症例別術前シミュレート型心臓カテーテルシミュレーターの開発研究

文献情報

文献番号
201434008A
報告書区分
総括
研究課題名
症例別術前シミュレート型心臓カテーテルシミュレーターの開発研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 泰史(大阪大学大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡山慶太(大阪大学大学院 医学系研究科 )
  • 南都伸介(大阪大学大学院 医学系研究科 )
  • 水野裕八(大阪大学大学院 医学系研究科 )
  • 溝手勇(大阪大学大学院 医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本開発研究の目的は、心臓カテーテルをより安全かつ効率的に行うことを主眼とし、CTデータを3Dプリンターで立体再構成し、実臨床で用いるX線透視下で使用可能な心臓カテーテルシミュレーターを開発することである。具体的には、1) 心臓カテーテルを初めて行う若手医師が冠動脈造影、心筋生検、平易な冠動脈形成術(PCI)、不整脈アブレーションをトレーニングできるモデルを作製、評価すること、2) 個別症例モデルを作製してPCI症例で術前シミュレーションを行うことで、治療成績の向上と医療経済性を評価すること、さらに、3) 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)モデルを作製し、自施設でのトレーニング、並びに他施設への技術指導に役立て、大動脈弁狭窄症の個別症例で有用性を評価することを目指す。循環器疾患は国民医療費の主要な部分を占めており、使用される機器の海外依存度を考慮すると、いかに効率よく必要十分な治療を行うかが今後の医療の質を維持する上で重要と言える。一方で、冠動脈疾患は比較的若い現役世代でも多い疾患であり、本研究で開発するシステムにより、医療の質に貢献することはもちろん、日本経済にも寄与することを目指すものである。
研究方法
 段階的に目的を達成するため、2014年度中に、1) 初学者用のエントリーモデルの作製、評価、2) PCI用個別症例モデルの技術開発、試作、3) TAVIモデルの設計・技術開発を行うことを目指す。
1) 2014年度前半までに冠動脈造影・平易な冠動脈形成術・心筋生検・不整脈アブレーションに対応するエントリーモデルを作製する。
2) 2014年度中に実臨床に近いX線透視下での視認性の追及、モーター駆動循環システムの構築、血管内超音波(IVUS)・光干渉断層法(OCT)のシミュレーションが可能なマテリアルの開発、個別症例に対応する安価なモデル作製を行える作製方法の確立を目指す。さらにこれらの技術を駆使し、2014年中に個別症例モデルの作製を開始する。
3) 今後増加が予想される経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)における初学者用モデルの設計、試作を2014年度中に行う。
尚、本研究では患者の画像情報を使用するため、倫理委員会で承認を得た上、データのやり取りに際しては匿名化し、研究対象者の個人情報管理を徹底した。
結果と考察
1) 初学者用エントリーモデルの作製、評価
 心臓CTのデータを3Dプリンターで立体再構成し、心臓モデルを作製した。エントリーモデルとして、不整脈アブレーションにおける3Dマッピング、すなわちカテーテルの先端で左房をなぞることで、コンピューター上に3Dイメージを構築する手技が可能なことを確認した(右心系モデル)。さらに、webカメラを用いることで、研修医室などを想定したベンチでもカテーテルの動きを再現したトレーニングができることを確認した。また、冠動脈造影、平易なPCIが可能なモデル(冠動脈モデル)を作製し、X線透視下でトレーニングが可能なことを確認した。知財保護のため、2014年度内はプロジェクトメンバーのみでモデルの評価を行い、モデルが若手医師の研修に十分使用可能であることを確認した。広く世の中に貢献するべく、2015年度中に共同研究企業を核とし、市販を開始する。
2) PCI用個別症例モデルの技術開発、試作
X線透視下での冠動脈造影を可能にすべく、心臓モデルの設計を一から行い、生理的な血流を再現できる構造の心大血管3Dモデルを作製した。さらに、拍動流を生み出せるポンプを導入し、作製した3Dモデルと組み合わせることで循環システムの構築を行った。このシステムを病院の血管造影室に持ち込み、本番同様に造影剤を用いた実験を行った結果、実際の画像にかなり近い透視画像が得られることが確認できた。また、システム全体に関する特許出願を行い、昨年に続きMEDICA2014に出展した。さらに、倫理委員会での承認を経て、実際の臨床データの収集を開始し、コンピューター上でモデル作製のためのデータ変換方法を検討し、実際に試作を行った。
3) TAVIモデルの設計・技術開発
TAVIは主に大腿動脈と心尖部からの2通りのアプローチ方法があるが、両方に対応できるコンセプトでの設計を行い、実際にカテーテルが挿入可能であることを確認した。さらに、大動脈弁狭窄モデルを設計、試作し、循環ポンプの設計、仕様の検討を行った。また、倫理委員会での承認後、実際の臨床データの収集を開始し、コンピューター上でのデータ変換を開始した。
結論
 CTデータを3Dプリンターで立体再構成し、実臨床で用いるX線透視下で使用可能な心臓カテーテルシミュレーターを開発した。知財保護の観点から、研究開発メンバーによる評価を行い、今後の若手医師のトレーニングに有用であることを確認した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201434008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
拍動型循環システムを伴う心臓大血管モデルを開発したことで、これまでは模擬的にしか行えなかったトレーニングが、X線透視下で行えるようになった。机の上で簡便にカテーテル操作ができることも重要であるが、実際に臨床で使用する血管造影システムを用いて、造影用カテーテルやバルーンカテーテルを冠動脈に挿入し血管造影が行えることで、シミュレーションの幅を広げ、より現実の臨床に近づけることができたと考察する。
臨床的観点からの成果
消化管用内視鏡や、気管支鏡などのトレーニングシステムはこれまでにも使用されているが、心臓カテーテルはX線透視を用いるという性質上バーチャルなシステムしか存在せず、また非常に高額であるため、一部の大学病院などでしか導入されていなかった。今回開発したシステムはX線透視下で使用でき、コスト的にも研修医が豊富な市中病院で導入可能であるため、カテーテルを触り始める段階でのシミュレーターを用いたトレーニングが行えるようになった。
ガイドライン等の開発
現在、特にわが国においては、低侵襲医療の発達とともに、従来冠動脈バイパス術で治療されていた、いわゆる複雑病変に分類される冠動脈疾患の治療をカテーテルで行う例が増加しており、術前の病状評価、シミュレーションが非常に重要になってきている。現時点では3Dモデルの作製費用が高額であるため、全例にモデルによるシミュレーションを応用することは困難であるが、今後開発を進める中で、コストに見合う利益があるかどうかの評価を目指す。
その他行政的観点からの成果
現行のバーチャルシミュレーターは導入コストが高額で、システムも大がかりなものであり、大学病院などの教育機関以外で使用するのは現実的でない。スーパーローテーション制度開始後、多くの研修医は市中病院で研修を行っており、心臓カテーテルの基本的な技術もその間に学ぶことが多く、最初にカテーテルを習う際に臨床現場(病院のカテ室)で手軽にトレーニングが行えるシステムが望まれている。今回のシステムは、このニーズを満たすものであり、主に若手医師のカテーテル手技の精度向上による合併症抑制に貢献できると考える。
その他のインパクト
世界最大の医療機器展示会であるMEDICAへの3年連続出展を皮切りに、主に欧米の学会に出展し好評を得た。海外の医療機器製販企業から母国、及びその他の国への導入検討を依頼され、既に北米や豪州では導入事例がある。今後、日本製のカテーテルや心臓カテーテル関連医療機器を海外展開する際に、日本人術者による手技の指導にも役立てられるものと考察する。既に共同研究企業より販売が開始され、医療機器メーカーや大学の医学部に納められており、研究レベルにとどまることなく、広く世の中に貢献できると考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
15件
国内、国外を含む
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-06-25

収支報告書

文献番号
201434008Z