希少がんである神経内分泌腫瘍の個別化医療開発に向けたがん抑制遺伝子 PHLDA3 の機能解析

文献情報

文献番号
201438122A
報告書区分
総括
研究課題名
希少がんである神経内分泌腫瘍の個別化医療開発に向けたがん抑制遺伝子 PHLDA3 の機能解析
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
山口 陽子(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究所 希少がん研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 大木 理恵子(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究所 希少がん研究分野 )
  • 山田 正三(公益財団法人 沖中記念成人病研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,846,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は希少がんであるヒトの神経内分泌腫瘍(NET)の症例解析とモデルマウスの作成を通してNETの治療と診断に貢献することである。
大木らはPHLDA3がp53標的遺伝子でありAktの抑制を介して肺NETのがん抑制遺伝子として働く事を明らかにした(Cell, 2009)。また膵NETにおいてもPHLDA3は高頻度なLOHを呈しPHLDA3のLOHをもつ膵NETは予後不良であることがわかった(PNAS, 2014)。このことからPHLDA3は様々な臓器のNETに共通のがん抑制遺伝子であることが考えられる。
本研究ではPHLDA3が膵NETの予後予測マーカーおよび薬剤選択の指標となるかを検討する。さらにPHLDA3欠損マウスとNETのがん抑制遺伝子であるMEN1欠損マウスとを掛け合わせNETのモデルマウスの作成を試みる。またヒト下垂体NETにおけるPHLDA3遺伝子異常を解析し下垂体NETの治療・診断の開発につながる結果を得る。
研究方法
①ヒト膵NETにおけるPHLDA3のLOHと予後及びエベロリムスの効果の関連の解析
②PHLDA3欠損マウスおける内分泌器官の異常の分析
③PHLDA3とMEN1の両遺伝子欠損マウスの作製と解析
④下垂体NETの収集
⑤収集したヒト下垂体NETにおける PHLDA3 遺伝子異常の探索
(倫理面への配慮)
研究機関の遺伝子組換え実験安全委員会、実験動物安全管理委員会の承認を得、法律および国立がん研究センター遺伝子組換え実験安全管理規程、国立がん研究センター実験動物安全管理規程、国立がん研究センターにおける動物実験に関する指針を遵守し実験した。さらに動物実験においては、動物愛護を十分に配慮した。がん組織における遺伝子解析にあたって疫学研究に関する倫理指針を遵守し倫理審査委員会の承認のもと研究を進めた。また個人情報保護法、疫学指針、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針を遵守した。これらのことから倫理面の問題はない。
結果と考察
【結果】
①ヒト膵NETにおけるPHLDA3のLOHと予後及びエベロリムスの効果の関連の解析
(a)膵NETにおいてPHLDA3のLOHが生じた患者の予後を予測できるか
(b)膵NETの治療に使われているAkt経路阻害剤エベロリムスの著効例とPHLDA3のLOHの有無が関連するか
(c)膵ランゲルハンス島(ラ島)の肥大が起こるPHLDA3欠損マウスにエベロリムスを投与しラ島の大きさの指標としてエベロリムスの効果を判定
a, b:症例数を増やして解析を進めた。
c:エベロリムス投与の条件検討を行った。
②PHLDA3欠損マウスおける内分泌器官の異常の分析
解剖時に各器官の観察を行い、異常が確認された器官のサンプルを収集した。
③PHLDA3とMEN1の両遺伝子欠損マウスの作製と解析
多くの膵NETでPHLDA3とMEN1のLOHが観察されたことからPHLDA3とMEN1の二重欠損マウスを作製した。
また当該マウスにおけるラ島の面積や膵NETのグレード判定に用いられるki67陽性率を解析した。当該マウスではPHLDA3単独欠損マウスと比較してラ島の肥大およびki67陽性率が高くなる傾向にあった。
④下垂体NETの収集
下垂体NETは産生するホルモンによって分類される。これまでに収集した検体と合わせGH産生型52例、PRL産生型12例、TSH産生型14例、ACTH産生型21例、GH産生型52例、非機能性60例を収集した。
⑤収集したヒト下垂体NETにおけるPHLDA3遺伝子異常の探索
収集したヒト下垂体NETについてa, bの解析を進めた。
(a)PHLDA3遺伝子のLOH やORF内の点突然変異があるか
(b)産生するホルモンによって分類される下垂体NETの種類にPHLDA3遺伝子異常が関連するか
【考察】
希少がんである膵NET検体を収集したことで膵NETの治療法開発に着実に近づいていると言える。さらにPHLDA3/MEN1欠損マウスの解析からこれらの遺伝子欠損が膵NETの悪性化に相加的に働く可能性が示され、本マウスが膵NETのモデルとなることが期待できる。
下垂体においてもPHLDA3ががん抑制的に機能すると考えられる結果がヒトおよびマウスから得られている。また特に希少なACTH産生型を21例、TSH産生型を含む下垂体NETを計159例収集しており、この様な稀な検体を含めた詳細な解析は下垂体NET治療法の開発を大きく推進すると考えられる。
結論
PHLDA3は肺や膵臓という複数のNETにおいてがん抑制的に機能するため、PHLDA3によるNET共通のがん抑制機構が存在すると考えられる。様々な器官に生じるNETを統合した解析が可能になれば、NET研究とそれに続く創薬や治療法の開発が加速すると予想される。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438122C

成果

専門的・学術的観点からの成果
PHLDA3/MEN1欠損マウスの解析を行った。その結果、本マウスではPHLDA3単独欠損マウスと比較してラ島の肥大およびki67陽性率が高くなる傾向にあり、両遺伝子の欠損が膵NETの悪性化に相加的に働く可能性が示された。このことから、本マウスが膵NETのモデルとなることが期待される。また、下垂体においてもPHLDA3ががん抑制的に機能すると考えられる結果がヒトおよびマウスから得られており、PHLDA3が多器官に生じるNETのがん抑制遺伝子である可能性が示された。
臨床的観点からの成果
膵NETにおいてPHLDA3のLOHが生じた患者の予後を予測できるか、膵NETにおけるAkt経路阻害剤エベロリムスの著効例とPHLDA3のLOHの有無が関連するかを、症例数を増やして解析を進めた。また下垂体NETについて、特に希少なACTH産生型、TSH産生型を含む下垂体NETを計159例収集し、解析を進めた。希少がん検体の収集とその詳細な解析は、希少がん治療法の開発を大きく推進すると考えられる。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
該当なし。
その他のインパクト
Proc Natl Acad Sci USAに論文を発表し、論文の内容が、国立がん研究センターホームページ、マイナビニュース、m3.com、日刊工業新聞、medical tribune、yahoo newsで取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
移植材料及びその調製方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願 2014-107529
発明者名: 大木理恵子、角昭一郎、坂田直昭
権利者名: 京都大学、東北大学
出願年月日: 20140523
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Rieko Ohki, Kozue Saito, Yu Chen, et al.
PHLDA3 is a novel tumor suppressor of pancreatic neuroendocrine tumors
Proceedings of the National Academy of Siences of the United States of America , 111 (23) , E2404-E2413  (2014)
10.1073/pnas.1319962111

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201438122Z