MYCN遺伝子塩基配列特異的アルキル化による進行神経芽腫に対する新規薬剤開発に関する研究

文献情報

文献番号
201438127A
報告書区分
総括
研究課題名
MYCN遺伝子塩基配列特異的アルキル化による進行神経芽腫に対する新規薬剤開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
高取 敦志(千葉県がんセンター(研究所) がん治療開発グループ・がん遺伝創薬研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 渡部 隆義(千葉県がんセンター(研究所) がん治療開発グループ・がん遺伝創薬研究室 )
  • 篠原 憲一 ( 千葉県がんセンター(研究所) がん治療開発グループ・がん遺伝創薬研究室 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児悪性固形腫瘍の中で最も発生頻度の高い神経芽腫においては、全体の約3分の2が1歳以上で発生し、発見時にすでに病期が進行しているため集学的治療によっても未だ難治性で、現在もなおその長期無病生存率は40%にとどまっている。また、標準治療法と併用できる薬剤も少ないことから、アンメットメディカルニーズの高い腫瘍である。一方で、治療後の晩期合併症も問題となっており、治癒率向上を目指した新規治療法、特に晩期合併症の軽減が期待できる治療薬の開発が強く望まれている。
最近、千葉県がんセンター研究所では遺伝子配列特異的にDNAをアルキル化できる化合物を開発した。ピロール・イミダゾール・ポリアミド(PIP)はDNA塩基配列認識能に優れ、細胞に処理すると速やかに核内に集積する。そのPIPに配列特異的アルキル化能をもつインドールsecoCBIを標識することにより(PIP-secoCBI)、がん細胞に特異的な遺伝子領域のDNAを低用量でアルキル化することが可能となった。そこで本研究では、この技術を小児がん医療現場に届けるべく、MYCN遺伝子の特異的DNA配列を標的としたPIP化合物の最適化を図ることを目的としている。
研究方法
①PIP-secoCBI のデザインと合成
MYCN遺伝子領域において9 bp認識配列を持つPIP-secoCBI の設計を行った。また、設計したPIP-secoCBIについて、独自に改良した国産ペプチド合成機を用いて合成を行った。合成したPIPについてはHPLC/MSを用いて精製・分析を行った。
②培養細胞における生物活性の評価
合成・精製できた化合物による細胞増殖抑制および細胞死の誘導について、神経芽腫由来細胞(IMR-32、CHP-134、SK-N-BE(2)、NB1、NB9、Kelly、NB69、SK-N-AS)およびその他の細胞(MCF-7、MDA-MB-231、HT-29、SW-480、Dermal fibroblast)を用いて検討した。IC50の測定は、IncuCyte生細胞イメージングシステムおよびWST法によって得られた細胞生存率により行った。遺伝子発現量はリアルタイムPCR法により測定した。また、細胞死についてはフローサイトメトリーにより解析した。
③in vivo モデルマウスにおける評価
CHP-134細胞による担がんマウスを作製し、②で効果が認められた化合物の単回投与試験を行い、抗腫瘍効果の評価を行った。投与は静脈内に0.1 mg/kg 体重で行った。
結果と考察
(結果)
①PIP-secoCBI のデザインと合成
MYCN遺伝子領域のうちIntron 1を認識する化合物1、Exon 3を認識する化合物2および3を設計した。このうち化合物1および2の合成を行い、HPLC/MSを用いて精製・分析を行った。
②培養細胞における生物活性の評価
化合物1および2をIMR-32細胞およびDermal fibroblast細胞に処理し、IC50を求めたところ、化合物1に関してはIC50値の顕著な差が認められなかった。一方、化合物2の処理では、MYCN遺伝子の増幅を持たない神経芽腫由来細胞や神経芽腫以外の培養細胞に比べ、MYCN遺伝子の増幅を持つ神経芽腫由来細胞において著しく低いIC50値が得られた。また、化合物2の処理により、MYCN遺伝子の発現量の減少が認められた。神経芽腫由来細胞の化合物2の処理による細胞死はアポトーシスによることが明らかとなった。
③in vivo モデルマウスにおける評価
培養細胞で得られたデータをもとに、化合物2の腫瘍細胞増殖抑制効果について検討するため、CHP-134細胞による担がんマウスにおいて単回投与試験を行った。その結果、非常に低用量の単回投与であったにもかかわらず、有意な抗腫瘍効果が認められた。

(考察)
本研究課題において、MYCN 遺伝子特異性をさらに高めた9 bp を認識するPIP-secoCBI を設計した。そして、合成・精製した化合物の生物活性の評価を行ったところ、正常細胞やMYCN遺伝子増幅のない細胞に影響を与えることのない低用量で細胞増殖抑制効果をもつ化合物が得られた。また、担がんモデルマウスにおける単回投与試験において体重減少は認められず、低用量で抗腫瘍効果が認められた。
結論
本研究課題により、神経芽腫の重要ながん遺伝子であるMYCNを標的とした治療戦略が可能であるが示された。担がんマウスを用いた投与実験において、体重減少は認められなかったことから、毒性の少ない用量で薬理効果を得ることが可能であると考えられる。今後の研究では、実用化により近いPIP-secoCBI を得るために化合物の最適化を行い、非臨床POCを得た上で、非臨床安全性試験を実施していくことが必要であると考える。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438127C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究課題により、神経芽腫の重要ながん遺伝子であるMYCNを標的とした治療戦略が可能であることが示された。担がんマウスを用いた投与実験において、体重減少は認められなかったことから、今回得られたピロール・イミダゾール・ポリアミド化合物は毒性の少ない用量で薬理効果を得ることが可能であると考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究課題において、MYCN遺伝子の増幅がある進行神経芽腫に対して、正常細胞やMYCN遺伝子増幅のない細胞に影響を与えることのない極めて低い濃度で抗腫瘍効果をもつ候補化合物が得られた。今後、さらに薬理効果、薬物動態および安全性の評価を行う必要がある。
ガイドライン等の開発
健康危険情報等のガイドライン開発に関わる情報は特にない。
その他行政的観点からの成果
本研究課題で得られた候補化合物を最適化することにより、副作用の少ない新たな治療法の開発できれば、治療後のQOL向上につながり、小児がん経験者が一人でも多く健康な状態で復帰できる社会の構築に資する。
その他のインパクト
本課題はまず神経芽腫治療への応用を図る研究であるが、他の遺伝子への応用も可能であり、成功すれば様々ながん種への利用拡大が期待でき、その社会的波及効果は広範に及ぶものと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
第57回日本小児血液・がん学会優秀ポスター賞
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
2016-07-06

収支報告書

文献番号
201438127Z