統合リピドミクス・ゲノミクスを用いたホルモン感受性癌における革新的先制医療シーズの探索

文献情報

文献番号
201438004A
報告書区分
総括
研究課題名
統合リピドミクス・ゲノミクスを用いたホルモン感受性癌における革新的先制医療シーズの探索
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小川 修(京都大学医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 戸井 雅和(京都大学医学研究科)
  • 萩原 正敏(京都大学医学研究科)
  • 増田 慎三(国立病院機構大阪医療センター)
  • 佐藤 史顕(京都大学医学研究科)
  • 井上 貴博(京都大学医学研究科)
  • 寺田 直樹(京都大学医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,100,000円
研究者交替、所属機関変更
分担研究者 佐治重衡 が転出異動されたので 本研究から削除した。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、乳癌・前立腺癌の臨床組織検体と患者由来ゼノグラフトを用いて、リピドミクスとゲノミクスを統合した解析を行い、癌の進展と治療抵抗性獲得に関わる脂質代謝機構を解明し、その臨床応用を目指すことである。
研究方法
前立腺癌
前立腺癌全摘標本32症例を対象にでのIMSを用いた脂質網羅的解析を行った。測定結果をnormalaizeしたのち、それぞれの標本において上位50に検出されるpeakを拾い出した。32症例中25症例で検出されるpeakのうち、15peakに着目した。癌と正常腺管とで信号強度を算出し、SIMCAを用い、1)癌と正常腺管、2)Gleason score別、3)PSA再発の有無などで有意差を認める脂質の多変量解析を行った。
乳癌
乳腺生検・手術時に採取された、新鮮凍結組織65症例分を使用。negative ion mode でのIMS測定は全10種類のPhosphatidylinositol (PI)の分布と病理組織像を比較し、その分布傾向の特徴を評価した。各病変で見られたPIの分布傾向の特徴と患者背景や病変の進行度、各病変の病理学的特徴との相関を評価した。
患者乳癌組織を免疫不全マウスに移植。乳癌組織の生着率の検討を行った。足場としてマトリゲルなどの異なる数種の基質、および手術検体からisolationした脂肪組織脂肪由来幹細胞を同時移植し、生着率を向上させる足場の評価を行った。

結果と考察
前立腺癌
IMSにて検出できた15peakのうち、正常腺管と癌とで有意に差のあるシグナルを多変量解析にて検索した結果、m/z496、534、690が有意に差を認め、癌部でシグナルの低下を認めた。すべて同じ分子 脂質X(confidential)であることが推察された。そこでこれらの分子のシグナル強度を前立腺癌の病理学的悪性度の指標であるGleason score別に解析してみた結果Gleason score 7以下と8以上とでは、有意に、悪性度の高いGleason score8以上の癌でシグナルの強度の低下を認めた。前立腺全摘後のPSA再発の有無とこれらのシグナル強度の低下との関連性を検討した結果、PSA再発と来した症例ほど、これらの分子のシグナル強度の低下を有意に認めた。以上の結果から脂質Xの発現低下が前立腺癌の発症や悪性度に関連性があることが示唆された。
脂質Xの発現低下は前立腺癌の悪性度や術後再発とも相関があるので、前立腺癌への生物学的な意義が示唆された。
乳癌
解析に適さない9症例が除外され(目的病変が含まれない 4症例、極小サンプル3症例、測定不良2症例)、全56症例(浸潤癌52病変、非浸潤癌10病変、正常腺管5病変)の測定結果が解析された。
病変別のPI分布の評価では、間質の部分ではPI組成上の特徴にほとんど変化が生じない一方で、癌部では癌の進行度に伴ってPI組成パターンが異なっていることが分かった。正常腺管においては4価不飽和PIが大半を占めているが、非浸潤癌の癌部では4価不飽和PIの割合は著しく減少し、1価不飽和PIの集積が生じており、この分布上の特徴により癌部と間質/正常腺管部を見分けることができることがわかった。
一方浸潤癌では1価不飽和PIの他に、多価不飽和PIの割合が増加する傾向が確認された。浸潤癌においては1価不飽和PIが主に癌部に集積するものと、多価不飽和PIが癌部に集積するものに傾向が分かれ、症例毎に異なるPIの代謝が行われている可能性が示唆された。浸潤癌においては4価不飽和PI以外のPIの集積によって癌部と間質/正常腺管部を見分けることが可能であった。
浸潤癌において、1価不飽和PI/多価不飽和PIの組成比とよく相関する因子として、プロゲステロン受容体 (PgR)の発現状況、リンパ節転移の有無が独立した因子として抽出された。
これまでに乳癌原発巣由来のPDXを8症例分、リンパ節転移を含めた転移巣由来のPDXを4症例分作成した。移植後平均5週経過した時点で、明らかな腫瘍の生着を認めているのは1症例である。
非浸潤癌の特徴として1価不飽和PIの著明な集積が生じることが明らかにされた。さらに、癌の浸潤とリンパ節転移とよく相関する形で、癌部のPIの不飽和度が上昇する傾向が示された。また、癌部でのPIの不飽和度の上昇とPgR発現が強い相関を示し、これはPIのリモデリングが女性ホルモンの中でも特にプロゲステロンによる調節を受けている可能性を示唆する結果であった。
結論
前立腺癌と正常腺管とでは脂質の発現に差異を認め、これらが診断や治療ターゲットになる可能性が示唆された。
乳癌の癌部のPIの不飽和度は癌の浸潤転移状態に応じて異なることが示された。PIの不飽和度の違いはプロゲステロンによる制御を受けている可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438004C

収支報告書

文献番号
201438004Z