肺がんにおける薬物排出トランスポーターの分子基盤研究によるがん幹細胞の性状解析と分子標的治療薬耐性についての研究

文献情報

文献番号
201438117A
報告書区分
総括
研究課題名
肺がんにおける薬物排出トランスポーターの分子基盤研究によるがん幹細胞の性状解析と分子標的治療薬耐性についての研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
片山 量平(公益財団法人がん研究会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行肺がんの薬物療法は、近年になりEGFR活性化型変異や融合遺伝子などのDriver Oncogeneの発見と分子標的治療薬の登場により大きな変化を遂げている。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)などの分子標的薬は適切な対象症例では顕著な奏功を示すことが多い。しかし1年程度で耐性腫瘍が出現することが大きな問題である。その耐性機構として遺伝子変異や側副経路の活性化など様々な耐性機構が明らかになってきているが、依然多くの症例において耐性のメカニズムは不明である。また耐性腫瘍の出現は、腫瘍内に治療前から遺伝子変異等を有する耐性細胞がわずかに存在しているという可能性と、治療薬抵抗性の性質を有し造腫瘍性が高いとされるがん幹細胞(CSC)が存在する為という可能性等が考えられている。本研究では、CSCに過剰発現するとされる薬物排出トランスポーター(D-TPT)に着目し、肺がんにおける分子標的治療薬感受性・抵抗性とD-TPT, CSCの関係について明らかにすることを目的とする。さらにD-TPT阻害薬併用療法等を探索し治療への応用を目指す。
研究方法
(1)各Driver Oncogene変異(EGFR遺伝子変異、ALK融合陽性など)陽性肺がんを用い、各分子標的薬(TKI)への耐性細胞株を培養条件およびXenograftモデルで複数樹立し、遺伝子変異や他の増殖シグナルの活性化とともに薬物排出トランスポーター(D-TPT)を介した耐性について調べる。また、D-TPTのレンチウィルスベクターを作成し、過剰発現させた細胞株を作成し、各TKIの感受性を検討する。

(2)患者検体(未治療・既治療:現在合計約20例)から細胞株の樹立と一部Xenograftの作成を行うとともに、D-TPTの過剰発現について検討する。腫瘍細胞を豊富に含む胸水検体からは、D-TPTを過剰発現している細胞集団の有無をフローサイトメトリーにより確認する。また、各患者検体における分子標的薬耐性機構を検索する。

(3)D-TPT高発現細胞集団の有無とそれらのがん幹細胞としての性状を解析する。

(4)D-TPTの免疫染色法を確立し、既保存検体(FFPE保存臨床検体等)を用いてD-TPT過剰発現の有無を検索する。
結果と考察
(1)細胞株を用いたD-TPTによるTKI耐性の検討:
まず薬剤耐性とがん幹細胞に深く関与するとされるあるD-TPT-Aのレンチウィルベクターの作製に成功し、EGFR変異陽性肺がん細胞株,ALK融合遺伝子陽性遺伝子陽性肺がん細胞株を用いて恒常的発現株を作成し、複数の従来の細胞障害性抗がん剤に対する強い抵抗性を確認した。さらに各種分子標的薬への感受性を検討した結果、薬剤よっては10倍以上の耐性を示すようになるものもあった。

(2)患者検体を用いたD-TPTの発現の検討とTKI感受性等との相関の解析:
公益財団法人がん研究会 臨床研究倫理審査委員会において承認された研究計画に則り、同意取得済み患者の検査・診療時の残余検体からの細胞株の培養に比較的高確率で成功し、耐性検体由来のものについてはその耐性機構を検索した。その結果、ALK陽性肺がん検体では新たな耐性変異を含めた新規耐性機構の同定に成功した。TKI治療前およびTKI治療後の検体から合わせて30以上の細胞株の樹立に成功した。

(3)D-TPTの発現とがん幹細胞性の解析:
 これまでの検討の結果、特にD-TPT発現の有無と造腫瘍性の関係は見られなかった。しかし、D-TPT過剰発現する細胞株では、あるTKIに対して顕著な治療抵抗性を認めた。今後治療前臨床検体におけるD-TPT高発現細胞の存在を検索し、発見した際にはD-TPTの発現とがん幹細胞性についてさらに検討する。

(4)D-TPTの免疫染色法の確立と保存検体を用いたD-TPT発現の検討:
 まずはFFPEの切片を用いたD-TPT-Aの免疫染色法(IHC)の確立を、がん研究会 竹内賢吾博士のご協力の下検討し、染色法の確立に成功した。そこで、ALK陽性のTKI未治療の保存検体(Tissue Micro Array)を用いて免疫染色法による検討を行った結果、D-TPT-A陽性症例は認められなかった。今後症例数を拡大した上で検討する予定である。
結論
 平成26年7月に開始した本研究では、肺がんにおけるTKI等の分子標的薬耐性機構、D-TPTの発現の解析、そして、TKI耐性とD-TPTと耐性との関係についての解析が順調に進行し、新たに分子標的薬耐性機構としてのD-TPTの関与を示唆することができた。今後より詳細にがん幹細胞性等との関係や、D-TPTによる分子標的薬の耐性克服方法の発見をめざし、研究を継続し推進していく。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438117C

収支報告書

文献番号
201438117Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,164,102円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 835,898円
間接経費 0円
合計 5,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-