文献情報
文献番号
201438020A
報告書区分
総括
研究課題名
癌細胞由来分泌小胞を標的とした膵癌早期診断バイオマーカー開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
植田 幸嗣(東京大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本邦において膵癌は部位別5年生存率で常に最下位を推移しており、膵癌の治療成績向上、死亡者数の減少は急務となっている。このため、本研究では根治可能な早期に膵癌病変を発見可能な診断技術の開発、実用化を目標とする。本研究では特に、あらゆる細胞が分泌する直径数十nmの小胞、エクソソームを健常者、ステージI~IV膵癌患者血清から抽出し、超高感度LC/MS分析によるエクソソームタンパク質の網羅的な発現解析から膵癌の発症、または進行に伴って特異的な量的変動を示すエクソソームバイオマーカー候補分子を同定する。さらに、続く検証フェーズにて診断前血清を含む独立した血清セットをエクソソームサンドイッチELISAで測定し、真に膵癌の早期診断に有効な分子を決定する。
研究方法
研究代表者らが開発した高純度エクソソーム精製デバイスであるExtracellular Vesicle Isolation by Size Exclusion Chromatography on Drip (EV-Second)カラムを使用し、95例の血清サンプル(健常者30例、膵癌II期15例、III期25例、IV期25例)からエクソソームを単離し、LC-MS/MS分析による網羅的なエクソソームタンパク質定量プロファイリングを実施した。取得した質量分析データはProteome Discoverer 1.4ソフトウェア(Thermo Fischer Scientific)を使用してSwissProtデータベースに対してタンパク質同定検索を実施した。同定されたタンパク質はExpressionist Refiner MSソフトウェア(Genedata)上でノイズ除去、保持時間補正、ピークシグナル検出、同位体クラスター認識を経て、サンプル間相対定量値を求めた。これらの情報とExpressionist Analystソフトウェア(Genedata)を用いて、二群検定(Student’s t-test)と主成分分析(PCA)によりバイオマーカー候補タンパク質の決定を行った。
結果と考察
Expressionistプロテオームデータベースサーバーにて、上記解析により同定された839エクソソームタンパク質の定量化と統計解析を行い、膵癌の発症、または進行に伴って特異的な(p-value < 0.05, fold change > 5.0)量的変動を示すエクソソームバイオマーカー候補分子を5タンパク質同定することに成功した。このうち2タンパク質については細胞膜貫通ドメインを持った膜タンパク質であることが知られており、エクソソームにおいてもその膜上に表出して発現していると考えられるため、エクソソーム表面タンパク質を高速高感度に定量可能なエクソソームサンドイッチELISA法を用いた大規模検証試験に応用可能なバイオマーカー候補であることが示唆された。本研究で同定された膜タンパク質バイオマーカー候補2種については、市販抗体を入手し、エクソソーム表面抗原であるCD9とのエクソソームサンドイッチELISAの構築を目指す。当ELISA系が完成すれば、慢性膵炎など良性疾患も含む独立症例セットを用いた検証試験を行い、特にステージI、II膵癌の診断感度、特異度を正確に評価する。エクソソームに内包されていると考えられる3タンパク質についてはエクソソームサンドイッチELISAでは測定する事ができないため、途中に溶解のステップを加えた改良型エクソソームタンパク質ELISAシステムを構築予定である。
結論
健常者30例、膵癌ステージII15例、膵癌ステージIII25例、膵癌ステージIV25例の血中エクソソームタンパク質プロファイリングにより、5種の早期膵癌診断マーカー候補タンパク質を同定することに成功した。とりわけ病期依存的な定量中央値の上昇が観測される2タンパク質は、膵癌の発症や進行にも重要な役割を果たしている可能性があり、今後の独立検体セットを用いた検証試験と共に個別の機能解析基礎実験も並行して実施する予定である。
公開日・更新日
公開日
2015-09-11
更新日
-