薬事申請を目指した、治療法の無い難治性多汗症に対する新規ラパマイシン外用薬の有効性を検討する医師主導治験

文献情報

文献番号
201436004A
報告書区分
総括
研究課題名
薬事申請を目指した、治療法の無い難治性多汗症に対する新規ラパマイシン外用薬の有効性を検討する医師主導治験
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
金田 眞理(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 片山 一朗(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 )
  • 玉井 克人(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 室田 浩之(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 中村 歩(大阪大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療技術実用化総合研究(早期探索・国際水準研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
原発性多汗症は、罹患率約4.5%、平均発症年齢12-15歳の原因不明の難治性疾患で、鬱病や引きこもりの原因になると同時に、職業制限など患者のQOLを著しく障害する疾患である。しかしながら、交感神経遮断術等外科的治療でも確実な改善が望めず、治療により代償性発汗などの副作用を生じ、現時点では確立された安全で有効な治療法は無い。我々はマンマリアンターゲットオブラパマイシンコンプレックス1(mTORC1)が、新規の機能として発汗調節に関与し、mTORC1の阻害剤であるラパマイシンが発汗抑制に有効である事を見出した(特許出願中)。ところで我々は既に、大阪大学医学部付属病院薬剤部と共同で大学発の新規薬剤としてGMPレベルのラパマイシン外用薬の製造技術を確立し、GLPレベルの前臨床試験も終了し、結節性硬化症(TSC)の皮膚病変に対して医師主導治験を実施し、安全性も確認済みである。今回は本外用剤を、治療法のない重症の原発性多汗症に用いて、薬事申請をめざした医師主導治験を実施してラパマイシン外用薬の有効性を確認し、治療法のない本症患者に安全で有効な治療薬を提供するのが目的である。
研究方法
本年度は下記の3点に関して検討した
1)ラパマイシン外用薬の安全性と有効性検討のための基礎実験
 a) マウスを用いたラパマイシン外用薬の発汗に対する効果の確認。
b)ラパマイシン外用薬の安全性の確認
 「結節性硬化症の皮膚病変に対する有効で安全性の高い治療薬の開発と実用化に関する研究」の医師主導治験治で得られた安全性のデータを整理し検討した。
2)健常人を対象にしたラパマイシン外用薬の発汗抑制効果に対する指摘濃度探索試験。
 健常人のべ36人の左手掌に0.4%,0.8% もしくは0.2% ラパマイシンゲル(1g/300cm2で125mg/回)を、右手掌に基剤のみを1回塗布し、外用開始前、塗布後30分後、60分後に左右の発汗量を換気カプセル型発汗計で測定し、ラパマイシン外用薬単回塗布での発汗抑制効果に対する指摘濃度探、効果測定最適時間検討のためのオープン試験を施行した。
3)原発性多汗症の患者を対象にしたパイロット試験。
 原発性多汗症患者に対する0.2%ラパマイシン外用薬の6週間連続投与による発汗抑制効果の検討をおこなった。
 日本皮膚学会の多汗症の診断基準により、原発性多汗症と確定診断でき、日本皮膚学会の原発性局所多汗症ガイドラインの重症度分類で3、4以上の重症で、かつ外用を希望する15歳以上の患者に対して、0.2% ラパマイシンゲルと基剤のみ(1g/300cm2/回、最大300cm2)を、対象多汗部それぞれに1日2 回塗布し、試験開始前、開始2週、6週間後(外用終了時)と、外用終了後2週間後に受診し、安全性と有効性を確認する左右比較二重盲検試験を施行した。
結果と考察
1a)マウスを用いた動物試験において、ラパマイシン外用薬が用量依存性に有意にマウスの発汗を抑制する事を確認した。
1b)0.2% ラパマイシンゲル12週間、顔面への外用では、安全性に問題がないことが確認できた。
2)単回塗布では①個人差が大きいこと、②いずれの濃度でも、安全性に関しては問題がないこと、③0.8%が最も効果が良いことが確認できた。
3)多汗症患者に対する連続投与で、①6週の外用では安全性には問題がないこと、②判定は6週以上先が良いこと、③発汗量は周囲環境の影響を受けやすいこと、④顔面皮膚は手掌に比較して吸収が良いこと、⑤足蹠は手掌よりさらに吸収が悪い可能性が示唆された。
以上より、これらの結果をふまえて、治験時の測定方法や、有効性の判定方法は熟慮が必要である
結論
ラパマイシン外用薬は、原発性多汗症の患者の発汗抑制に対する、安全で有効な薬であると考えられ、早期の実用化が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201436004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ラパマイシンは分子量が大きく、通常では経費吸収が困難と考えられていたが、基剤を工夫することによって、皮膚のバリアを超えて、効率よく真皮に吸収させ得ることを示した点は本研究の成果である。mTORC1およびその阻害剤であるラパマイシの発汗機序への関与は、新規の知見であり、これらの作用機序を研究することにより、mTORC1の新規の作用が解明が可能になり、その効果は計り知れない。
臨床的観点からの成果
今まで安全で有効な治療法がなかった重症多汗症の患者に、有効で安全な新規治療薬を提供しできることは臨床的に大きな成果である。重症患者では紙ベースの書類は汗で破れ、機械操作を要する仕事は機械の故障を引き起こすなど、職業制限が著しい。内服薬や外科的治療に比べて、副作用が少なく、安価で、時間のかからない、外用薬による治療が可能になれば患者のQOLが著しく改善し、快適な社会生活が可能になり、その効果は計り知れない。
ガイドライン等の開発
本研究はガイドライン制定とは違った研究であるが、ラパマイシン外用薬の多汗症に対する有効性と安全性が立証されれば、日本皮膚科学会の多汗症の診断基準や、日本皮膚学会の原発性局所多汗症ガイドラインに影響を与えると考えられる。
その他行政的観点からの成果
痛みも時間的制約も少ないラパマイシン外用薬による治療が可能になれば、現行の治療が、安全かつ簡便で安価な外用療法に移行すると考えられ、医療費の軽減が期待でき、医療経済的にも有益である。また、本症は、12-15歳と若年層で発症し、しばしば、引きこもりや不登校などの若年層の社会生活不適合の原因の1つになっている。また成人においても鬱状態を引き起こし、本症の治療が可能になれば、最近の社会問題の1つである社会生活不適合が解消され、労働人口の増加が期待でき、社会経済的にも効果が期待できる。
その他のインパクト
本外用薬が承認されれば、命に別状がないと軽視され、安全で有効な治療薬の開発が望めなかった、本疾患に新しい治療薬提供の道を開くことになり、あきらめていた患者に希望を与えることになる。ラパマイシン外用薬が発汗抑制薬として承認されれば、世界に先駆けて日本から世界初の薬が承認されることになり、諸外国に対するインパクトも大きい。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
皮膚疾患を処置するための外用薬およびその製造方法
詳細情報
分類:
特許番号: 第5652795号
発明者名: 金田眞理
出願年月日: 20120130
国内外の別: 国際
特許の名称
ラパマイシンおよびその誘導体を含有する発汗抑制剤
詳細情報
分類:
発明者名: 金田眞理
出願年月日: 20140626
国内外の別: 国内
特許の名称
ラパマイシンおよびその誘導体を含有する発汗抑制剤
詳細情報
分類:
発明者名: 金田眞理
出願年月日: 20150625
国内外の別: 国際

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yang L, Yang F, Wataya-Kaneda M, Tanemura A et al.
4-(4-hydrorox yphenyl)-2-butanol (rhododendrol) activates the autophagy-lysosome pathway in melano ytes: insights into the mechanisms of rhododendrol-induced leukoderma.
J Dermatol Sci , 77 (3) , 182-185  (2015)
原著論文2
Koguchi-Yoshioka H, Wataya-Kaneda M, Yutani M et al.
Atopic diathesis in hypohidrotic/anhidrotic ectodermal dysplasia.
Acta Derm Venereol. , 95 (4) , 476-479  (2015)
原著論文3
Itoi S, Wataya-Kaneda M,et al.
Coexistence of Langerhans cells activation and immune cells infiltration in progressive nonsegmental vitiligo.
J Dermatol Sci. , 73 (1) , 83-85  (2014)
原著論文4
Murakami Y, Wataya-Kaneda M,et al.
Two Japanease Cases of Birt-Hogg-Dube syndrome with Pulmonary Cysts, Fibrofolliculomas and Renal Cell Carcinoma.
Case Reports in Dermatolog , 6 (1) , 20-28  (2014)
原著論文5
Yang F, Tanaka M, Wataya-Kaneda M,et al.
Topical application of rapamycin ointment ameliorates Dermatophagoides farina body extract-induced atopic dermatitis in NC/Nga mice.
Exp Dermatol , 150 (10) , 1095-1101  (2014)
原著論文6
Suma A, Murota H,Katayama I,et al.
Idiopathic Pure Sudomotor Failure Responding to Oral Antihistamine with Sweating Activities.
Acta Derm Venereol , 94 (6) , 723-724  (2014)
原著論文7
Matsui S, Murota H, Katayama I,et al.
Olopatadine hydrochloride restores histamineinduced impaired sweating
J Dermatol Sci , 74 (3) , 260-261  (2014)
原著論文8
Matsui S, Murota H,Katayama I,et al.
Dynamic analysis of histamine-mediated attenuation of acetylcholine-induced sweating via GSK3β activation.
J Invest Dermatol , 134 (2) , 326-334  (2014)
原著論文9
Wataya-Kaneda M, Tanaka M, Yang L, Yang F,
Clinical and Histologic Analysis of the Efficacy of Topical Rapamycin Therapy Against Hypomelanotic Macules in Tuberous Sclerosis Complex
JAMA Dermatol , 15 (7) , 722-730  (2015)
原著論文10
Koguchi-Yoshioka H, Wataya-Kaneda M, et al
Partial anhidrosis demonstrated by Q-SART in a patient with a novel mutation in the EDARADD gene
J Eur Acad Dermatol Venereol , 29 (7) , 1443-1444  (2015)
原著論文11
Tanaka M, Hirata H, Wataya-Kaneda M, et al
Lymphangioleiomyomatosis and multifocal micronodular pneumocyte hyperplasia in Japanese patients with tuberous sclerosis complex
Respir Investig , 54 (1) , 8-13  (2015)
原著論文12
Wataya-Kaneda M*, Nakamura A, Tanaka M, et al.
Efficacy and Safety of Topical Sirolimus Therapy for Facial Angiofibromas in the Tuberous Sclerosis Complex A Randomized Clinical Trial
JAMA Dermatol , 153 (1) , 39-48  (2017)
原著論文13
Yukako MURAKAMI1, Mari WATAYA-KANEDA1, Yoshiko IWATANI, et al.
A novel mutation of OCRL1 in Lowe syndrome with multiple epidermal cysts
J Dermatol  (2017)
原著論文14
Koguchi-Yoshioka H, Wataya-Kaneda M*, Nakano H, et al.
Severe scoliosis associated with the WNT10A mutation
J Dermatol , 42 (3) , 322-323  (2015)
原著論文15
Tanaka M, Yang L, Wataya-Kaneda M, et al.
Case of Hermansky–Pudlak syndrome 1 in a Japanese infant
J Dermatol , 42 (9) , 906-907  (2015)
原著論文16
Fukumoto, Takeshi; Iwanaga, Akira; Fukunaga, Atsushi; Wataya-Kaneda, Mari,et al.
First genetic analysis of atypical phenotype of pseudoxanthoma elasticum with ocular manifestations in the absence of characteristic skin lesions.
Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology(JEADV) , 32 (3) , 372-373  (2018)
原著論文17
Yang F, Yang L, Wataya-Kaneda M*, Yoshimura T, Tanemura A, Katayama I.
Uncoupling of ER/mitochondrial oxidative stress in mTORC1 hyperactivation-associated skin hypopigmentation
J Invest Dermatol , 138 (3) , 669-678  (2018)
原著論文18
Fei Yang, Lingli Yang, Mari Wataya-Kaneda, Junya Hasegawa, et al.
Dysregulation of autophagy in melanocytes contributes to hypopigmented macules in tuberous sclerosis complex.
J Dermatol Sci , 89 (2) , 155-164  (2018)
原著論文19
Wataya-Kaneda M, Ohno Y, Fujita Y, Yokozeki H, Niizeki H, et al.
Sirolimus Gel Treatment vs Placebo for Facial Angiofibromas in Patients With Tuberous Sclerosis Complex: A Randomized Clinical Trial.
JAMA Dermatol. 2018; Jul 1;154(7):781-788. , 154 (7) , 781-788  (2018)
原著論文20
Ken Okamura, Yuko Abe, Masahiro Hayashi, Toru Saito, Mari Wataya-Kaneda, et al.
Impact of a 4-bp deletion variant (rs984225803) in the promoter region of SLC45A2 on color variation among Japanese population
J Dermatol  (2019)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2019-05-29

収支報告書

文献番号
201436004Z