がん認識抗体と遺伝子導入T細胞によるがん治療を目指した前臨床開発研究

文献情報

文献番号
201438103A
報告書区分
総括
研究課題名
がん認識抗体と遺伝子導入T細胞によるがん治療を目指した前臨床開発研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
玉田 耕治(山口大学大学院医学系研究科免疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 中面 哲也(国立がん研究センター 早期・探索臨床研究センター免疫療法開発分野)
  • 北野 滋久(国立がん研究センター 早期・探索臨床研究センター先端医療科)
  • 吉村 清(国立がん研究センター 早期・探索臨床研究センター免疫療法開発分野)
  • 佐藤 暁洋(国立がん研究センター 早期・探索臨床研究センター臨床試験支援室)
  • 植村 靖史(国立がん研究センター 早期・探索臨床研究センター免疫療法開発分野)
  • 尾崎 雅彦(国立がん研究センター 東病院治験管理室治験事務局)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
92,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、難治性がんである肝細胞がんに対する効果的治療法の開発を最終的な到達目標とし、「がん認識抗体と遺伝子導入T細胞を組み合わせた次世代がん免疫療法」のfirst in human 医師主導第Ⅰ相臨床試験開始に向けた前臨床研究を実施することが目的である。本研究の基盤技術であるFITC認識CAR-T細胞システムは研究代表者の玉田らにより開発されたものであり、既に特許申請済である。また、標的蛋白となるglypican-3(GPC3)は肝細胞がんに特異的に発現する抗原として研究分担者の中面らによって同定されたものであり、がんワクチンを含む臨床研究が進められている。本研究では、FITC標識した抗GPC3抗体とFITC認識CAR-T細胞を作製し、その組み合わせによる画期的ながん免疫療法の臨床応用のために必要となる前臨床研究を実施する。
研究方法
「FITC認識CAR-T細胞を利用したがん免疫療法の開発」に関わる事業として、1.FITC認識CAR配列における一本鎖抗体部分のヒト化、2.FITC認識CAR発現ウイルスベクター株の同定、3.FITC認識CAR発現ウイルスベクター産生のマスターセルバンク候補株のスクリーニング、4.ヒトT細胞におけるFITC認識CARベクター導入プロトコールの最適化を実施した。また「肝細胞がんに対する標的抗体の開発」に関わる事業として、5.膜型GPC3を認識する新規抗GPC3抗体の作製を実施した。
結果と考察
1.CAR-T細胞療法の臨床応用では、安全性および免疫原性の観点から、がん患者T細胞に遺伝子導入するCAR配列をヒト化する必要がある。そこで、抗FITC一本鎖抗体部分について、FITC認識に重要なCDR領域のみを残し、それ以外のフレーム部分をヒト由来配列に置換した。様々なヒト由来フレームの組み合わせにより、計25種類のヒト化配列候補を合成し、その発現およびFITC結合性を測定した。発現率および結合活性の高い上位3つのヒト化抗FITC-CAR配列を同定した。
2.ヒト化したFITC認識CAR配列をレトロウイルス発現ベクターに組み込み、遺伝子導入用レトロウイルスを作製した。これをヒト末梢血T細胞に感染させ、その発現を確認した。また、誘導したFITC認識CAR-T細胞をFITC付加した抗体にて刺激し、その反応性を確認するとともに、未刺激時の自己活性について検討した。その結果、T細胞での発現効率が高く、自己活性を持たないFITC認識CAR発現レトロウイルスベクターを同定した。
3.同定されたFITC認識CAR発現レトロウイルスベクターについて、それを産生するプロデューサー細胞から、限界希釈法にてクローンを作製した。各クローンからのウイルス産生量を測定し、3つのFITC認識CAR発現ウイルスベクター産生のマスターセルバンク候補株を樹立した。
4.山口大学および国立がん研究センターの研究室において、臨床応用において重要となるヒトT細胞を用いたCAR-T細胞の導入および発現の確認実験を実施した。それぞれの施設で再現性のある発現データが得られ、最適なSOP(standard operating procedure)を確立した。
5.抗GPC3抗体の樹立とそのヒト化、FITC標識した抗体のGMP産生に向けて、1)ヒト膜型GPC3蛋白質を免疫したマウスから細胞融合法によりハイブリドーマを樹立する方法、2)抗体遺伝子ライブラリーを用いたファージディスプレイ法、さらに、3)ナイーブ抗体ライブラリーを含むRNAディスプレイ法の3種類の方法により、膜型GPC3に特異的に結合する抗体作製を試みた。ヒトGPC3はマウスGPC3に高い相同性を有しているため、1)の方法では膜型GPC3に対する抗体は得られなかった。現在、2)、3)の方法で膜型GPC3特異的抗体の作製を実施中である。

FITC認識CAR-T細胞の誘導および臨床応用に必要となる、抗FITC一本鎖抗体部分のヒト化、FITC認識CAR発現ウイルスベクター株の同定、ウイルスベクター産生マスターセルバンク候補株の樹立、ヒト活性化T細胞での遺伝子導入のSOP確立に関しては、当初の予定通りに進捗している。抗GPC3抗体の樹立については、通常の免疫方法にて得られた抗体が膜型GPC3を認識しなかったため、その問題点を解決するような手法に変更して抗体作製を実施する。
結論
FITC認識CAR-T細胞とFITC標識した抗GPC3抗体の組み合わせによる、肝細胞がんに対する画期的ながん免疫療法の臨床応用を目指して、FITC認識CARベクターのヒト化、発現ウイルスベクター株の同定、発現ウイルスベクター産生候補株の樹立、ヒトT細胞への遺伝子導入法SOPの確立をおこなった。また、膜型GPC3に対する抗体の作製に取り組んだ。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438103C

収支報告書

文献番号
201438103Z