大腸がんの単一細胞レベルでの発現解析を通した治療抵抗性獲得機構の解明

文献情報

文献番号
201438116A
報告書区分
総括
研究課題名
大腸がんの単一細胞レベルでの発現解析を通した治療抵抗性獲得機構の解明
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大畑 広和(国立がん研究センター研究所 がん分化制御解析分野)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 護(国立がん研究センター研究所 がんゲノミクス研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
不均一な集団中に少数存在する細胞群の特性の有力な解析法として、シングルセル解析法が脚光を浴びつつある。近年研究代表者は、ヒト大腸がん検体より、無血清培地を用いたスフェロイド培養法により、がん幹細胞の特質を有する細胞の樹立に成功した。これらの細胞を免疫不全マウスの皮下に移植する事により、原発大腸がんと類似の腫瘍を再現性よく再構成する事が可能である。本研究は、シングルセル解析法を、ヒト大腸がん幹細胞を用いたマウス移植腫瘍の解析に応用し、大腸がん組織の多様性を明らかにする事、更には抗がん剤治療抵抗性を与える遺伝子群を解明する事を目的としたものである。
 本研究の期待される成果として、大腸がんをモデルとした難治がんの抗がん剤に対する治療抵抗性の本態を明らかにする事、更には難治がんの根治をめざした革新的な治療法開発に大きく貢献する事が期待される。このようにして得られた成果は、革新的がん医療実用化研究事業が目指す、がんの本態解明の研究、とりわけ難治性がんを対象とし個々の特性に着目した研究、臨床現場から得られる試料・情報をもとにがんの臨床的特性の分子基盤の解明へ向けた研究と軌を一にするものである。将来的には、これらの研究はがん克服をめざした橋渡し研究につながるものと期待され、難治がんの治療法開発を通じて、がん医療の実用化を目指した研究への波及効果が期待できる。
研究方法
研究代表者が樹立したヒト大腸がん検体由来がん幹細胞を免疫不全マウスに移植する事により、原発大腸がんと類似の腫瘍を再現性よく再構成する事が可能である。初めに、大腸がん組織を構成する細胞をプロファイルするため、フローサイトメトリーを用いて(FACSAria、BD Biosciences)、マウス移植腫瘍より単一腫瘍細胞を単離し、幹細胞及び分化細胞に特徴的な40~50遺伝子の定量PCRを施行した(Biomark HD、Fluidigm)。次に、抗がん剤に抵抗性を示す細胞を同定するため、担がんマウスに対して、大腸がんの標準的治療薬であるイリノテカンの腹腔内投与による抗がん剤治療を施行した。イリノテカン投与前後でシングルセルを単離し、定量PCRを行った。研究分担者の加藤護先生の協力の下、得られたシングルセル遺伝子発現データを標準化し、クラスタリング法と主成分分析を用いて総合的に判断し、各細胞の分類および多様度の評価を行った。
結果と考察
大腸がん組織を構成する細胞をプロファイルするため、フローサイトメトリーを用いて、ヒト大腸がん幹細胞由来マウス移植腫瘍より単一腫瘍細胞を単離し、幹細胞及び分化細胞に特徴的な40~50遺伝子の定量PCRを施行した。得られたシングルセル遺伝子発現データを標準化し、クラスタリング法と主成分分析を用いて総合的に判断した結果、大腸がん幹細胞は2群に分かれ、それらがSOX2陽性、及びLGR5陽性のがん幹細胞に対応する事が明らかとなった。次に、抗がん剤に抵抗性を示す細胞を同定するため、担がんマウスに対して、大腸がんの標準的治療薬であるイリノテカンの腹腔内投与による抗がん剤治療を施行した。その結果、イリノテカンを100mg/kg/mouse、2回/週の条件で、計4回腹腔内投与する事により、大部分の腫瘍内がん細胞が死滅する事を確認した。イリノテカン投与前後の移植腫瘍から単離した単一腫瘍細胞を用いて定量PCRを施行後、シングルセル解析を行った結果、2種類の大腸がん幹細胞のうち、LGR5陽性細胞に比べてSOX2陽性細胞がよりイリノテカンに耐性を示す事が明らかとなった。今後は、抗がん剤耐性を規定する遺伝子およびシグナルパスウェイを明らかにするため、網羅的な遺伝子発現解析等を行うことにより、治療抵抗性の本態を明らかにし、難治がんの根治を目指した革新的な治療法開発の基盤を構築したい。
結論
当該年度の解析により、大腸がん組織にはSOX2陽性、及びLGR5陽性の少なくとも2種類のがん幹細胞が存在する事が明らかとなった。また、LGR5陽性細胞に比べて、SOX2陽性細胞が抗がん剤治療に対して、より強い耐性を示す事が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438116C

収支報告書

文献番号
201438116Z