がんにおけるミトコンドリア品質管理機構の異常とその臨床的特性における意義に関する研究

文献情報

文献番号
201438001A
報告書区分
総括
研究課題名
がんにおけるミトコンドリア品質管理機構の異常とその臨床的特性における意義に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 博文(国立がん研究センター研究所腫瘍生物学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 康之(国立がん研究センター研究所腫瘍生物学分野)
  • 喜多村 憲章(国立がん研究センター研究所腫瘍生物学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 加美野宏樹(平成26年4月1日~平成26年5月30日)→喜多村憲章(平成26年6月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
がん抑制遺伝子p53は様々な臨床がん組織で異常を生じており、がんの臨床特性に大きく影響を及ぼしていると推測されているが、その分子基盤の本態は未だ不明である。我々は、長年にわたるp53標的遺伝子研究の成果として、p53によるがん抑制機能として、新規p53標的遺伝子Mieapによって制御される全く新しいミトコンドリア品質管理(以下MQC)機構を見いだした。本研究課題の目的は、Mieap制御性MQC機構の臨床がん組織における異常とその結果としてもたらされるがんの発生・増殖・浸潤・転移・抗がん剤耐性などのがん臨床的特性への意義を明らかにすることで、がんの本態解明に貢献し、これまで予想されなかった全く新しい標的分子・標的経路の導出を目指し、革新的医療実現化へ繋げることである。
研究方法
(1)臨床がん組織の解析(2)マウスモデルを用いた解析(3)細胞レベルの解析の3つを、それぞれの研究者が主体となって進める。最も中心となるのは、臨床がん組織におけるp53/Mieap制御性MQC機構の異常に関する解析であり、異常の認められたがん種についてはマウスモデルを用いた解析及び細胞レベルの解析へ進め、その臨床的特性における役割について分子レベルで明らかとする。これら3つの解析は、それぞれの情報を双方向性に互いに検証することで、相乗的に分子基盤の解明を加速する。年度ごとにがん種のグループを分け段階的に研究を進める予定である。
結果と考察
(1)臨床がん組織における解析(大腸がん)57例の大腸がん患者検体を用いて、がん組織と正常組織からゲノムDNAを抽出して、p53については変異解析を直接シークエンス法によって、Mieap/BNIP3/NIXについては、それぞれのプロモーターのメチル化の状況を解析した。結果として、大腸がん患者の80%以上の症例でMieap制御性MQC機構が不活性化されている事が明らかとなった。大腸がん組織に対して、Mieap及び関連タンパク質に対する特異抗体を用いて、免疫組織学的解析を行った。前がん病変である腺腫領域で、Mieap蛋白質の強い発現を認め、がん領域は、むしろ消失していた。興味深いことに、正常粘膜から腺腫領域、さらにはがん領域へとかけて、ミトコンドリアのシグナルが増強していった。つまり、大腸がんにおいては、Mieap制御性MQC機構が高頻度に不活性化され、不良なミトコンドリアが蓄積されている可能性があることが示された。(2)モデルマウスにおける解析(大腸がん)ApcMIN/+マウスに発生する消化管腫瘍の発生・進展におけるMieap制御性MQC機構の役割を明らかとするために、大腸がんモデルマウスであるApcMIN/+マウスとMieapノックアウトマウスを交配し、Mieap欠損ApcMIN/+マウスを作成し、その開発に成功した。Mieapの欠損はApcMIN/+マウスの消化管腫瘍の発生数を2倍以上に増加させ、また腫瘍のサイズの増大を認めた。結果的に消化管腫瘍からの出血による貧血の増悪を来たし、寿命の顕著な短縮を認めた。さらに、消化管上皮及び腫瘍細胞には電子顕微鏡観察で明白な不良ミトコンドリアの蓄積を認めた。これらのミトコンドリアからは高いレベルの活性酸素種(ROS)が産生されていた。病理組織学的解析により、Mieap欠損マウスに発生した消化管腫瘍は、劇的に腫瘍の組織学的異型度の増悪化及びがん化を生じていた。(3)細胞レベルでの解析 大腸がん細胞株を用いて、Mieap制御性MQC機構破綻の意義を調べたところ、低酸素状態における、がん細胞に蓄積した不良なミトコンドリアから産生されるROSが、がん細胞の遊走能・浸潤能を顕著に上昇させることが明らかとなった。当該年度の研究成果より、Mieapによって制御されるミトコンドリア品質管理機構の異常が、大腸がんの発生・増殖・浸潤・転移に極めて重要な役割を果たしている事を明らかにできたと考えており、当該年度の達成状況としては、期待以上の成果が得られたと考えている。
結論
Mieap制御性MQC機構は臨床がんで高頻度に不活性化されており、がん細胞には不良なミトコンドリアが蓄積し、そこから産生されるROSが、がんの発生・増殖・浸潤・転移に極めて重要である可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438001C

収支報告書

文献番号
201438001Z