在宅医療における新規口腔プラーク除去機器の開発

文献情報

文献番号
201434015A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療における新規口腔プラーク除去機器の開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 啓一(東北大学大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 圓山 重直(東北大学流体科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会を迎え、要介護高齢者や、脳血管障害や高齢に伴う咽頭期障害を基礎とする嚥下障害患者では、しばしば誤嚥性肺炎に罹患し重篤に陥る。日本の三大死因の肺炎に占める誤嚥性肺炎の割合は患者の年齢依存的に高く、大規模災害時においても避難所における高齢者の誤嚥性肺炎による関連死が問題として取り上げられた。感染源として認識されている口腔プラークは、歯の表面や舌・頬の粘膜等の上に強固に付着した細菌塊であり、その除去は、齲蝕や歯周病の治療や予防のみならず、周術期の患者や要介護者の口腔機能の維持と回復、呼吸器感染症や消化器感染症の予防、さらには入院期間の短縮やQOL向上に寄与する。しかしながら、現行の歯ブラシや清掃用具でプラーク除去を徹底することは容易ではない。超高齢社会を迎え在宅医療の推進の面からも、医療従事者あるいは介護者が、オンサイトで安心かつ安全に使用し得る効果的な口腔プラーク除去器の開発・実用化が喫緊の課題となっている。
そこで我々は、水道水を高圧で微粒子化し、マイクロ径のミストとして高速噴射する技術に着眼し、誰もが安心安全に使用可能なマイクロスケールミストプラーク除去法の開発とその効果を検証することを目的とした。
研究方法
本課題は、東北大学大学院歯学研究科、流体科学研究所、(株)モリタ製作所、(株)モリタとの共同研究である。水道水をマイクロ径のミストとして高速噴射する先端ノズル形状、噴射条件を、ノズル形状と流体の関係式から求め、口腔内に適用可能な噴射ノズルの開発及び小型化を図った。プラーク除去能試験および、歯科ミスト洗浄特性シミュレーションシステムにより最適条件の設定を図った。また、ミスト衝突前後の界面(口腔粘膜、歯)の応力分布および生体反応に関して数値的・実験的解析を重ね、微小領域にわたる高速運動の流体の可視化を図った。これらのデータの蓄積によりシミュレート化されたデータの妥当性や、プラーク除去の原理についての検証を試みた。さらに、PMDAによる対面助言準備面談を受け、今後の開発を進めることとし、将来的な市場展開戦略に関し情報収集を行った。
結果と考察
歯科ミスト洗浄特性シミュレーションシステムの解析の結果、扇形に噴射を行うことにより、歯間部まで効率よく高密度でミストが噴射され、プラーク除去が可能であることが示された。ノズル形状と流体の関係式から、扇形で高密度のミスト噴射を可能とするノズル先端形状について検討を行い、微細な縦型スリットおよび、エアーアシスト孔を有する矩形ノズルを開発した。また、スリット幅が小さいほど、より小さい吐出圧で効果的なミスト噴射が可能であることが示唆され、将来的な臨床応用を見据え、安全性の面からも重要であると考えられたが、テクニカルな面もあり、本設計を基本特性として改良を重ねるとともに、他の噴射条件を設定することで最適化をていく必要がある。試作ノズルを用いたプラーク除去能試験の結果、市販品1.8V(フルコーンタイプφ0.1mm)と比較して良好な結果を示し、またエアーアシストを加えることで、さらに除去効果が得られた。被噴射体表面における数値解析を行った結果、厚さ10µmの液膜の存在下で最大圧力、最大相当応力が減少、材料表面の濡れ性による減衰効果が認められた。つまり、液膜の存在がプラーク除去能の低下に繫がり、エアーアシストにより液膜を除去することで、除去効果が向上したと考えられる。
高運動エネルギー状態のミストは、極めて低質量であり、衝突圧は0.05MPa以下で測定が困難である。そのため歯や歯周組織、口腔粘膜へ為害作用を及ぼさずに口腔プラーク除去が可能であると考えられるが、今後更に安全性に関して、生物学的な安全性を含め更に検討を行っていく必要がある。
また、PMDAによる対面助言準備面談の結果、本装置が医療機器クラスⅡ、一般的名称は一般名新設であるとの助言を受けた。将来的な市場展開戦略に関する情報の収集と併せ、早期の上市に向けて開発を進めていく必要がある。
結論
噴射されたミストの衝突圧は0.02MPa以下と、従来のウォ―タージェットに代表される高圧洗浄とは全く異なる。また噴射条件は歯科用チェアーに配管されたエアー圧の設定以下であり、水のみ使用するため人体や環境に無害で、経済的便益も高く、安全性も保証され、将来性のある機器と考えられる。今後、更に開発を進めるとともに、臨床データに近い実験的・理論的解析、安全性の評価を加え、早期の上市を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201434015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
水道水を20μmまで微粒子化し高速噴射し、人体に対し侵襲性の少ないプラーク除去方法を開発した。これは、従来の高圧の原理とは全く異なり世界初の技術である。本技術を備えたプロトタイプの機器を開発し、H26~H28年度にかけて流体シミュレーションによるプラーク除去のメカニズムとしてせん断応力が関連していること、動物実験において粘膜においても安全に使用できること等を確認した。またH29年度より臨床仕様機にて承認申請に必要な液滴径、液滴速度、歯面における洗浄性能等の非臨床評価を実施した。
臨床的観点からの成果
H28年度にプロトタイプの機器を用いて臨床試験(東北大学病院臨床研究倫理委員会2016-2-248-1)を実施し、歯面におけるプラーク除去の有効性、安全性および口蓋における安全性を確認した。またH29年度に臨床仕様機にて臨床試験を実施し(東北大学病院臨床研究倫理委員会2017-2-290-1)口蓋粘膜における有効性および安全性を確認し、現在、粘膜のプラーク除去に使用の適応をもつ機器が存在しないため、本品は在宅医療等で簡便に使用できる機器としての承認申請を目指すことが可能であることを示した。
ガイドライン等の開発
現在のところガイドライン等の開発はない。しかし統一見解のない口腔粘膜におけるプラーク除去の評価指標について平成29年3月13日にPMDA対面助言プロトコル相談を受審し、その妥当性について協議し、今後関係学会等と協力して新たな評価指標の策定することが望ましいとの見解を得られ、今後関連学会等と協議を行う予定である。
その他行政的観点からの成果
H27、28年度にAMED研究費(医療機器開発推進研究事業)に採択され、H28年2月4日にPMDA医療機器開発前相談、H29年3月13日医療機器プロトコル相談探索的治験を実施し、プロトタイプの非臨床、臨床における有効性、安全性に関して評価を行い、平成29年度AMED医工連携事業化推進事業、開発・事業化事業に採択され臨床仕様機にて非臨床評価として液滴径、液滴速度等の計測を実施し、今後臨床評価を治験にて実施することを計画しており、歯科分野において、ほとんど例のない段階を踏んだ薬事承認に向けた機器のデータの収集を行っている。
その他のインパクト
H29年10月27日付日経産業新聞に「微細なミストで歯垢除去 流体科学駆使、肺炎防ぐ」という本品に関するコラム記事が掲載されたことで、本品に関して医療界だけでなく、その他の産業界へもインパクトを与え、問い合わせが東北大学に寄せられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
洗浄用微細ミスト生成方法および洗浄システム
詳細情報
分類:
特許番号: 2014-152267
発明者名: 圓山 重直
権利者名: 圓山重直 佐々木啓一 岡島淳之介 守谷修一 石本淳 太田信 伊賀由佳 冨士岳志 竹内裕尚
出願年月日: 20140326
国内外の別: 国内
特許の名称
洗浄用微細ミスト生成装置、口腔内洗浄装置、ノズル、口腔内洗浄方法、および、洗浄用微細ミスト生成装置の洗浄用微細ミスト生成方法
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2015/60114
発明者名: 圓山 重直、佐々木 啓一、岡島 淳之介、守谷 修一、石本 淳、太田 信、伊賀 由佳、冨士 岳志、竹内 裕尚
権利者名: 国立大学法人東北大学、株式会社モリタ製作所
出願年月日: 20150331
国内外の別: 国外
特許の名称
洗浄用微細ミスト生成装置、口腔内洗浄装置、ノズル、口腔内洗浄方法、および、洗浄用微細ミスト生成装置の洗浄用微細ミスト生成方法
詳細情報
分類:
特許番号: 2015-516366
発明者名: 圓山 重直、佐々木 啓一、岡島 淳之介、守谷 修一、石本 淳、太田 信、伊賀 由佳、冨士 岳志、竹内 裕尚
権利者名: 国立大学法人東北大学、株式会社モリタ製作所
出願年月日: 20150331
国内外の別: 国内移行

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2017-05-30

収支報告書

文献番号
201434015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
29,900,000円
(2)補助金確定額
29,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 15,014,290円
人件費・謝金 0円
旅費 24,600円
その他 7,961,110円
間接経費 6,900,000円
合計 29,900,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-