書区分
総括
研究課題名
人工免疫グロブリン等の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 善治(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 石井孝司(国立感染症研究所)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所)
  • 井原征二(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国には百万人以上ものHCVキャリヤーが存在し、さらにHCV感染と肝癌発症の相関が血清疫学的に証明されており、既感染者の発症予防やウイルスの排除法の確立が強く望まれている。非常に稀ではあるが、慢性C型肝炎からインターフェロン(IFN)等の治療なしに自然に治癒することがある。この様な例ではエンベロープ蛋白が哺乳動物細胞へ結合するのを阻止する抗体(結合阻止抗体)が高率に出現することから、この抗体がHCVの生体からの排除に重要な役割を演じていることが示唆された。そこで、この様な中和活性を持った人工免疫グロブリンを遺伝子組換え技術で大量に供給できれば、有効性や副作用等の問題の多いインターフェロン治療以外に未だ打つ手のない、C型肝炎対策に極めて有望な手段になるものと思われる。人工抗体はこれまでに、血小板凝集阻害剤や非ホジキン病の抗体医薬として有効であることが示されている。これらの抗体はヒトとマウスのキメラ抗体であり、繰り返しの使用はできなかった。そこで"キメラ抗体"でも"ヒト化抗体"でもないHCVの感染を中和できる"ヒト抗体"を作製し大量に供給できれば、HCV感染者にとって福音となると思われる。
研究方法
イムノタグを付加した HCV の E2 蛋白を恒常的に発現する細胞株を樹立し、培養上清中からの目的蛋白の精製を検討した。また、同様の手法を用いて、E1 蛋白を恒常的に発現している細胞株、および、E1 とE2 の両方を同時に発現する細胞株の樹立も試みた。動物細胞に効率よくHCV のエンベロープ蛋白及び T7RNA ポリメラーゼを発現できるバキュロウイルスおよび非増殖型アデノウイルスベクターを開発し、高感度細胞融合活性検出系を構築した。この系を用いてエンベロープ蛋白の細胞表面への結合だけでなく細胞融合を阻害できる抗体の検出を試みた。HCV 構造蛋白遺伝子を含む組換えバキュロウイルスを昆虫細胞に感染後、細胞抽出液ををショ糖密度勾配遠心し、電子顕微鏡下で VLP を観察した。目的抗体遺伝子をより効率的にクローニングするために、B 細胞に EBV を感染させ不死化細胞を樹立する方法を用いた。抗体陽性者の末梢血より B リンパ細胞を分画し、EBV を感染させ、目的抗体を分泌している陽性細胞群から RNA を抽出して RT-PCR で抗体ライブラリーを作成する。抗体分子は M13 ファージの第 lll 遺伝子産物と融合したかたちでファージ粒子面に発現するように設計してある。抗原に、抗体を発現している M13 ファージを結合させ、選択を繰り返し目的抗体を発現しているファージを濃縮する。最終の選択で残ったファージの各クローンをさらにスクリーニングをかける。
結果と考察
NOB 抗体のアッセイに多量に必要となる可溶型 E2 蛋白を発現し、精製する手段を確立した。本蛋白はC端に E-Tag の配列が付加されており、アフィニティカラムを用いて容易に精製することができ、しかも標的細胞への結合に関してもまったく影響を与えなかった。今後は同細胞の大量培養法を確立し、組換え NOB 抗体のスクリーニングに対応できる量の組換えエンベロープ蛋白を調製する。E2 蛋白は、ウイルス粒子中で E1 蛋白と結合していること考えられているため、E1 と E2 の両方を同時に発現する細胞株の樹立を今後進めていきたい。E1 と E2 の結合により、E2 単独で発現させる場合よりもより天然の HCV のエンベロープ蛋白に近い立体構造をとる可能性があることが考えられ、E1 と E2 の複合体は、CD81 と E2 の結合様式の詳細な解析にも応用することが期待できる。また、今回開発した非増殖型バキュロウイルス及びアデノウイルスベクターは、細胞傷害性が弱
いため、遺伝子の機能を長期間観察するのに適しており、 T7RNA ポリメラーゼを発現できる非増殖型ウイルスベクターは高感度細胞融合活性の検出に有力なツールとなった。これらのウイルスを用いた高感度細胞融合活性検出系により、ヒト肝細胞癌由来の HepG2 細胞に HCV のエンベロープ蛋白に結合し細胞融合を許容する分子が存在することが示唆された。今後この分子の解析を進めていく。また、組換えバキュロウイルスを用いてHCV VLP が産生されることが確認された。今後、各種組換えバキュロウイルスを細胞に共感染させ、効率よく構造蛋白が成熟し VLP が細胞外に放出される条件を検討していく。抗体遺伝子のクローニングで我々が直面している大きな問題点は、日本では血液が少量しか利用できないことにある。欧米では、10Lの血液から成分分離器でB細胞を精製したり、2Lの血液から RNA を調製した例が報告されているが、この規模のB細胞からは精製 mRNA が大量に得られ、大きなサイズの抗体ライブラリーが作製されている。しかし我々の環境では、抗体価の高い患者が見つかっても、最大で 30ml の血液しか得られず、ほとんどの場合は 10ml 以下であった。本年度の研究で、EBV 感染とファージディスプレイ法を組み合わせることにより、少量の血液でヒト抗体遺伝子のクローニングが可能であることが明らかとなった。
結論
HCV のエンベロープ遺伝子に抗体で認識可能なタグを付加した組換え遺伝子を作製し、この組換え蛋白を持続的に分泌発現できる細胞株を樹立した。T7RNA ポリメラーゼを発現できる非増殖型ウイルスベクターを作製して、高感度細胞融合活性検出系を構築した。この系でヒト肝細胞癌由来の HepG2 細胞に HCV のエンベロープ蛋白に結合し細胞融合を許容する分子が存在することが示された。HCVエンベロープ蛋白に対する結合活性を有する抗体クローンの二次評価系として HCV 粒子に対する結合能を検討した。ファージディスプレイ法を構築しヒト抗体作製を目指して研究を行ってきた。この系で、HCMV や HBs に抗体のヒト抗体の分離に成功したが、HCV NOB 関連抗体は得られなかった。しかし、問題点は一つ一つ解決している。今後も、臨床で使用できる強い中和活性を持つヒトモノクローナル抗体の作製を目的とした努力を続けてゆく。

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