肝移植後微小血管障害症に対する補体制御の有効性に関する医師主導型第II/III相治験

文献情報

文献番号
201433010A
報告書区分
総括
研究課題名
肝移植後微小血管障害症に対する補体制御の有効性に関する医師主導型第II/III相治験
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
上本 伸二(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 章(京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター)
  • 秦 浩一郎(京都大学 医学研究科 肝胆膵・移植外科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
33,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
【目的】 肝移植(Liver Transplantation: LTx)後早期の血栓性微小血管障害症(Thrombotic Microangiopathy: TMA)様病態(”LTx-TMA”)に対して、抗補体C5抗体エクリズマブ (ソリリス®)の治療効果を検証する。
【背景】 肝移植後の周術期死亡率は依然高く、特に移植肝予備能の小さい 成人生体部分肝移植では今日でもなお2割にも達する。背景にある重篤な病態の解明・克服が急務である。その一因として我々は、以前より肝移植後の微小血管障害に着目し研究を進めてきたが、この病態の詳細は長らく明らかではなく、現実的には明確な治療法や予防手段はおろかその診断法すら存在しなかった。肝移植領域における、21世紀に残された”Unmet Medical Needs”であると云える。
今回、肝移植後には、臓器移植に不可避である虚血/再灌流障害や種々の免疫反応により、程度の差はあれほぼ全例でTMA様の病態(”LTx-TMA”)に陥っており、結果的に移植肝血管床内に多数の血小板血栓が形成されること、その程度が強ければ強い程、末梢血中の血小板減少の遷延と共に肝移植後の予後が悪化することを解明しつつある。
そこで、2010年に臨床応用され、発作性夜間血色素尿症 (PNH) や非典型溶血性尿毒症症候群 (aHUS) といった他領域の微小血管障害症に対して、強力な治療効果を示した抗補体C5抗体 エクリズマブに着目し、本薬のドラッグ・リポジショニングにより”LTx-TMA” においても現状のブレイクスルーとなる可能性を持つと考えた。米国でも現在、脳死腎移植を対象とした本薬の治験が開始されている。1990年以降、1,700例に及ぶ当院での膨大な臨床データと治療経験を背景として、抗補体抗体を肝移植周術期に投与する医師主導型治験を効率よく実施し、世界に先駆けて肝移植領域への補体制御の適応拡大を目指したい。
研究方法
 ”LTx-TMA”の病態解明に向けては動物実験による非臨床試験でのエビデンス構築を、また医師主導型治験によりEculizumabの有効性・安全性を検証する。
結果と考察
 平成26年8月6日に本厚労科研費の採択を受け、今日までの半年間で以下の知見と成果を得た。
基礎研究:
① 移植肝予備能に劣る成人生体部分肝移植においては、LTx-TMAが致死的な病態となることを立証すべく、“ラット肝硬変+20%部分肝移植モデル”を既に確立した。現在、肝移植周術期における補体系の動態解明 (補体学会との共同研究)と共に、アレクシオン・ファーマ社から供与されたラット抗C5抗体の治療効果を検証中である。
② LTx-TMA病態における補体系の関与を立証すべく、補体(C5)欠損マウスと野生型を用いた肝虚血再灌流モデルにおける検討に着手した。さらにマウス抗C5特異的抗体の投与による肝障害軽減効果の検証を準備中である。
③ 急性期補体動態のさらなる解明に向けて、新規補体動態マーカーとして Soluble MACの測定系の確立に着手した(補体学会との共同研究)。
臨床研究:
PMDAとの事前面談(2013年7月13日)を踏まえ、当初は 平成27年度に本学単施設による第Ⅱ相試験を実施し、肝移植領域における本薬の適切な用法用量設定とPOCの確立を得た後に、平成28年度には多施設第Ⅲ相試験にてその効果を検証する計画であった。
しかしながら、PMDAとの薬事戦略相談(2015年3月16日)及びその事前照会事項(2015年2~3月)により、
(A) 関連学会等を通じて、LTx-TMAの疾患概念の確立、診断基準の策定等が成されることが望ましい。
(B) その上で、まずは安全性試験として本学単施設による治験を実施し、同試験において探索的に有効性を検討するデザインへの変更が望ましい。
との見解を頂いた。
A に対して、日本肝移植研究会主導で、平成27年度に国内の肝移植施設にアンケート調査を実施し、本邦における“Nationwide Survey”を施行、結果を広く国内外に発信していくことで、LTx-TMAの疾患概念、診断基準の確立、ひいてはガイドラインの策定を目指す。
B に対して、安全性試験デザインへの変更、治験計画の見直しを推し進めているところである。
結論
 非臨床試験においては、初年度の半年間としては順調な開始期間であったと云える。臨床試験(医師主導型治験)においては、平成27年度中に日本肝移植研究会主導で全国調査を行うと共に、有効性試験から安全性試験へのデザイン変更を進めている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201433010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
成人生体部分肝移植においては、肝移植後微小血管障害症(LTx-TMA)が致死的となることを立証すべく、基礎・臨床の両面から研究を進めている。臨床研究では、血小板数が肝移植予後に直結すること、またLTx-TMA Scoreにより肝移植直後のTMA病態を数値化(grading)することで、成人生体部分肝移植後の短期予後を類推しうるモデルを構築、現在投稿中である。基礎研究では、“ラット20%部分肝移植モデル”を確立、肝移植周術期における補体系動態解明と共に、抗C5抗体の治療効果を検証中である。
臨床的観点からの成果
PMDA対面助言(2015/3/16)にて、①関連学会を通じたLTx-TMAの疾患概念の確立、②安全性試験への変更が望ましい、との助言を得て、第Ⅰ相試験へ計画変更した。一方治験薬提供元より、腎移植領域での先行治験で有効性が確認されなかった結果を受け、2015/11月、非臨床試験にて補体関与の確証が得られなければ治験薬提供できない、との方針変更があった。2016/1/15、AMED医薬品研究課に相談のうえ、非臨床試験を遂行し、更なるエビデンス構築と治験実施の可能性に向け邁進するよう助言を頂いた。
ガイドライン等の開発
第33回日本肝移植研究会(2015/5/28~29神戸市)役員会にて、「生体部分肝移植後早期の血小板減少(=LTx-TMA)がその予後を規定する」か否かの全国調査実施が可決され、その結果に基きLTx-TMAの疾患概念、診断基準の確立、ひいてはガイドライン策定を目指す計画であった。2015/11月、治験遅延が決定したことにより一旦保留となった経緯があるが、2016/1月のAMEDとの相談により、年度内での治験実施の有無によらず本研究を遂行する方針となり、非臨床試験を継続した。
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
第33回日本肝移植研究会、日本移植学会、日本肝胆膵外科学会、日本消化器外科学会など
学会発表(国際学会等)
12件
ESOT(ヨーロッパ移植学会)2015 X 4件 ESSR(ヨーロッパ外科研究学会)2015 X 1件 2017 X 1; 2018 X 3件など
その他成果(特許の出願)
1件
下記参照
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
ADAMTS13を主成分とする診断薬および医薬品
詳細情報
分類:
特許番号: WO2017/119498
発明者名: 秦浩一郎、平尾浩史、久保田豊成、上本伸二
権利者名: 京都大学及び化学及血清療法研究所
出願年月日: 20170106
国内外の別: PCT国際出願

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kubota T, Hata K, Sozu T, et al.
Impact of Donor Age on Recipient Survival in Adult-to-Adult Living-donor Liver Transplantation.
Annals of Surgery , 267 (6) , 1126-1133  (2018)
doi: 10.1097/SLA.0000000000002194. PubMed PMID: 28288061.

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-06-10

収支報告書

文献番号
201433010Z