文献情報
文献番号
201438041A
報告書区分
総括
研究課題名
乳癌に対する術前薬物療法における治療戦略研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
向井 博文(国立がんセンター東病院 乳腺・腫瘍内科)
研究分担者(所属機関)
- 穂積 康夫(自治医科大学 医学部 外科学 一般外科部門)
- 藤井 誠志(国立がん研究センター東病院 臨床腫瘍病理分野)
- 山下 聡(国立がん研究センター 研究所 エピゲノム解析分野)
- 山口 雄(武蔵野赤十字病院 腫瘍内科)
- 上村 夕香理(東京大学医学部附属病院臨床研究支援センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HER2陽性乳癌における術前薬物療法は、患者ごと一律に同じ治療が行われており、使用する薬剤も投与期間も決まった通りに行われているのが現状である。しかしながら、患者ごとに癌の生物学的特性、薬物に対する反応は異なっている。したがって、治療途中で癌の生検を行い薬剤に対する腫瘍の生物学的反応に基づいて薬剤の変更を行うことで、治療効果を高める事が可能かどうかを検討する。治療途中の生物学的反応として、乳がん領域において予後因子としてのデータが豊富なKi-67値を用いた。また、治療前、治療中、治療後(手術時)の検体を用いてトラスツズマブの新たな効果予測マーカーの探索、治療奏効性・不応性の分子基盤の解明も並行して行う(Translational Research:TR)。
研究方法
本研究は前向き多施設共同ランダム化第Ⅱ相試験である。標準治療であるトラスツズマブ+パクリタキセル療法を4コース行う群と、Ki-67 based治療群の治療効果を比較する。プライマリーエンドポイントは病理学的完全奏効割合である。Ki-67 based治療群では、1コース目はトラスツズマブ+パクリタキセル療法を行い、原発巣から癌組織を採取し、Ki-67値を測定する。その値が治療前と比較して良好な低下を示した場合はトラスツズマブ+パクリタキセル療法を3コース行い、良好でない低下を示した場合はエピルビシン+シクロホスファミド+トラスツズマブ療法を3コース行うように治療を変更する。TRにおいては、治療前、治療中、治療後(手術時)の検体を、次世代シークエンサーを用いて体細胞突然変異、エピゲノム解析、遺伝子発現解析を行い、トラスツズマブの新たな効果予測マーカーの探索、治療奏効性・不応性の分子基盤の解明を行う。解析に用いる検体は、分子生物学的解析に適したPAXgene Tissue Systemを用いて採取・保存を行っている。さらに、癌組織検体はLeica7000を用いてLaser microdissection (LMD)を行い、癌細胞のみならず間質細胞においても検討を行う。
結果と考察
本研究は2011年にがん研究開発費を用いて開始され、2014年度から厚生労働科学研究委託費を用いて研究が継続されている。当初は2014年12月までに目標症例数200例を集積する予定であったが、患者集積スピードが計画を上回る進捗で推移したため、統計学的な検出力を十分に確保するため目標症例数を300例とした。2015年2月1日までに208人が登録されており、症例登録スピードは順調である。
HER2陽性乳癌24例を対象として、次世代シークエンサーを用いてHER2陽性乳癌の分子生物学的特徴の同定を行った。その結果、がんの増殖シグナル経路は遺伝子変異のみならず、エピジェネティックな異常も頻繁に認められる事が判明した。(Oncology. 2015 Jan 14.)。また、LMDを行っていない組織検体を用いてトラスツズマブの効果予測マーカーの探索も行っており、見つかった候補マーカーは、登録症例の別コホートを用いてValidationを行った。結果は近日中に論文化予定である。術前化学療法前後で乳房温存可能率がどの程度向上するのかを検討する外科的付随研究が2015年2月から開始している。治療途中で組織採取することは、海外の研究では稀に行われることがあるが、それらはすべてTR目的に限っている。本研究の特色は、治療途中の癌の生物学的な反応をKi-67により評価し、それにより治療内容を変更するという点であり、このような前向きのランダム化比較試験は世界でも行われていない。本研究により有望な結果が得られれば、新規薬剤を導入することなく、治療戦略の見直しのみにより治療の有効性が向上し、新たな形の個別化医療を提示する事が可能である。
本研究のTR用の検体は、新鮮凍結保存と同程度のDNA・RNA精製が可能なPAXgene Tissue Systemによって採取、保存されており、非常に質の高い検体といえる。その検体に対してLMDを行い、癌部と間質部を分けて解析する点も特徴的であり、腫瘍浸潤リンパ球浸潤などの検討を合わせて行うことにより、腫瘍免疫のメカニズム解明に寄与するであろう。
HER2陽性乳癌24例を対象として、次世代シークエンサーを用いてHER2陽性乳癌の分子生物学的特徴の同定を行った。その結果、がんの増殖シグナル経路は遺伝子変異のみならず、エピジェネティックな異常も頻繁に認められる事が判明した。(Oncology. 2015 Jan 14.)。また、LMDを行っていない組織検体を用いてトラスツズマブの効果予測マーカーの探索も行っており、見つかった候補マーカーは、登録症例の別コホートを用いてValidationを行った。結果は近日中に論文化予定である。術前化学療法前後で乳房温存可能率がどの程度向上するのかを検討する外科的付随研究が2015年2月から開始している。治療途中で組織採取することは、海外の研究では稀に行われることがあるが、それらはすべてTR目的に限っている。本研究の特色は、治療途中の癌の生物学的な反応をKi-67により評価し、それにより治療内容を変更するという点であり、このような前向きのランダム化比較試験は世界でも行われていない。本研究により有望な結果が得られれば、新規薬剤を導入することなく、治療戦略の見直しのみにより治療の有効性が向上し、新たな形の個別化医療を提示する事が可能である。
本研究のTR用の検体は、新鮮凍結保存と同程度のDNA・RNA精製が可能なPAXgene Tissue Systemによって採取、保存されており、非常に質の高い検体といえる。その検体に対してLMDを行い、癌部と間質部を分けて解析する点も特徴的であり、腫瘍浸潤リンパ球浸潤などの検討を合わせて行うことにより、腫瘍免疫のメカニズム解明に寄与するであろう。
結論
本試験は、患者集積、TRともに順調に推移しており、成果も出始めている。このまま継続すれば今後も多くの成果が得られると考える。得られた結果は、国際学会での発表、論文化しハイレベルな国際ジャーナルへの投稿をすみやかに行っていく。今後も計画に沿った患者集積・TRが達成できるように研究グループを運営し、新たな付随研究の立案・実施も積極的に行っていく予定である。
公開日・更新日
公開日
2015-09-14
更新日
-