ドラッグ・リポジショニングによる軟骨無形成症治療薬の開発研究

文献情報

文献番号
201436003A
報告書区分
総括
研究課題名
ドラッグ・リポジショニングによる軟骨無形成症治療薬の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
鬼頭 浩史(名古屋大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石黒 直樹(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 大野 欽司(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 水野 正明(名古屋大学医学部附属病院)
  • 安藤 昌彦(名古屋大学医学部附属病院)
  • 清水 忍(名古屋大学医学部附属病院)
  • 平川 晃弘(名古屋大学医学部附属病院)
  • 中山 忍(名古屋大学医学部附属病院)
  • 松下 雅樹(名古屋大学附属病院)
  • 酒井 忠博(名古屋大学附属病院)
  • 鍬塚 八千代(名古屋大学医学部附属病院)
  • 三島 健一(名古屋大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療技術実用化総合研究(早期探索・国際水準研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
軟骨無形成症は最も頻度の高い四肢短縮型小人症を呈する疾患で、骨伸長の抑制因子であるFGFR3の活性型変異により発症する。根治的治療への戦略としては、FGFR3シグナルを抑制することとなるが、現状では複数の低分子化合物の有効性が基礎研究レベルでは実証されているが、非臨床試験での安全性が担保されていない。我々はモデル細胞を用いた薬効スクリーニング法により、塩酸メクリジンにFGFR3シグナル抑制効果を見出し、複数の軟骨系細胞にFGFR3活性型変異を導入したin vitro実験系や、胎生期マウスを用いた器官培養系、成長期のモデルマウスを用いたin vivo実験系においてメクリジンの有効性を証明した。また、マウス実験におけるメクリジンの血漿中濃度は、ヒトにおけるこれまでの使用量における血漿中濃度の範囲内であったことから、メクリジンの治験を開始するための最低限のsafety marginを確保できた。本研究では、メクリジンによる軟骨無形成症の低身長に対する根治的治療を開発することを目的として医師主導型治験を実施し、臨床POCを取得することを目指す。
研究方法
薬理薬効試験:
妊娠16.5日よりマウス母体にメクリジンの混餌投与(0.4gのメクジジンを1kgの餌に混合)を開始し、生後5日目の仔モデルマウスの全身骨を採取し、アリザリンレッドとアルシアンブルーのダブル染色による透明骨格標本を作成する。次いで、頭蓋骨および胸腰椎を摘出して軟骨結合の骨化を評価し、完全骨化を2点、不完全骨化を1点とスコア化して軟骨結合の骨化を定量する。
ラットにおけるメクリジン1週間反復経口投与毒性試験:
塩酸メクリジンをラット(Crl:CD(SD),雌雄各6匹/群)に100,150,300及び1000mg/kgの用量で1週間反復経口投与し,認められる毒性について確認する。対照群には媒体(0.1%Tween 80添加0.5% カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)を投与する。
イヌにおけるメクリジン1週間反復経口投与毒性試験:
塩酸メクリジンをイヌ(雌雄各1匹/群)に100,150,300及び1000mg/kgの用量で1週間反復経口投与し,認められる毒性について確認する。対照群には媒体(0.1%Tween 80添加0.5% カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)を投与する。
ラット、イヌ、ヒト血漿中メクリジンの濃度測定法バリデーション試験:
ラット、イヌの血漿中メクリジン濃度を測定するための分析法の妥当性を検証する。また、ヒト血漿中の濃度測定をLC-MS/MS法で実施するにあたり、測定法の妥当性を検討する。
結果と考察
頭蓋底における軟骨結合の骨化スコアは,コントロール群(n = 5)は5.0 ± 1.0、メクリジン投与群(n = 3)は2.7 ± 0.6であり、メクリジンはモデルマウスにおける大後頭孔周囲の軟骨結合の早期骨化を有意に抑制した(p < 0.05)。また、胸腰椎移行部における椎弓軟骨結合の骨化スコアは、コントロール群(n = 5)は7.0 ± 0.7、メクリジン投与群(n = 3)は4.0 ± 2.6とメクリジンは椎弓軟骨結合の早期骨化を有意に抑制した(p < 0.05)。
ラットにおける反復投与の結果、1000mg/kg群の雌雄全例、および300mg/kg群の雄4例、雌2例が第5~8日に死亡した。
100mg/kg、150mg/kgの群における死亡例はなく、これら濃度では一般状態観察試験でも明らな異常は認めなかった。一方、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査などでは肝肥大、ASATおよびALATの高値などの異常所見を認めた。
イヌにおける反復投与では、1000mg/kg群の雌雄でのみ嘔吐が散見された。また、1000mg/kg群の雄で摂餌量の低下および軽度の体重減少を認めた。その他、1000mg/kg群の雌雄、300mg/kg群の雄で総コレステロール値の低下を認めたが、いずれも重篤ではなかった。150mg/kg群および100mg/kg群では異常を認めなかった。
ラットおよびイヌ血漿中メクリジン濃度を測定するための分析法の妥当性を確認した。また、ヒト血漿中メクリジンの濃度測定をLC-MS/MS法で実施するにあたり、測定法の妥当性を確認した。
結論
胎生期よりメクリジンを投与することにより、モデルマウスの大後頭孔や脊柱管における軟骨結合の早期骨化を予防し得た。
ラット、イヌ、ヒトにおける血漿中メクリジンの濃度測定法バリデーションを確立した。
ラットおよびイヌにおけるメクリジン1週間反復経口投与毒性試験を施行した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201436003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
軟骨無形成症の治療薬開発のため、ドラッグ・リポジショニングの手法で酔い止め防止薬メクリジンを同定し、モデルマウスを用いた非臨床試験において有効性を示した。メクリジンの長期・反復投与の安全性につきラットおよびイヌを用いた非臨床試験を施行した。治験に向けた試験薬を確保し、2017年8月にPMDA対面助言を実施した。PMDAより軟骨無形成症小児に対する単回投与試験の受け入れを許可され、2018年3月に名古屋大学医学部のIRBにて承認された。5月18日に治験届を提出した。
臨床的観点からの成果
ヒトにおける酔い止め薬としての1回使用量(25mg)の血中濃度に匹敵する量のメクリジン(2mg/kg/day)の経口投与により、軟骨無形成症モデルマウスの低身長を改善させた。また、臨床上問題となる大後頭孔狭窄および脊柱管狭窄に対しては、胎生期からの薬剤投与により頭蓋底および脊椎の軟骨結合早期癒合を抑制し得たため、これらに対する治療の可能性を示した。さらに、連日7日間投与における血中濃度をシミュレーションし、薬剤蓄積作用のないことを確認した。
ガイドライン等の開発
本研究は根本的治療法のない難病に対し、ドラッグ・リポジショニング戦略により新たな治療薬を開発するものであり、ガイドライン等の開発に関係していない。
その他行政的観点からの成果
軟骨無形成症の低身長に対する内科的治療法として、高価な成長ホルモン治療が成長期の長期間にわたり行われている。また外科的治療としては骨延長術が行われるが、これも長期の入院加療を要する治療法である。メクリジンは既存の経口薬であり、FGFR3をブロックする根本的薬剤としてドラッグ・リポジショニング開発されれば、現状の治療に勝る有効な治療法となる可能性があり、医療行政的な意義も大きいと思われる。
その他のインパクト
非臨床試験の有効性データは患者会(つくしの会)の総会において講演し、その内容は会報No.85に掲載された。
軟骨無形成症治療の現状と展望につき、患者会(つくしんぼの会)において講演した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsushita M, Hasegawa S, Kitoh H, et al.
Meclozine promotes longitudinal skeletal growth in transgenic mice with achondroplasia carrying a go-of-function mutation in the FGFR3 gene.
Endocrinology , 156 (2) , 548-554  (2015)
10.1210/en.2014-1914
原著論文2
Orney RC, Prickett TC, Espiner EA, et al.
C-type natriuretic peptide plasma levels are elevated in subjects with achondroplasia, hypochondroplasia, and thanatophoric dysplasia.
J Clin Endocrinol Metab , 100 (2) , 355-359  (2015)
10.1210/jc.2014-2814
原著論文3
Matsushita M, Mishima K, Esaki R, Ishiguro N, Ohno K, Kitoh H
Maternal administration of meclozine for the treatment of foramen magnum stenosis in transgenic mice with achondroplasia
J Neurosurg Pediatr , 19 (1) , 91-95  (2017)
10.3171/2016.7.PEDS16199.

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-07-02

収支報告書

文献番号
201436003Z