p53経路が規定する難治がんの分子標的と治療抵抗性の解析

文献情報

文献番号
201438003A
報告書区分
総括
研究課題名
p53経路が規定する難治がんの分子標的と治療抵抗性の解析
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
江成 政人(国立がん研究センター研究所難治進行がん研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 大木 理恵子(国立がん研究セン ター研究所希少がん研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
該当しない。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、ALK融合陽性肺腺がん患者由来のがん組織から細胞株やがん幹細胞を樹立し、ALK阻害剤抵抗性に関わる因子を網羅的に探索・同定すること、新規がん抑制遺伝子であるPHLDA3の機能解析を通じて、膵内分泌腫瘍発生のメカニズムを解明し、新規治療標的分子を同定することを目的とする。
研究方法
(1)ALK阻害剤抵抗性メカニズム解明に関わるアッセイ系の開発
・外科的及び内科的に得られた33症例のALK融合陽性肺腺がん患者由来のがん組織や胸水から細胞株やがん幹細胞を樹立する。
(2)p53活性化剤併用処理によるALK阻害剤抵抗性への効果
・樹立したALK融合陽性肺腺がん細胞及びがん幹細胞様分画の細胞をp53活性化剤Nutlin-3a単独、クリゾチニブ単独とその両方を併用した際のALK融合陽性肺腺がんの細胞生存率を測定する。
(3)膵内分泌腫瘍患者の治療成績とPHLDA3遺伝子異常との関連を調べる。
・膵内分泌腫瘍サンプルの収集
・代表的ながん遺伝子、がん抑制遺伝子遺伝子異常の解析
・PHLDA3遺伝子異常と治療経過・予後との関連を解析
(4)膵内分泌腫瘍の疾患モデルを用いて、膵内分泌腫瘍発生のメカニズムを解析し、新規治療標的分子の同定を目指す。
(倫理面への配慮)
肺がん組織や膵内分泌腫瘍における遺伝子発現・変異を解析する場合には「疫学研究に関する倫理指針」を遵守して、倫理審査委員会の承認のもと試料等提供者の人権とプライバシーを保障しつつ研究を進める。また、研究成果報告の際には、個人情報が公開されないように配慮する。すべての研究は、「個人情報保護法」ならびに「疫学指針」そして「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を遵守する。また、動物実験の際には、国立がん研究センター動物安全管理委員会の承認を得た上、動物愛護に配慮し実験を進めた。
結果と考察
(1)肺腺がん患者由来の臨床検体33症例のうち、5例がALK融合陽性であり(河野、清野との共同研究)、その内1症例のALK融合陽性でありかつp53遺伝子に変異を持たない細胞株の樹立に成功している。ただし、細胞の増殖能が悪く、薬剤抵抗性の実験やがん幹細胞の濃縮実験には使えていない。現在、更なる肺腺がん患者由来のから細胞株やがん幹細胞の樹立を試みている。
(2)上記、患者由来の樹立したALK融合陽性肺腺がん細胞株を用いて解析を行ったところ、p53活性化剤がALK阻害剤耐性を著しく減弱させることがわかった。
(3)膵内分泌腫瘍の症例を収集し、計70症例を集めた。集めた症例について、PHLDA3遺伝子に加え、代表的ながん遺伝子、がん抑制遺伝子に異常があるか解析を進めている。
(4)膵内分泌腫瘍の疾患モデルマウスとなる、PHLDA3遺伝子とMEN1遺伝子双方を欠損するマウスの作製に成功し、詳細な解析を進めている。
 本研究において、p53活性化剤であるNutlin-3aがALK融合陽性肺腺がんのALK阻害剤耐性を軽減させることがわかった。しかしながら、臨床検体から細胞株の樹立を試みているが、ALK融合陽性肺腺がん患者由来の臨床検体からp53遺伝子に変異のない細胞株が今のところ1症例のみである。摘出直後のALK融合陽性肺腺がん細胞では、p53遺伝子の変異はほとんど認められず、おそらく、細胞株樹立の際、酸化ストレス等によってp53遺伝子に変異が入り、p53遺伝子に変異を持つがん細胞が優先的に増殖している可能性がある。それを回避するため、低酸素での培養や他の培養条件等(線維芽細胞等の間質細胞との共培養等)の検討も今後必要であろう。
 また、ALK融合陽性肺腺がんにおいて、ALK阻害剤とp53活性化剤との併用処理がなぜ有効なのかについての分子メカニズムやALK融合陽性肺腺がんにおけるALK阻害剤耐性の分子メカニズム等理解に乏しく、今後の解析が必要不可欠であろう。
 一方、膵内分泌腫瘍における様々な遺伝子の異常の有無を解析しており、今後、重要な情報を得ることができると考えられる。また、PHLDA3遺伝子を欠損した膵内分泌腫瘍の疾患モデルマウス作製に成功しており、PHLDA3に着目して膵内分泌腫瘍を解析した報告もないことから、本研究は学術的にも臨床応用的にも大変有意義である。
結論
以上の結果、p53活性化は、ALK融合陽性肺腺がんのALK阻害剤耐性を軽減させ、ALK阻害剤とp53活性化剤の併用がALK融合陽性肺腺がんに対し、きわめて有効的な治療法になり得ることが期待できる結果を導き出した。
一方、これまでに非常に希少ながんである膵内分泌腫瘍のサンプルを計70サンプル収集すること、膵内分泌腫瘍のモデルマウスの作成することに成功しており、今後詳細に解析することで、膵内分泌腫瘍の個別化医療に資する成果が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
樹立したALK融合陽性細胞株を用いて解析を行ったところ、p53活性化剤によって顕著にALK阻害剤耐性細胞の出現や再増殖率の低下を示した。また、PHLDA3遺伝子を欠損したマウスでは10ヶ月ほどで悪性度の高い膵内分泌腫瘍を発症することがわかり、膵内分泌腫瘍疾患モデルの作製に成功したと言える。このようにp53活性化剤がALK融合陽性肺腺がんのALK阻害剤耐性を軽減させることや膵内分泌腫瘍のマウスモデルを作製しその腫瘍発生のメカニズムの解明を目指した私達の研究は、学術的観点から大変有意義である。
臨床的観点からの成果
本研究により、p53活性化剤が実際のがん患者由来のALK融合陽性肺腺がんのALK阻害剤耐性を軽減させることがわかり、この薬剤併用が、ALK融合陽性肺腺がんの奏功性を向上させる治療戦略として有効であることが示された。また、膵内分泌腫瘍のモデルマウスを作製したことによって、膵内分泌腫瘍患者の新たな治療法の開発に貢献できることなど臨床的観点から大変有意義な研究課題ある。
ガイドライン等の開発
該当しない。
その他行政的観点からの成果
本研究は、ALK融合陽性肺腺がんである難治生のがんや膵内分泌腫瘍といった希少がんに対する治療法の発展に貢献でき、ここで得られた治療標的は、厚生労働行政の施策「先端的基盤開発研究事業」へ移行・活用できる可能性が極めて高く、難治がん・希少がんの新規治療法の開発は厚生労働行政上十分に貢献できる。
その他のインパクト
化学工業日報:「悪化促進分子を発見」H26. 4. 17.、日経産業新聞:「肺腫瘍、悪性化の仕組み」H26. 4.18.、日経産業新聞:「良性の腫瘍 なぜ悪性に?」H26. 6.13.、日経産業新聞:「悪性肺がん 詳しいしくみ」H27. 3.2.他多数。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
移植材料及びその調製方法
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2015/064792
発明者名: 大木理恵子、角昭一郎、坂田直昭
権利者名: 大木理恵子、角昭一郎、坂田直昭
出願年月日: 20150522
国内外の別: PCT

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Naoko Okano, Takahiro Oike, Jun-ichi Saitoh et al.
In vitro determination of the relative biological effectiveness of carbon-ion beam irradiation in cells derived from human normal lung tissues.
Experimental and Therapeutic Medicine  (2016)
原著論文2
Shinichi Uesato, Yoshihiro Matsuura, Saki Matsue et al.
Discovery of new low-molecular-weight p53-Mdmx disruptors and their anti-cancer activities.
Bioorganic & Medicinal Chemistry  (2016)
原著論文3
Takahiko Murayama, Takashi Nakaoku, Masato Enari et al.
CD74-NRG1, an oncogenic fusion gene product, leads to insulin-like growth factor 2 autocrine/paracrine circuit and confers cancer stem cell properties.
Cancer Research  (2016)
原著論文4
Yoshinori Asano, Tatsuya Kawase, Atsushi Okabe et al.
IER5 generates a novel hypo-phosphorylated active form of HSF1 and contributes to tumorigenesis.
Scientific Reports  (2016)
原著論文5
Pierangela Totta, Valeria Pesiri, Masato Enari et al.
Clathrin heavy chain interacts with estrogen receptor α and modulates 17β-estradiol signalling.
Molecular Endocrinology  (2015)
原著論文6
Xiaoqi Wang, Guangyuan Li, Sanjay Koul et al.
6. PHLDA2 is a key oncogene-induced negative feedback inhibitor of EGFR/ErbB2 signaling via interference with AKT signaling.
Oncotarget  (2015)
原著論文7
Toshitsugu Fujita, Miyuki Yuno, Daisuke Okuzaki et al.
7. Identification of non-coding RNAs associated with telomeres by enChIP-RNA-Seq.
PLoS One  (2015)
原著論文8
陳 ヨ, 斉藤 梢, 山口 陽子 他
膵神経内分泌腫瘍の新規がん抑制遺伝子PHLDA3の発見
胆と膵  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
2016-07-04

収支報告書

文献番号
201438003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,400,000円
(2)補助金確定額
10,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,546,732円
人件費・謝金 0円
旅費 697,570円
その他 755,698円
間接経費 2,400,000円
合計 10,400,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-11-18
更新日
-