文献情報
文献番号
201433006A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト代謝性肝疾患モデルブタの作出
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
絵野沢 伸(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 梅澤明弘(国立成育医療研究センター研究所)
- 長嶋比呂志(明治大学農学部)
- 佐竹典明(富士マイクラ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
46,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現状では肝移植が唯一の根治療法である代謝性肝疾患に対して、細胞医薬品をはじめ、遺伝子治療や新規薬剤開発のPOC(proof of concept、概念実証)を得るための病態モデルブタを作出し、非臨床試験プロトコールを確立する。
代謝性肝疾患の多くは単遺伝子変異であり、臓器移植によって全肝を置換するよりは細胞移植や遺伝子治療によることが望ましい。欧米を中心に肝細胞移植や肝幹細胞移植の治験や臨床研究が開始されている。国立成育医療研究センターにおいては2013年8月に尿素回路異常(オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損)児に対してわが国初、世界的には同様な疾患に対するものとして10例目の肝細胞移植を行い、臨床症状の改善と肝臓移植までの橋渡しに成功した。
遺伝子改変ブタの作出の第一人者である長嶋分担者は核移植技術によって作られたOTC欠損ブタのキメラ個体を得て作出を容易にする。さらに今後、他の代謝性肝疾患モデルの作成において必要となる遺伝子ノックアウト細胞パネルの作成を行う。病理学ならびに再生医療の専門家である梅澤分担者は得られた疾患モデルブタを病理学および生化学的に検証する。わが国初の肝細胞移植において非臨床試験貫徹ならびに移植用細胞調製の実績がある絵野沢代表者はモデルブタに対する肝細胞移植実験系を構築する。また、わが国発の世界最小実験専用ブタ、マイクロミニブタの作出ならびに維持、供給を行っている富士マイクラ株式会社の佐竹分担研究者は豊富な帝王切開経験を生かし、早産性に対する対応を行う。
代謝性肝疾患の多くは単遺伝子変異であり、臓器移植によって全肝を置換するよりは細胞移植や遺伝子治療によることが望ましい。欧米を中心に肝細胞移植や肝幹細胞移植の治験や臨床研究が開始されている。国立成育医療研究センターにおいては2013年8月に尿素回路異常(オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損)児に対してわが国初、世界的には同様な疾患に対するものとして10例目の肝細胞移植を行い、臨床症状の改善と肝臓移植までの橋渡しに成功した。
遺伝子改変ブタの作出の第一人者である長嶋分担者は核移植技術によって作られたOTC欠損ブタのキメラ個体を得て作出を容易にする。さらに今後、他の代謝性肝疾患モデルの作成において必要となる遺伝子ノックアウト細胞パネルの作成を行う。病理学ならびに再生医療の専門家である梅澤分担者は得られた疾患モデルブタを病理学および生化学的に検証する。わが国初の肝細胞移植において非臨床試験貫徹ならびに移植用細胞調製の実績がある絵野沢代表者はモデルブタに対する肝細胞移植実験系を構築する。また、わが国発の世界最小実験専用ブタ、マイクロミニブタの作出ならびに維持、供給を行っている富士マイクラ株式会社の佐竹分担研究者は豊富な帝王切開経験を生かし、早産性に対する対応を行う。
研究方法
OTC遺伝子を欠損した精子を産生するOTCDキメラ雄を野生型雌と交配させ産仔を得た。遺伝子解析によって確認の後、血液、尿、肝臓他全臓器を採取し生化学ならびに病理組織学的検討を行った。
OTC遺伝子ヘテロ欠損雌個体の同腹雄の肝中葉左領域に、クサビラオレンジ遺伝子導入ブタ肝細胞を移植した。免疫抑制剤として徐放性タクロリムス製剤(グラセプタ)0.5mg/カプセル/日を経口投与した。
分娩予定日の3、5、7日前に帝王切開し、人工哺育条件と早産仔の生存率を調べた。
ブタ胎仔由来初代線維芽細胞を用い、グルコース6リン酸トランスロカーゼ(糖原病Ib原因遺伝子、以下同)、メチルマロニルCoAムターゼ(メチルマロン酸血症)、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(プロピオン酸血症)遺伝子をTALEN法によって欠失させ、細胞をクローニングした。
(倫理面への配慮)
遺伝子改変ブタの作出、繁殖、動物実験は遺伝子組換え実験および動物実験に対する承認を受けて実施した。
OTC遺伝子ヘテロ欠損雌個体の同腹雄の肝中葉左領域に、クサビラオレンジ遺伝子導入ブタ肝細胞を移植した。免疫抑制剤として徐放性タクロリムス製剤(グラセプタ)0.5mg/カプセル/日を経口投与した。
分娩予定日の3、5、7日前に帝王切開し、人工哺育条件と早産仔の生存率を調べた。
ブタ胎仔由来初代線維芽細胞を用い、グルコース6リン酸トランスロカーゼ(糖原病Ib原因遺伝子、以下同)、メチルマロニルCoAムターゼ(メチルマロン酸血症)、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(プロピオン酸血症)遺伝子をTALEN法によって欠失させ、細胞をクローニングした。
(倫理面への配慮)
遺伝子改変ブタの作出、繁殖、動物実験は遺伝子組換え実験および動物実験に対する承認を受けて実施した。
結果と考察
得られた雌12匹と雄21匹のうち、遺伝子解析により雌は全てOTCヘテロ欠損であることが確認された。雌個体の一部は出生後に血中アンモニア濃度が300micro-g/dL以上の高値を示し徐々に衰弱した。この個体の肝組織のOTC活性は野生型に比べ約1/4の低値、尿中オロト酸は約30倍の高値を示した。高アンモニア血症を発症しない変異遺伝子キャリアの雌個体は同腹の野生型雄個体と同様な成長を示し、野生型雄との交配によりOTC欠損雄が得られるものと考えられた。
肝細胞移植で大口径(14G)中心静脈栄養用カテーテルを門脈本幹に刺入、肝中葉左領域の門脈基部にカニューレ先端を留置した。位置は少量のインドシアニングリーンの注入により確認し、その後、速やかに肝細胞懸濁液を輸注した。門脈壁の刺入点のマイクロ縫合により出血を極少量に抑え、安全に施行する方法を確立した。移植1ヶ月後の免疫抑制グラセプタの血中濃度(トラフ値)は1.2ng/mLと臨床的目標値の1/5程度だったが移植肝細胞が発するクサビラオレンジの蛍光は免疫抑制剤を与えた個体で強く観察された。
3日および5日前の帝王切開仔は今回開発の人工哺育法により生育が可能であった。7日前仔は活力が著しく低く1週間以上の生存はなかった。生存個体は5か月齢現在まで正常個体と同様に成長し、この胎齢であれば早産リスクの回避が可能であることがわかった。
各ノックアウト細胞の樹立ライン数は糖原病Ib型1、メチルマロン酸血症2、プロピオン酸血症1であった。
肝細胞移植で大口径(14G)中心静脈栄養用カテーテルを門脈本幹に刺入、肝中葉左領域の門脈基部にカニューレ先端を留置した。位置は少量のインドシアニングリーンの注入により確認し、その後、速やかに肝細胞懸濁液を輸注した。門脈壁の刺入点のマイクロ縫合により出血を極少量に抑え、安全に施行する方法を確立した。移植1ヶ月後の免疫抑制グラセプタの血中濃度(トラフ値)は1.2ng/mLと臨床的目標値の1/5程度だったが移植肝細胞が発するクサビラオレンジの蛍光は免疫抑制剤を与えた個体で強く観察された。
3日および5日前の帝王切開仔は今回開発の人工哺育法により生育が可能であった。7日前仔は活力が著しく低く1週間以上の生存はなかった。生存個体は5か月齢現在まで正常個体と同様に成長し、この胎齢であれば早産リスクの回避が可能であることがわかった。
各ノックアウト細胞の樹立ライン数は糖原病Ib型1、メチルマロン酸血症2、プロピオン酸血症1であった。
結論
高アンモニア血症モデルブタが安定的に作出できるヘテロOTC欠損雌が得られた。このうち高アンモニア血症など典型症状を示す個体があった。非臨床研究の実施が可能な人工哺育系と肝細胞移植実験系を確立した。他の単遺伝子変異代謝疾患モデルブタ作出の基盤となるノックアウト細胞パネルが構築できた。
公開日・更新日
公開日
2015-04-22
更新日
-