ヒトiPS細胞等由来分化細胞の安全性に対するレシピエントの免疫状態の影響評価法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201432012A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトiPS細胞等由来分化細胞の安全性に対するレシピエントの免疫状態の影響評価法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 早川 堯夫(近畿大学 薬学総合研究所)
  • 梅澤 明弘(独)国立成育医療研究センター 再生医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトiPS細胞等の多能性幹細胞由来移植細胞の臨床応用にあたって、非臨床段階での造腫瘍性評価は、最大の縊路とされている。本研究では、ヒトiPS細胞由来分化細胞を移植細胞モデルとし、異なる免疫抑制状態のモデル動物評価系を用いて、製品中の腫瘍性細胞の混在量や混在率と陽性検出の関係づけ、移植細胞総数・移植部位などの相異が検出感度を含む造腫瘍性評価に与える影響について検討する。これらの研究を通じ、自己由来または同種由来の各種ヒトiPS細胞等由来移植細胞の特性と臨床適用法、免疫抑制剤使用の有無や抑制作用の強弱に応じた適正な造腫瘍性評価法の体系化、ならびにFirst-in-Humanでの臨床適用の判断のための結果の解釈・対策を可能にするデータを集積する。
研究方法
自然免疫において主要な役割を果たしているヒト由来のナチュラルキラー細胞(NK細胞)を、重度免疫不全マウスに生着させることにより、ヒトキメラ動物モデルを作製し、ヒトiPS細胞の造腫瘍性試験を行い、腫瘍形成率の変化における自然免疫の影響の検討を行った。具体的には、ヒト末梢血由来単核細胞からNK細胞の拡大培養を行い、T細胞の混入を最小限にした高純度の移植用のNK細胞を得た。これらの拡大培養NK細胞を、NOG-hIL2マウス(T細胞、B細胞およびNK細胞を欠損する重度免疫不全NOGマウスにヒトIL-2を発現させたトランスジェニックマウス)に尾静脈投与し、生着させることにより、遺伝的背景が揃ったNK細胞の有無による免疫状態の異なるモデル動物を作製した。これらのモデル動物を用いたヒトiPS細胞の造腫瘍性試験を行うため、細胞数の異なるヒトiPS細胞を皮下投与し、NK細胞の生着の確認とともにiPS細胞の腫瘍形成の観察を行った。
結果と考察
調製したNK細胞はCD3-CD56+細胞が99.8%と、Tリンパ球の混入が極めて低く、NK細胞の純度が極めて高いものであった。これらの細胞をNOG-IL2マウスに投与し、最終投与後22日目でのNK細胞のマウス末梢血での生着率は、抗ヒトCD45抗体を用いたフローサイトメトリーで解析を行ったところ、群における平均値で10~20%であった。血液中でのヒトIL-2濃度が検出限界以下のマウスでは、ヒトNK細胞の生着が認められなかったことから、ヒトIL-2の発現は重度免疫不全マウスにおけるヒトNK細胞の生着に必須であることが示唆された。現在のところ、iPS細胞移植後4週目までマウスの腫瘍形成観察を行ったが、NK細胞移植有無の両群で、まだ腫瘍形成は認められていない。今後観察を16週目まで行い、ヒトNK細胞の移植有無についてTPD50(tumor-producing doses at the 50% endpoint)を算出し、TPD50の違いによりNK 細胞のiPS細胞に対する傷害性を評価する予定である。
結論
ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞は、元来の性質として造腫瘍性を有するため、再生医療や細胞治療を目的としたヒトiPS細胞由来移植細胞に混入する未分化細胞の腫瘍形成が懸念される。しかしながら臨床応用においては、製品毎に移植細胞数や原材料としてのiPS細胞の種類は様々であることや、また、免疫抑制剤の使用状況の違い(患者の免疫状態の違い)も考慮する必要がある。今年度の研究においては、自然免疫において主要な役割を果たしているNK細胞が、ヒトiPS細胞の造腫瘍性に対してどの程度の細胞傷害性を有するのかをin vivoで検討することを試みた。今後、製品の特性と患者の免疫状態を考慮した適正な造腫瘍性評価法の体系化に繋げていきたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201432012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では,異なる免疫抑制状態のモデル動物評価系を用いて,iPS細胞加工製品中の腫瘍性細胞の混在量や混在率と陽性検出の関係づけ,移植細胞総数・移植部位などの相異が検出感度を含む造腫瘍性評価に与える影響について検討する.本年度は,ヒトNK細胞を生着させた重度免疫不全マウスに,ヒトiPS細胞を移植し,腫瘍形成の経過観察を行った.自然免疫で主要な役割を担うNK細胞の,ヒトiPS細胞の造腫瘍性に対する細胞傷害性をin vivoで検討することにより,適正な造腫瘍性評価法の体系化に資すると期待される.
臨床的観点からの成果
ヒトiPS細胞由来移植細胞の臨床応用にあたって,非臨床段階での造腫瘍性評価は,最大の縊路とされている.本研究の実施を通じて導き出された再生医療等製品/細胞加工物の造腫瘍性試験の考え方については,総説を執筆し,免疫不全動物を用いた造腫瘍性評価法や製品の造腫瘍性に対する考え方等について解説した.これらの総説は,再生医療等製品/細胞加工物の開発における造腫瘍性試験のデザインやデータ解釈の際に有用であると考えられる.
ガイドライン等の開発
平成26年度は初年度であり,本研究で得られたデータは,ガイドライン(案)中およびその作成の過程において直接参照するには更なる検証が必要な段階にある.今後,データを重ねると同時に科学的解釈を加えることにより,ヒトiPS細胞由来移植細胞の造腫瘍性評価のための試験法およびその解釈法の確立・標準化・ガイドライン(案)作成の作業を進める予定.
その他行政的観点からの成果
本研究の実施を通じて導き出された再生医療等製品/細胞加工物の造腫瘍性試験の考え方は,厚生労働省「革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業」における複数の採択課題(再生医療等製品分野)に取り込まれており,各課題で開発対象とされている再生医療等製品の試験デザイン及び試験結果の解釈において活用されている.なお,上記促進事業の中では対象となる再生医療等製品の品質・安全性・有効性に関連するガイドライン(案)が作成される予定である.
その他のインパクト
本研究の実施を通じて導き出された造腫瘍性試験の考え方等について,IABS,医薬品医療機器総合機構(PMDA),JST,医薬基盤研究所(NIBIO)の国際合同ワークショップ(平成27年2月18-19日,東京)において発表されており,海外の研究者・規制当局者等にも影響を与えている.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
悪性形質転換の検出方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-176861
発明者名: 草川森士, 安田 智, 佐藤陽治
権利者名: 草川森士, 安田 智, 佐藤陽治
出願年月日: 20140901
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kono K, Takada N, Sato Y. et al.
Characterization of the cell growth analysis for detection of immortal cellular impurities in human mesenchymal stem cells.
Biologicals , 43 , 146-149  (2015)
原著論文2
Kusakawa S, Machida K, Sato Y. et al.
Characterization of in vivo tumorigenicity tests using severe immunodeficient NOD/Shi-scid IL2Rgamma null mice for detection of tumorigenic cellular impurities in human cell-processed therapeutic products.
Regenerative Therapy , 1 , 30-37  (2015)
原著論文3
Tano K, Yasuda S, Sato Y. et al.
A novel in vitro method for detecting undifferentiated human pluripotent stem cells as impurities in cell therapy products using a highly efficient culture system.
PLoS One , 9  (2014)
原著論文4
Akutsu H, Machida M, Umezawa A. et al.
Xenogeneic-free defined conditions for derivation and expansion of human embryonic stem cells with mesenchymal stem cells.
Regenerative Therapy , 1 , 18-29  (2015)
原著論文5
Nasu M, Takayama S, Umezawa A.
Endochondral ossification model system: designed cell fate of human epiphyseal chondrocytes during long-term implantation.
J Cell Physiol , 230 (6) , 1376-1388  (2015)
原著論文6
Higuchi A, Ling QD, Umezawa A. et al.
Generation of pluripotent stem cells without the use of genetic material.
Lab Invest , 95 (1) , 26-42  (2015)
原著論文7
Enosawa S, Horikawa R, Kasahara M. et al.
Hepatocyte transplantation using a living donor reduced graft in a baby with ornithine transcarbamylase deficiency: a novel source of hepatocytes.
Liver Transpl , 20 (3) , 391-393  (2014)
原著論文8
Aino M, Nishida E, Saito M. et al.
Isolation and characterization of the human immature osteoblast culture system from the alveolar bones of aged donors for bone regeneration therapy.
Expert Opin Biol Ther , 14 (12) , 1731-1744  (2014)
原著論文9
Toyoda M, Umezawa A.
Stem cells bond our organs/tissues and engineering products.
Circ J. , 78 (7) , 1582-1583  (2014)
原著論文10
Kondo Y, Iwao T, Ohmori S. et al.
An efficient method for differentiation of human induced pluripotent stem cells into hepatocyte-like cells retaining drug metabolizing activity.
Drug Metab Pharmacokinet , 29 (3) , 237-243  (2014)
原著論文11
Hayakawa T, Aoi T, Yamato M. et al.
Study on Ensuring the Quality and Safety of Pharmaceuticals and Medical Devices Derived from the Processing of Autologous Human Somatic Stem Cells.
Regenerative Therapy  (2015)
原著論文12
Hayakawa T, Aoi T, Yamato M. et al.
Study on Ensuring the Quality and Safety of Pharmaceuticals and Medical Devices Derived from the Processing of Allogenic Human Somatic Stem Cells.
Regenerative Therapy  (2015)
原著論文13
Hayakawa T, Aoi T, Yamato M. et al.
Study on Ensuring the Quality and Safety of Pharmaceuticals and Medical Devices Derived from Processing of Autologous Human Induced Pluripotent Stem Cell (-Like Cells).
Regenerative Therapy  (2015)
原著論文14
Hayakawa T, Aoi T, Yamato M. et al.
Study on Ensuring the Quality and Safety of Pharmaceuticals and Medical Devices Derived from Processing of Allogenic Human Induced Pluripotent Stem Cell (-Like Cells).
Regenerative Therapy  (2015)
原著論文15
Hayakawa T, Aoi T, Yamato M. et al.
Study on Ensuring the Safety and Quality of Pharmaceuticals and Medical Devices Derived from the Processing of Human Embryonic Stem Cells.
Regenerative Therapy  (2015)
原著論文16
Moriyama H, Moriyama M, Hayakawa T. et al.
Role of notch signaling in the maintenance of humanmesenchymal stem cells under hypoxic conditions.
Stem Cells Dev. , 23 (18) , 2211-2224  (2014)
原著論文17
Moriyama M, Moriyama H, Hayakawa T. et al.
BNIP3 plays crucial roles in the differentiation and maintenance of epidermal keratinocytes.
J Invest Dermatol , 134 (6) , 1627-1635  (2014)
原著論文18
Takayama K, Kawabata K, Mizuguchi H. et al.
CCAAT/enhancer binding protein-mediated regulation of TGFβ receptor 2 expression determines the hepatoblast fate decision.
Development , 14 (1) , 91-100  (2014)
原著論文19
Yagi Y, Kakehi K, Suzuki S. et al.
Application of microchip electrophoresis sodium dodecyl sulfate for the evaluation of change of degradation species of therapeutic antibodies in stability testing.
Anal Sci. , 30 (4) , 483-488  (2014)
原著論文20
Morikawa T, Ninomiya K, Muraoka O. et al.
Hepatoprotective triterpenes from traditional Tibetan medicine Potentilla anserina.
Phytochemistry , 102 , 169-181  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201432012Z