市販後における重篤副作用(間質性肺炎、横紋筋融解症、重症薬疹等)の発症要因解明と安全対策に関する研究

文献情報

文献番号
201430004A
報告書区分
総括
研究課題名
市販後における重篤副作用(間質性肺炎、横紋筋融解症、重症薬疹等)の発症要因解明と安全対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 相原 道子(横浜市立大学大学院医学研究科 環境免疫病態皮膚科学)
  • 梶波 康二(金沢医科大学 医学部 臨床医学 循環器内科学)
  • 花岡 正幸(信州大学医学部 内科学第一講座)
  • 関根 章博(千葉大学 予防医学センター)
  • 佐井 君江(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
  • 中村 亮介(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【委託費】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進のための研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際共同治験の推進や新興国での医療ニーズの増加により、世界各国での医薬品販売例が増加している。一方で、重篤副作用発現には、大きな民族差・地域差が認められ、地球規模での安全対策を進めるには、発症に関連する遺伝的要因と感染症、及びその国・地域差を明らかにする必要がある。本研究は、1) 発生数が多く死亡率が高いなど、市販後安全対策において重要な重篤副作用3種(間質性肺炎、横紋筋融解症、重症薬疹)に関し、日本人患者試料の収集とその解析により、発症と関連する遺伝的要因を同定、2) 免疫系の関与が示唆され、発生数も多い4種(上記3種+薬物性肝障害)を中心に、ウィルス・細菌感染の重篤副作用発症への寄与を同定、3) 関連が認められた遺伝的要因の頻度と感染症罹患率等の民族差・地域差を明らかにして、本邦を含む地球規模での医薬品安全対策を提案、することを目標とする。
研究方法
発症患者資試料の収集は、主として重篤副作用報告制度を利用した国立衛研(NIHS)ネットワーク方式により行った。各症例は、ケースカードの記載に基づき、研究分担者である3名の専門医が確定診断を行った。HLA解析はHLA-A, -B, -C, -DRB1を対象としてPCR-SSO法により行い、またゲノム網羅的遺伝子多型解析は、イルミナ社のOmni2.5Mチップにより行い、約2,000-3,000例の一般集団と比較するケースコントロール解析を行った。
また、既収集の症例診療情報を用いた解析は、ゲノムDNA収集対象としている3種の重篤副作用(横紋筋融解症、重症薬疹、間質性肺疾患)の既収集の診療録情報を基に、副作用毎の感染症(併発・既往)の割合ならびに副作用重篤度と感染症との関連を解析した。また、調査対象の感染症として、結核、肝炎、エイズ、インフルエンザ、単純ヘルペス、その他の全感染症(感冒を含む)とした。
結果と考察
遺伝的要因解明のためのゲノムDNA試料と患者臨床情報の収集(重症薬疹(SJS/TEN)38例、横紋筋融解症22例、間質性肺炎25例)及び確定診断を行い、HLA解析及び網羅的遺伝子多型解析を行った。解熱鎮痛薬によるSJS/TEN発症に関連するHLA型を複数見いだすと共に、抗てんかん薬フェニトインを被疑薬とするSJS/TENでは、その発症に解毒代謝酵素であるシトクロムP450の一種CYP2C9の*3多型(活性低下)が有意に関連することを見いだした。これらの関連は、別群試料を用いた解析でも検証された。さらにこれらの関連因子の民族差について考察した。
感染症に関しては、上記ゲノムDNAに付随する患者臨床情報を用いて、重症薬疹、横紋筋融解症、間質性肺疾患に関し、副作用毎の感染症の併発割合、重篤度との関連を解析した。重症薬疹では、重篤度の高い病型、眼症状、及び後遺症の発現割合は、いずれも感染「有」の場合が「無」よりも統計的に有意に高く、発症までの平均日数も感染「有」の方が「無」よりも有意に短かった。横紋筋融解症、間質性肺疾患でも有意差は認められないものの、同様の傾向にあった。また感染症治療薬が第一被疑薬の症例では、いずれの副作用においても重篤度の程度は比較的高く、発症までの平均日数も短い傾向にあった。従って、3種の重篤副作用において感染症の併発・既往と副作用重篤度との関連性を示唆する知見が得られ、特に重症薬疹ではその寄与度が高いと示唆された。さらに、これら結果の検証のための有害事象自発報告データベースを用いた解析にも着手した。
結論
ゲノムDNA試料と患者臨床情報の収集及び遺伝子多型解析を行い、解熱鎮痛薬によるSJS/TEN発症に関連するHLA型と、抗てんかん薬フェニトインによるSJS/TEN発症に関連する遺伝子多型を見いだした。これらの関連は、別群試料で検証され、さらにこれら関連因子の民族差について考察した。感染症との関連では、今回対象とした3種の重篤副作用症例の診療情報解析の結果、感染症の併発・既往とこれら副作用の重篤度との関連性を示唆する知見が得られ、特に重症薬疹ではその寄与度が高いことが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201430004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
症例報告書を用いた解析であるが、重症薬疹で重篤度の高い病型、眼症状、及び後遺症の発現割合は、いずれも感染症併発・既往「有」の場合が「無」よりも統計的に有意に高く、発症までの平均日数も感染「有」の方が「無」よりも有意に短かいこと等が示唆された。即ち、感染症の併発・既往と副作用重篤度との関連性を示唆する知見が得られ、特に重症薬疹ではその寄与度が高いことが示唆された。
臨床的観点からの成果
解熱鎮痛薬による重症薬疹発症に関連するHLA型を複数見いだすと共に、抗てんかん薬フェニトインを被疑薬とする重症薬疹では、その発症に解毒代謝酵素であるシトクロムP450の一種CYP2C9の*3多型(活性低下)が有意に関連することを見いだした。これらは、解熱鎮痛薬による重症薬疹の発症・後遺症回避やフェニトインによる発症回避に向けて有用な知見と考えられる。
ガイドライン等の開発
解熱鎮痛薬による重症薬疹発症に関連するHLA型やフェニトインによる重症薬疹発症に関連するCYP2C9*3多型に関する情報は、今後の添付文書改訂等を通じた市販後安全対策に有用と考えられる。
その他行政的観点からの成果
重篤副作用発症と関連する遺伝子多型に関する知見、及び感染症の併発・既往と副作用重篤度との関連性を示唆する知見は、その発現頻度や感染率の民族差・地域差を考慮することで、今後の地球規模での医薬品安全対策の立案に有用と考えられる。例えば、CYP2C9*3多型の頻度は、日本人に比して白人で高いことが知られており、白人でフェニトインによる重症薬疹発症頻度が高い可能性がある。
その他のインパクト
本研究成果は、欧州アレルギー学会の分科会、日本免疫毒性学会、日本アレルギー学会等で発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kaniwa N, Ueta M, Nakamura R, et al.
Drugs causing severe ocular surface involvements in Japanese patients with Stevens-Johnson syndrome/toxic epidermal necrolysis.
Allergol. Int.  (2015)
原著論文2
Maekawa K, Nakamura R, Kaniwa N, Mizusawa S, et al.
Development of a simple genotyping method for the HLA-A*31:01-tagging SNP in Japanese.
Pharmacogenomics  (2015)
原著論文3
Saito Y, Stamp LK, Caudle KE, et al.
Clinical pharmacogenetics implementation consortium (CPIC) guidelines for human leukocyte antigen B (HLA-B) genotype and allopurinol dosing: 2015 update
Clin. Pharmacol. Ther  (2016)
原著論文4
Nishimura M, Toyoda M, Takenaka et al.,
The combination of HLA-B*15:01 and DRB1*15:01 is associated with gemcitabine plus erlotinib-induced interstitial lung disease in patients with advanced pancreatic cancer.
Cancer Chemother Pharmacol.  (2016)
原著論文5
Sai K, Kajinami K, Akao H, Iwadare M, et al.,
A possible role for HLA-DRB1*04:06 in statin-related myopathy in Japanese patients.
Drug Metab. Pharmacokinet.  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201430004Z