遺伝子工学的手法による病態モデル培養細胞系作出と育成維持に関する研究

文献情報

文献番号
199800427A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子工学的手法による病態モデル培養細胞系作出と育成維持に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲穂(財団法人食品薬品安全センター秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 久郷裕之(鳥取大学医学部)
  • 加藤秀樹(浜松医科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病態関連遺伝子やヒトゲノム解析等の研究資材に有用な種々の細胞系の作出と、それらの品質管理に関する手法の開発を主目的とし、下記の課題を実施した。1)ヒトゲノム解析の資材として極めて有用な、げっ歯類の単一染色体雑種細胞を樹立し、性状解析および標準化を行い、研究資源として利用する。2)ノックアウトマウス、トランスジェニックマウスなどの遺伝子改変動物に由来する培養細胞株の開発、収集を開始を行う。その一環として、コネクシン43遺伝子ノックアウトマウスより繊維芽細胞を単離し、その性状解析を行った。3)ヒト単一染色体を保持するニワトリDT40細胞ライブラリーを作製し、相同組み替えの系を用いたヒト染色体改変を行い、遺伝子マッピングや機能解析、さらには染色体高次構造解析の資材とする。4) 貴重な株化細胞や、胚の凍結保存バンクでは、遺伝的品質管理手法のために十分な細胞数が得られない場合があるため、少量の細胞を対象とした検査手法と、最小必要細胞数の検討を行う。
研究方法
1)染色体供与細胞には、マウスBALB/c系統とC57 BL/6系統を交配して得た雑種胎仔を用い、繊維芽細胞を初代培養した。薬剤耐性遺伝子であるneo遺伝子を持つ発現ベクターを導入し、染色体供与細胞とした。本年度は、チャイニーズハムスターCHO-K1細胞および、インドホエジカFM7細胞を受容細胞として用いた。また、融合法の見直しを行い、条件設定を行った。本年度は、薬剤耐性マーカーを導入したマウス初代繊維芽細胞を直接コルセミド処理することにより、微小核融合法を行った。得られたクローンはマウス反復配列間PCRを行いマウス染色体保持率の検査を行った。また、キナクリン分染法、全マウスプローブを用いたFISHによって、導入マウス染色体の検出を試みた。2)コネクシン43遺伝子を片アリルおよび両アリルをノックアウトしたマウス胎児よりDNAを抽出し、Cx43内に設定したプライマを用いたPCRにより、欠損を確認した。欠損が確認された胎児を細切後、トリプシン処理しメッシュを通した細胞をディシュに播種し、3日おきに6cmディッシュに継代することにより、細胞系を樹立した。これらの細胞株について、Cx43遺伝子の発現量と、ギャップ結合コミュニケーションの相関、細胞の増殖性の相関を検討した。3)DT40細胞をポリ-L-リジンでコーティングした6穴プレートに播種しプレートを1,200rpm、3分間遠心を行った。2時間、37℃のインキュベータ内で静置後、血清を含まないDMEMで2回洗浄した。上清のDMEMを静かに除去し、フィトヘムアグルチニンを含む無血清培養液に、微小核細胞の懸濁液を加え、遠心を行った。上清を除去し、47%PEGを加え、1分間静置処理した。血清を含む培地で1日間培養後、ピペッティングにより細胞を分散し、24穴プレートに播種した。選択培地に交換し、約3週間後に耐性クローンを分離した。得られた細胞クローンは、 Alu-PCR banding patternおよび染色体解析により導入染色体の状態を確認した。4)培養細胞株のモデルとして、マウスの顎下リンパ節より採取したリンパ球を用いた。また、マウス胚についてはCB6F1マウスの精子および卵子をMWM培地内で体外受精たものを用いた。DNA調製法の検討は4種類の調整法、すなわち、標準法(プロテナーゼK/フェノール/クロロフォルム抽出法)、A社キット、B社キットおよび核DNA簡易抽出法についてリンパ球を使って行った。核DNA簡易抽出法は我々が考案したもので、プロトコールは下記の通りである。リンパ球細胞を1×104個/mlに調整後 各サンプルが規定細胞数(5~640個/ml)になるように調整した。次にこれら細胞にProteinase K(10mg/ml)を含むLysis buffer (50mM KCl、 100mM Tris-HCl (pH8.4), 0.1% Triton X)を加えて20分間細胞融解を行い、PCRのtemplateとした。昨年度までの研究結果で有効性が確認されたマイクロサテライトマーカーを用いて常法に従いPCRを行った。PCRプロダクトはアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチディウムブロマイド染色を行って検出した。
結果と考察
1)本年度は、昨年度に引き続き、げっ歯類単一染色体ライブラリー細胞の作製を行った。昨年度得られた雑種細胞クローンに
ついては、導入染色体の脱落、断片化が高頻度に認められたが、これは、おそらく受容細胞の細胞周期との同期が不完全であるためと考えられる。そのため、受容細胞の再検討と、なるべく短期間で雑種細胞クローンを作製して脱落・断片化を防ぐ方法を検討した。受容細胞については、核型分析の効率化が期待されるインドホエジカFM7細胞を入手し、微小核の形成条件、単離法を確立した。また、染色体供与細胞より、直接微小核を調製する手法を検討し、効率的な単一染色体ライブラリ細胞の作成を可能にした。これらの技術を用いて、マウス系統間雑種より得た初代繊維芽細胞を材料として単一染色体ライブラリー細胞の作製技術の検討を行い、新たに67株のクローンを得ることができた。2)多くのがん細胞でのGJIC能の低下、TPA等のプロモータによるGJICの阻害、Cx遺伝子の導入によるがん細胞の細胞増殖抑制等の結果より、発がん過程において重要な役割を果たしていると考えられている。Cx43は主に心臓および繊維芽細胞で発現しており、近年、この遺伝子のノックアウトマウスが作製された。そこで、同ノックアウトマウスに由来する培養細胞系は、がんの発現機構の研究に有用と考え、初代繊維芽細胞株を作製した。作製された細胞株の性状解析を行った結果、これまでのコネクシン遺伝子研究で得られている知見や、分子レベルの解析より、期待されたのと同様の挙動を示し、コネクシンの細胞生物学的研究や発がん過程の研究に有用なものであることが示唆された。3) 本年度においては、DT40細胞にヒト単一染色体を安定に効率よく導入する条件を確認できたと考えられる。さらに、前年度と合わせ9種類の染色体を各々保持するDT40細胞を作製した。これらの細胞クローンは、DT40細胞の高頻度相同組み換え能を利用し、ヒト染色体の改変の場を提供するものであり、ヒト人工染色体の作製やヒト染色体に欠失や転座を誘発させ、その機能解析を行うことにより疾病原因遺伝子をマッピングするための有用な資材になると考えられる。今後は、さらに他の染色体の導入を試み、単一染色体ライブラリーの完成を目指す。4)リンパ球および胚からのDNA調製に最も適した方法をマウスリンパ球を用い検討した結果、我々が開発した核DNA簡易抽出法が他の方法よりも少ない細胞数でPCRプロダクトのバンドを認めることができた。核DNA簡易抽出法により1個の桑実期胚から少なくとも1種類のマイクロサテライトマーカーの検出に十分なテンプレートDNA 量を得ることが出来た。実際に、簡易法で調製したDNA templateを材料にして、クリティカルサブセット(5種類のマイクロサテライトマーカー)を用いた胚の遺伝的モニタ リングを行うことができた。動物種の鑑別に必要なリボソームDNAや性別判定に必要なマーカーについても高感度の染色法も組み合わせることによって検出できる可能性が示された。桑実期胚ではプライマーの種類により検出可能な胚の数が異なっていたことからプライマーにより検出感度が異なることが示唆され、今後、モニタリングに適したプライマーを選択していくことによって、効率的に遺伝的モニタリングを実施できることが示唆された。
結論
1)昨年度に引き続き、親起源が明らかなげっ歯類単一染色体ライブラリーの作製を行った。昨年度に得られたクローンには導入染色体の断片化や脱落が生じていたため、受容細胞の検討、融合法の改良を行い、67株の候補クローンを得ることができた。2)これまでの研究によって、発がんや細胞増殖に重要な役割を果たしていると考えられるコネクシン43遺伝子をノックアウトしたマウスより、初代繊維芽細胞株を作製した。作製された細胞株の性状解析を行った結果、コネクシンの細胞生物学的研究や発がん過程の研究に有用なものであることが示唆された。3)DT40細胞にヒト単一染色体を安定に効率よく導入する条件を確立した。ヒト5番、6番、7番、14番、21番、22番染色体を各々を完全に保持するDT40細胞を樹立した。4)リンパ球をモデルとした培養細胞株の条件検討では、我々が開発した核DNA簡易抽出法がもっとも少ない細胞数でマイクロサテライトマーカーを検
出でき、1個のマーカーにつき、40細胞で検出可能なことが示された。また、胚については発生ステージにもよるが、1個から10個程度の胚で検出できることが示された。今後、さらに最適なプライマーを用いることにより、効率的に少数細胞による遺伝的モニタリングを実施できることが示唆された。

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