データヘルス計画と連携した糖尿病リモート医療

文献情報

文献番号
201434012A
報告書区分
総括
研究課題名
データヘルス計画と連携した糖尿病リモート医療
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小林 邦久(福岡大学筑紫病院)
研究分担者(所属機関)
  • 井口 登與志(九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点)
  • 中島 直樹(九州大学病院メディカルインフォメーションセンター)
  • 小池 城司(福岡市医師会成人病センター)
  • 鴨打 正浩(九州大学医学研究院基礎医学部門医療経営・管理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病診療の現状における「治療中断患者が多い」「専門医が少ない」という課題の一つの解決法として,「看護師を現場に派遣,医師は遠隔で診療」する“リモート医療”による糖尿病在宅・職場診療が考えられる.本研究はその必要性の検討およびそれを可能とするための技術開発を目的とした.さらにその技術を使用しておこなう看護師教育の効果を検証し,“リモート医療”を通常の対面診察と比較し,その効果・優位性について検証をおこなった.      

研究方法
1)リモート医療における遠隔往診の必要性の検討
検診受診者の結果とそのレセプトデータとを突合し,医療費分析および医療行動分析をおこなった.
2)遠隔往診の必須項目の決定
現場に派遣される看護師が最低限知っておくべき知識・技術の必須項目を選定し,①身体診察技術(フィジカルアセスメント),②糖尿病合症の徴候発見のための③医師-看護師の治療計画共有および非専門医に対するガイドライン診療支援のための検査・患者教育計画(クリティカルパス)のかたちで規定した.
3)遠隔往診のITシステム開発とそれを用いた看護師教育
派遣された看護師がおこなうフィジカルアセスメント・CDSSをサポートするためのITシステムを開発した.一つ一つの項目に入力していき,入力内容によっては項目が追加される形式として,もれなく情報が得られるようにした.派遣看護師の教育にこのシステムを使用した場合の効果および習得必要時間を座学形式の教育と比較検討した.
4)実証試験
実証試験は模擬患者を用いたシミュレーション,実際の患者に協力を依頼しての院内模擬遠隔,さらには患者の自宅での遠隔往診の3段階でおこなった.また,面接必要時間やフィジカルアセスメント・CDSSの実施率を座学形式あるいはITシステムで教育を受けた派遣看護師で比較した
結果と考察
医療費分析の結果として1割の患者の医療費が全体の5割を占めており,その主要疾患に重症化予防が可能な糖尿病をはじめとする生活習慣病が含まれていることが示された.医療行動分析においては,糖尿病コントロール改善群は非改善群に比して通院習慣・服薬習慣が定着しており,より適切な頻度で検査が実施されていた.開発したITシステムをもちいた派遣看護師教育は座学形式に比して知識習得まで時間が著明に短縮された.実証実験においてはITシステムを使用した看護師群で面接必要時間短縮やフィジカルアセスメント・CDSSの必要項目実施率上昇が認められた.また医師が患者状態を把握するのに必要な時間が短縮され,さらに深い問診が可能となり,カルテ記載量が増加し,内容もより詳細となった.
 初期の糖尿病が多いと思われる40歳代の患者の約6割が治療を受けていない現状がある.その原因としては,待ち時間が長いことや仕事や家事が忙しいことにより定期的な通院が難しく脱落してしまうことが考えられる.また65歳以上の高齢者の糖尿病有病率は約20%とされており,この中には脳梗塞後遺症や整形外科疾患などによる歩行障害や認知症による通院困難例も多い.
 この解決のためにわれわれは「看護師を現場に派遣し,医師は遠隔で診療」する“リモート医療”を実現するための必須項目の決定および技術の開発をおこなうこととした.医師・看護師が患者を訪れる往診やテレビ電話などを用いた遠隔診療を採用しなかったのは,増加し続ける患者に対応できないため,診察ができないことや時間がかかることから充分な診療情報が得られないためである.
 派遣される看護師の能力に依存せずに診療情報を効率的に得られるように,また非糖尿病専門医においてもガイドライン診療が容易に可能となるように,フィジカルアセスメント・CDSS・クリティカルパスなどの必須要件を決定しIT化した.このシステムを使用することで,看護師教育に必要な時間の短縮および効率的な看護師報告で得られる診療情報の量・質の向上,所要時間の短縮が可能となった.
 今後必要と考えられることとして,フィジカルアセスメント・CDSS・クリティカルパスを個々の患者の糖尿病の状態変化や診療ガイドラインの変更・新規診断法・検査項目に即応するために常に改訂していくことがあげられる.また,介入の妥当性を検証していくためには,合併症発症・増悪の抑制率のみならずガイドライン診療達成率などの評価項目を作成していかなければならない.さらに病気に対する認識や性格など患者の特性別の訪問・介入方法の開発などもリモート医療の継続のためには必要であろう.
結論
リモート医療の実現に必要なフィジカルアセスメント・CDSS・クリティカルパスの要件を決定し,ITシステムを開発した.これによって,看護師教育時間の短縮,看護師から医師に送られる情報の質・量の向上および伝達時間の短縮が達成できた.

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201434012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
89,366人の医療費分析を実施、医療費総額約263億円に対し、生活習慣病関連医療費は約164円(約62.1%)と大きな割合を占めていることが分かった。さらに、生活習慣病重症者3,904人(約1割)がその59.7%の医療費を占めており、重症化予防の重要性が示唆された。本研究は、糖尿病を対象疾患としているが、医療費増加抑制の観点から、ターゲット疾患の妥当性が確認された。
臨床的観点からの成果
リモート医療の実現に必要なフィジカルアセスメント・CDSS・クリティカルパスの要件を決定し,ITシステムを開発した.これによって,看護師教育時間の短縮,看護師から医師に送られる情報の質・量の向上および伝達時間の短縮が達成できた.
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
・日本糖尿病学会九州地方会(2015年11月27日(福岡)口演発表 ・第59回日本糖尿病学会全国学術集会(2016年5月19日)ポスターセッション
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-05-27

収支報告書

文献番号
201434012Z