吸収性スペーサーを用いた体内空間可変粒子線治療の有用性と安全性の検討

文献情報

文献番号
201438030A
報告書区分
総括
研究課題名
吸収性スペーサーを用いた体内空間可変粒子線治療の有用性と安全性の検討
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 良平(神戸大学医学部附属病院 放射線腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 福本 巧(神戸大学 大学院医学研究科 肝胆膵外科学分野)
  • 山田 滋(放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター病院)
  • 村上 昌雄(獨協医科大学 医学部 放射線治療センター)
  • 不破 信和(兵庫県立粒子線医療センター)
  • 具 英成(神戸大学 大学院医学研究科 肝胆膵外科学分野)
  • 出水 祐介(兵庫県立粒子線医療センター)
  • 秋末 敏宏(神戸大学 大学院保健学研究科)
  • 根本 建二(山形大学 医学部 放射線腫瘍学講座)
  • 秋元 哲夫(国立がん研究センター東病院 粒子線医学開発分野)
  • 櫻井 英幸(筑波大学 医学医療系 放射線腫瘍学)
  • 中村 達也(脳神経疾患研究所 南東北がん陽子線治療センター)
  • 岩田 宏満(名古屋市立大学 医学系研究科 放射線医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生体親和性吸収性手術糸を不織布に加工した吸収性スペーサーを外科的に留置し、粒子線治療の期間のみ腫瘍と近接臓器との間に距離を確保する体内空間可変粒子線治療法を開発し、その安全性と有用性を検証する。
研究方法
(以下、ポリグリコール酸:PGA、ポリ乳酸:PLA、スペーサー治療研究会:ス研究会)
i) PGAスペーサーに関する技術開発: a. 留置部位に関する安全性の検証、b. 吸収速度の制御方法、c. 癒着軽減方法の3項目に分けて検討した。(この概要ではi)-cはiii)-bにまとめて記載した)
ii) PGAスペーサーの有効性・安全性に関する臨床的な考察:a.臨床治験の実施、 b.ス研究会での外科手技の標準化と適応判断、c.ス研究会での粒子線治療の適応拡大と標準治療法の確立の3項目に分けて検討した。
iii) 次世代型・体内吸収性スペーサーの開発:a.腹腔鏡で挿入可能な圧縮型PGAスペーサーの試作、b. 新素材、新形状の吸収性スペーサーの開発の2項目に分けて検討した。
結果と考察
i)-a.留置部位に関する安全性の検証:ブタを用い、正中腹壁と間膜を切開して胃と膵臓との間隙に10mm厚のPGAスペーサーを挿入した。挿入がスムースに行えること、密着性が良好であることを確認し第一目標を達成した。ヒトでの挿入部位を考慮し、肝臓と十二指腸との間隙への挿入等についても検討する。ラットを用い、PGAスペーサーを腹壁直下に埋植して癒着について検討した。埋植後2、4及び6週において腹壁側と腹腔側(腸管側)の癒着に殆ど差異を認めず、時間経過につれて癒着の程度が軽度軽減することが確認された。
i)-b.吸収速度の制御方法:密度3種類のスペーサーを埋植したラット実験において密度依存的に吸収速度が遅くなることが判明したことから、密度設定により生体内残存期間を制御できることが示唆された。
ii)-a.臨床治験の実施:厚み保持が最長8週間必要であると判断し、PGAスペーサーの密度を0.2 g/cm3に決定した。厚みは5, 10及び15mmとし、個々の症例の状況によってこれらを選択/併用することとした。臨床試験は倫理委員会にて既に承認され、症例登録を開始している。
ii)-b.ス研究会での外科手技の標準化と適応判断: H26.8.29(第1回班会議)では全国9つの粒子線癌治療施設、大学・病院より外科医、放射線腫瘍医等50名以上が参加し活発な意見交換を行なった。H27.2.21(第2回班会議)では特に外科手技に焦点を絞り検討した。多くの議論がなされ問題点の抽出と今後の課題が明確になった。ゴアテックスシート(非吸収性)をスペーサーとして使用した神戸大学96例の解析結果と考察は福本らの報告書を参照されたい。これまでの非吸収性スペーサーの経験を踏まえ、5例の症例選択では脊索腫などの骨盤腫瘍を中心とし、直腸癌局所再発などの腸管切除・吻合を実施する可能性を含む症例は今後の課題としたい。
ii)-c.ス研究会での粒子線治療の適応拡大と標準治療法の確立:2回のス研究会(H26.8.29、H27.2.21)にて各施設のスペーサー治療の現況が報告され、問題点の抽出と今後の課題が明確になった。スペーサーを用いることにより、従来は適応外であった症例に対しても粒子線治療が可能となり良好な治療結果を得られること、肝細胞癌など呼吸性移動を伴う上腹部腫瘍においてリスク臓器への線量を確実に低減できる症例群があることなど、その特徴が明らかになりつつある。大網充填が困難な大網切除症例や大網が少ない症例でも、PGAスペーサー使用によって根治線量の照射が可能となる。研究分担者の様々な角度からの検討結果は、報告書を参照されたい。
iii)-a.腹腔鏡で挿入可能な圧縮型PGAスペーサーの試作:ブタを用い、正中単孔式腹腔鏡操作で、胃と膵臓の間隙にPGAスペーサーの埋植が可能かを検討した。現時点では一旦腹壁を切開して腹腔内にスペーサーを留置し、腹腔鏡鉗子を用いてスペーサーを移動させたが、胃と膵臓の間隙に留置可能であった。さらに研究を進める。
iii)-b.新素材、新形状の吸収性スペーサーの開発: PGA・PLA混合スペーサーは、圧縮性や弾性に優れるが、水保持力が不十分である。癒着軽減方法に関しては、他の吸収性縫合糸を融合する方法では現時点では成果を得られておらず、更なる検討が必要である。
結論
PGAスペーサーの吸収速度に関してその密度が高いほど吸収速度が遅いことが判明し仕様を決定し臨床試験が開始された。非吸収性シートや大網をスペーサーとして使用した経験が複数の施設から集積され、今後の吸収性スペーサー留置術の標準化に関して有益な討議がなされた。スペーサーに求められる課題は、今後の次世代吸収性スペーサーの研究開発に反映していく。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究に基づき吸収性スペーサーの最終仕様を決定した。動物実験によって、セプラフィルム(R);が当該スペーサーの癒着が防止すること、次世代低侵襲性スペーサ研究の糸口を見出した。平成26年度より第3回~第8回スペーサー治療研究会、第1回~第3回スペーサー手術手技検討会を開催した。14の大学、9の粒子線治療施設、14のがんセンタ-・病院から放射線腫瘍医・外科医・整形外科医・小児科医等が集まりスペーサー併用粒子線治療、及び吸収性スペーサーについてディスカッションすることによって解決すべき課題を整理した。
臨床的観点からの成果
「粒子線治療以外に有効な治療法がないが、消化管等の近接臓器があるため粒子線治療が困難な腹腔内もしくは骨盤内の悪性腫瘍を有する患者」を対象とした治験をH26年度に開始し、陽子線照射症例・炭素線照射症例ともに完了した。当該スペーサーの消褪(厚み及び容量)は予測の範囲内で腫瘍全体に根治線量の照射が完了できたことから、有用性は極めて高いと考える。また、有害事象による治療の中断や変更が不要であったことから、高い安全性が示唆された。
ガイドライン等の開発
現時点ではなし。
その他行政的観点からの成果
現時点ではなし。
その他のインパクト
本研究における吸収性スペーサーの開発や臨床試験が、H27年3月から5月にかけて全国の新聞合計11社に取り上げられ、掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
70件
学会発表(国際学会等)
26件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
2017-08-03

収支報告書

文献番号
201438030Z