微小血管ネットワークを可視化する光音響画像化技術を用いた前立腺がん検出システムの開発

文献情報

文献番号
201438113A
報告書区分
総括
研究課題名
微小血管ネットワークを可視化する光音響画像化技術を用いた前立腺がん検出システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
石原 美弥(防衛医科大学校 医用工学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 堀口 明男(防衛医科大学校 泌尿器科学講座)
  • 新本 弘(防衛医科大学校 放射線医学講座)
  • 津田 均(防衛医科大学校 病態病理学講座)
  • 浅野 友彦(防衛医科大学校 泌尿器科学講座)
  • 平沢 壮(防衛医科大学校 医用工学講座)
  • 辻田 和宏(富士フイルム株式会社R&D統括本部 メディカルシステム開発センター )
  • 入澤 覚(富士フイルム株式会社R&D統括本部 メディカルシステム開発センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
32,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
前立腺がん診断において,前立腺特異抗原(PSA)を用いたスクリーニング陽性後に実施する確定診断のための経直腸的超音波断層法(TRUS)ガイド下の生検の確度を向上させるために光音響画像診断を適用することを本研究の目的としている。光音響画像化技術は,光と超音波の特長を併せ持つ新しい画像診断技術として世界的に注目されている。従来のモデリティでの実現が難しいcmオーダーの深さで造影剤などを使わずに非侵襲的に微細な血管網が画像化できる新しい画像診断ツールとして期待されているが,未だに医療機器として世界で例がない。本研究では,患者に優しい前立腺がん診断を目指して,医師主体の臨床研究を実施し,世界に先駆けて光音響画像を用いた前立腺がん診断の有用性を検証した。
研究方法
光音響画像化技術の開発として,外来や検査室,手術場に持ち込むことができて,非侵襲的に簡便かつ実時間で微細な血管網が画像化できるプロト機を構築し,経直腸的に画像が取得できる世界で唯一の経直腸用光音響プローブを開発した。すでに前立腺組織内微小血管の局在を的確に診断可能であることを実証している。本研究では前立腺がん組織は周囲の正常前立腺組織と比べて血管密度や血管構築が異なることに着目し,正常前立腺組織との微小血管や血管構築の違いをランドマークとすることで前立腺がんの局在診断能を向上しうると考えた。すなわち,PSAを用いたスクリーニングの普及によって臨床症状を伴わない臓器限局性の前立腺がんが増加傾向にある。臨床的に遭遇しやすい腫瘍は結果的に径10 mm前後の小径であることが多いため,生検の確度を向上させることが出来る解像度が高い画像化技術として光音響画像化技術が期待できる。
 そこで,臨床的に前立腺癌が疑われ,前立腺生検前に骨盤MRIを施行された症例を対象とした医師主体の臨床研究として防衛医科大学校倫理委員会の承認を得て実施した。現状の画像モダリティーの中で,前立腺癌の局在診断に最も優れているMRI画像所見と光音響画像所見との照合によって,より精度の高い局在診断が可能であると予測し,経直腸用光音響プローブで撮像された前立腺横断像を後ろ向きに評価し,生検前に施行されたMRI画像と比較した。加えて,前立腺癌が描出されたと判断された症例において,得られた病理標本を用いて抗CD 31抗体と抗S 100抗体を用いた二重免疫染色を実施した。
 装置開発面では,経直腸用光音響プローブの改良試作ならびにその評価を行った。
結果と考察
経直腸的光音響画像は経直腸的超音波画像と重畳できた。MRIによって腫瘍の局在診断が可能な症例において光音響画像で周囲の正常組織と異なるシグナルが検出された。MRIで前立腺体部腹側に典型的なT2低信号域が認められる症例で光音響画像では特徴的な所見は認められない例があった。生検で確定したがMRIで検出されない症例で光音響画像で検出できた例があった。これらの結果は今のところ腫瘍の大きさやステージとの相関が得られていない。更に症例数を蓄積し,臨床試験のプロトコルにつなげていきたい。
 病理標本の辺縁域の腫瘍並びに非腫瘍における微小血管密度の測定結果では,光音響高信号を示した腫瘍の領域では対照の非腫瘍領域よりも有意に微小血管密度が高く,光音響高信号と微小血管の密度が関連することが示唆された。
 細径に改良した経直腸用光音響プローブでは,当初設計したような広い視野角が得られていること,細径化により感度やコントラストの低下はなく,ペネトレーション深度,距離分解能,方位分解能についても評価できた。加えて,光音響画像実用化のための医療機器GLP省令に準拠した安全性試験として,光音響画像撮像装置独自の部材でかつ使用が必須である照明用窓材について生物学的安全性を明らかにした。
結論
前立腺癌の局在診断に有用な光音響画像化技術の確立を目指して研究を推進した。本研究では,我々が独自に開発した経直腸用光音響プローブにより前立腺組織内の光音響信号を観察した。今後の症例集積が必須であるが,光音響画像はMRIに対して相補的な役割を果たし,より少ない検体数での癌検出率の向上の可能性,すなわち患者に優しい前立腺がん診断実現の可能性があると考えられた。本研究では,検査室,手術室に持ち運び,いずれも現行の検査や手術に負担のない短時間で出来ることを確認した。光音響画像化技術による前立腺癌診断のために世界に先駆けて開発した経直腸用光音響プローブの有用性が示された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438113C

収支報告書

文献番号
201438113Z