文献情報
文献番号
201432006A
報告書区分
総括
研究課題名
無血清培養法により製造した同種滑膜間葉系幹細胞由来三次元人工組織の薬事承認申請に資する非臨床試験
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
名井 陽(大阪大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 吉川 秀樹(大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(整形外科))
- 中村 憲正(大阪大学臨床医工学融合研究教育センター)
- 辻 紘一郎(株式会社ツーセル)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我々は滑膜由来の間葉系幹細胞(以下、MSC)を培養し、立体的な構造をとらせたスキャフォールドフリー三次元人工組織(以下TEC)を作製し、動物実験において関節軟骨損傷の治療に有効であることを示し、現在、自家滑膜由来MSCを用いたTECによる関節軟骨損傷治療法についての臨床研究を実施中である。今後、本技術の実用化を目指すに当たり、大阪大学整形外科、同附属病院未来医療センター、株式会社ツーセルは協力体制を構築し、同社らが開発した新規無血清培地を利用した高品質な同種滑膜由来MSCを用いたTEC(以下、gMSC)による軟骨損傷治療法の治験の実施に向けて準備を進めている。本研究では、同種滑膜由来MSCを用いた再生医療技術を確立するために、PMDAとの相談で確立された「本品の原料である細胞ソース(滑膜細胞)の入手手続きと管理体制」をもとに滑膜組織より樹立させたMSCをバンク化させ、その細胞を用いて非臨床試験を実施し、その安全性、有効性を検討することを目的とする。
研究方法
将来の商用利用のためのマスターセルバンクを構築する際に想定しているドナーの基準に適合する患者に対して、非臨床研究目的での利用に関するインフォームドコンセントを取得し、本院の整形外科で実施される膝関節手術で採取された余剰の滑膜組織からMSCを分離し、無血清培地を用いて大量に培養増幅し、バンクとして保存する。この際、バンク化に至るまでの工程のフィージビリティについて検討する。また、将来想定している工程内検査を実施し、細胞の品質に関するデータを蓄積する。滑膜MSCを、無血清培地を用いて増幅培養した後、高密度培養を行うことで、自らの細胞とマトリックスのみで構成される三次元人工組織、gMSCを作製する。得られた滑膜MSCまたはgMSCを用いて、非臨床の安全性評価を行う。このほか、滑膜MSCの長期凍結保存に関する細胞の品質の安定性試験、骨髄由来間葉系幹細胞等で確立されてきた骨、軟骨、脂肪、結合組織等への分化誘導法が応用可能かを評価する分化誘導試験を行う。
結果と考察
大阪大学医学部医学倫理委員会の承認のもと、本院の整形外科で膝の手術予定のある5名の患者より同意を取得し、9項目の感染症検査(GLPグレード、HBV、HCV、AIDS、HTLV1、Parvovirus B19、CMV、EBV、梅毒、マイコプラズマ)を含むスクリーニングを実施、内3名より細胞を樹立した。このうち1例はサイトメガロウイルス偽陽性であった。株式会社ツーセルらが開発した生物由来原料基準に準拠した臨床用グレードの無血清培地を用いた継代回数5回までの培養結果、3例とも培養後期でも増殖能の低下は現れず、継代数によらず100%近い高い生存率を示した。組織採取を行った3例の、ウインドウピリオド後を考慮して3ヵ月後以降の検査結果はスクリーニング時と同じ判定であり、偽陰性症例はなかった。得られた3細胞株から最終製品であるgMSCの作製を試み、その中間および最終製品の工程内検査を実施したところ、全項目において規格に合致する結果が得られた。うちウサギを用いた埋植予備試験を実施した結果、gMSC埋植により生じた変化は関節内の変化を除き、一過性であった。関節内の変化は滑膜主体であり、他の組織に影響は認められなかった。滑膜MCSの分化誘導実験の予備的な結果では、骨、脂肪、軟骨への分化傾向が認められた。またCPCでの治験製品製造に関してPMDAによる訪問確認を受け、指摘事項に関して対応を進めている。
MSCは多様な分化能を有し、また免疫反応に対して抑制的に働くことなどから、様々な同種細胞治療への応用が期待されている。本研究で確立したバンクの滑膜MSCは、CPCを利用してGMP準拠レベルの品質で培養した細胞であり、トレーサビリティーも確保しており、将来の臨床研究や治験、産業利用に向けた非臨床研究に提供できる。これらの細胞は、本研究の非臨床研究の結果から、高い品質を有していること、予備的ながら埋植試験で問題が無いこと、多分化能を有していることが示唆されており、多方面での産業化を目指した研究に資するものと考えられる。
MSCは多様な分化能を有し、また免疫反応に対して抑制的に働くことなどから、様々な同種細胞治療への応用が期待されている。本研究で確立したバンクの滑膜MSCは、CPCを利用してGMP準拠レベルの品質で培養した細胞であり、トレーサビリティーも確保しており、将来の臨床研究や治験、産業利用に向けた非臨床研究に提供できる。これらの細胞は、本研究の非臨床研究の結果から、高い品質を有していること、予備的ながら埋植試験で問題が無いこと、多分化能を有していることが示唆されており、多方面での産業化を目指した研究に資するものと考えられる。
結論
同種の滑膜由来MSCを用いた軟骨損傷治療法の治験の実施に向けて、新規無血清培地を利用した高品質な同種滑膜由来MSCを用いたスキャフォールドフリー三次元人工組織の非臨床試験を実施した。予備試験の結果では、局所刺激性および全身毒性に関して移植部位以外に大きな影響は見られないことが確認された。
公開日・更新日
公開日
2015-06-12
更新日
-