スキルスがんにおける癌幹細胞悪性形質獲得機構に関する研究

文献情報

文献番号
201438012A
報告書区分
総括
研究課題名
スキルスがんにおける癌幹細胞悪性形質獲得機構に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
土屋 輝一郎(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 稲澤 譲治(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
スキルスがんは比較的若年で発症し急速な進行により悲劇的な転帰をとることが問題となっている。その組織は印環細胞癌が多く、胃においてはヘリコバクターピロリ除菌治療の普及のみではスキルス胃癌の減少は期待できない。さらに小腸・大腸においては炎症発がんにより粘液産生癌・印環細胞癌が多く認められ、近年炎症性腸疾患患者の急増によりスキルス小腸・大腸癌の発生が危惧されている。しかし印環細胞癌の発生機序、悪性形質獲得機序に関してはほとんど解析されず、特にびまん性浸潤・転移能・抗癌剤耐性など予後と直結する臨床的特性の分子基盤は全く確立されていない。そこで申請者は解明の糸口として、細胞・形態異型が強く病理学的には「未分化がん」であるが、細胞形質は粘液産生など「分化状態」にある病理学的特徴に着目し、通常の癌では分化が抑制され増殖が異常亢進するが、印環細胞癌では分化シグナルが抑制されないまま増殖シグナルが亢進するという「分化」と「増殖」の共存が臨床的特性の分子基盤であると予想した。
 本研究ではスキルスがんの初代培養による癌幹細胞特性、癌幹細胞から粘液産生細胞へのニッチ機構による分化形質獲得機構を解析し、「分化」と「増殖」の共存による悪性形質獲得機構の解明を目的とする。
研究方法
具体的なプロジェクト(p)体系は以下の通りである。
【p-A プロジェクトの総合推進】
【p-B 印環細胞癌癌幹細胞解析プロジェクト】
B-(1) 印環細胞癌癌幹細胞可視化解析
B-(2) 印環細胞癌癌幹細胞機能解析
【p-C 印環細胞癌初代培養プロジェクト】
【p-D 印環細胞癌ゲノム解析プロジェクト】
D-(1) 病理組織におけるゲノム解析
D-(2) 初代培養細胞におけるゲノム解析
p-A)各プロジェクトとの連携・情報交換を通して、総合推進を図ることを目的とする。また実用化のために必要な研究課題を抽出し、適宜研究分担者・研究協力者を追加することで研究班の組織改変を図る。p-B)スキルスがん、印環細胞癌のがん幹細胞機能解析を行い、病態。病型への関与を明らかとする。p-C)スキルスがん患者の内視鏡もしくは手術検体からがん細胞の初代培養を構築することで、がん特性を明らかとするとともに、がん細胞のみに純化された検体でのゲノム解析や薬剤スクリーニング系を確立する。p-D) 印環細胞癌ゲノム解析プロジェクトでは、網羅的ゲノム解析により、印環細胞癌特異的な遺伝子変異を描出し、病態への関与及び新規医薬品の標的を探索する。
結果と考察
以下に各々のプロジェクト研究の成果を記す。
【p-A プロジェクトの総合推進】
 本研究会発足後に班会議を開催した。スキルスがんの現状及び研究準備状況を会議にて共有することができた。また各プロジェクトにおける進捗状況を把握し、研究遂行のために必要なステップの確認、新規治療薬の標的となる候補の選定を行うなどプロジェクトの推進事項を確認した。さらに各プロジェクトの補完を目的として研究分担者・協力者を追加し班構成をより強固なものにしたことから、総合推進の目的は達成されている。
【p-B 印環細胞癌癌幹細胞解析プロジェクト】
B-(1) 印環細胞癌癌幹細胞可視化解析
 初代培養細胞に蛍光遺伝子導入を行い細胞の可視化を試みた。培地のマトリゲル内にレンチウイルスを混和させることで上皮細胞への遺伝子導入を可能とした。
B-(2) 印環細胞癌癌幹細胞機能解析
 印環細胞などの粘液産生癌においては、腸管上皮細胞の分泌系細胞への分化を制御するAtoh1遺伝子に着目し、Atoh1タンパクの発現機構解析およびAtoh1発現におけるがん特性獲得機構を明らかとした。
【p-C 印環細胞癌初代培養プロジェクト】
 胃スキルスがん、未分化がんの初代培養を確立している。さらにスキルスがんのがん幹細胞マーカー解析を開始しており、候補遺伝子の選定を行った。
【p-D 印環細胞癌ゲノム解析プロジェクト】
D-(1) 病理組織におけるゲノム解析
 倫理審査に承認され解析可能な状況にしている。ゲノム解析には分担者に石川を加え、胃スキルスがんのゲノム解析によりRhoAの遺伝子変異を世界で初めて明らかとした。
結論
研究代表者、分担研究者および研究協力者の協調的研究体制により、スキルスがんに対する実用化のためのプロジェクトを遂行した。初年度であったが、当初目指した成果が確実にあげられた。非常に予後が不良であり、悲劇的な転帰をたどるスキルスがん患者に対し、基礎研究で得られた知見に基づく新しい治療法開発とその臨床応用、およびこれに基づく正しい情報の普及が可能になるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438012C

収支報告書

文献番号
201438012Z