地球規模モニタリングフレームワークにおける各種指標の検証と科学的根拠にもとづく指標決定プロセスの開発

文献情報

文献番号
201430003A
報告書区分
総括
研究課題名
地球規模モニタリングフレームワークにおける各種指標の検証と科学的根拠にもとづく指標決定プロセスの開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
森 臨太郎(国立研究開発法人・国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 大田 えりか(伊東 えりか)(国立研究開発法人・国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
  • 高橋 謙造(帝京大学大学院公衆衛生学研究科)
  • 永田 知映(横尾 知映)(国立研究開発法人・国立成育医療研究センター研究所 臨床研究教育部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【委託費】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進のための研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,737,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 野間久史(平成26年5月27日~平成26年11月3日)→研究協力者 井上永介(平成26年11月4日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
<研究1>
地球規模での妊産婦と新生児の重篤な合併症と死亡の状況の解明に貢献する。

<研究2>
WHOが行った地球規模の周産期保健に関する調査および特定の国(ラオス国)における母子保健指標に着目し、データセットの汎用性を検討する。

<研究3>
新たな統計学的手法の開発を行い、目標となる最終アウトカムに直結し、かつ国ごとに異なるそれぞれの指標の優先順位を反映した指標リストを作成、さらにこの過程を、客観的かつ科学的根拠にもとづいた指標決定の標準的方法として提案する。

<研究4>
質調整生存年(QALY)など医療介入の健康アウトカム指標の問題点を指摘すると同時に、新しい指標の開発の必要性を主張する。
研究方法
<研究1>
WHOが実施した地球規模の周産期保健に関する調査であるWHO Global Survey on Maternal and Perinatal Health (WHOGS)とWHO Multicountry Survey on Maternal and Newborn Health (WHOMCS)の2次解析を実施した。

<研究2>
WHOGSを用いて、早期授乳への寄与因子の検討を行った。また、2011 Lao Social Indicator Survey (LSIS)のデータセットを用いて、母子保健関連指標の解析を行った。加えて、ラオス現地でのLSISのデータ信頼性に関する聞き取りを行った。

<研究3>
ベイズ流の統計解析方法を応用した、本研究の趣旨に合致する統計学的手法の開発を行い、前述のWHOMCSの解析を行った。

<研究4>
既存研究レビュー、2次文献調査を実施した。
結果と考察
<研究1>
WHOGSおよびWHOMCSの2次分析を行い、12本の論文を発表した。以下に主な結果の抜粋を示す。
1. 母体死亡および重症母体の25%が基礎疾患に起因し、基礎疾患がある母体は、合併症・母体死亡・乳幼児死亡がより多かった。
2. 切迫早産の妊婦において、児の予後を改善するためにWHOが推奨している出生前ステロイド投与の割合は53.8%のみで、同様に子宮収縮薬の投与割合も低く、適切な診療を受けているのは18%のみであった。
3. 10代の妊娠は母体合併症・母体死亡を増加させた。
4. 高齢出産は母体死亡および合併症、死産および周産期死亡のリスクをわずかながら増加させた。
5. 教育歴が低い女性は、他の関連要因の影響を省いても、母体死亡および母体合併症のリスクが高かった。
6. 新生児ニアミスというコンセプトとその有用性を提唱した。
7. 早産で小さく産まれた児は、母体合併症、特に妊娠性高血圧症との関連が強いが、正期産で小さく産まれた児は社会経済的な状況がより影響していた。

<研究2>
WHOGS分析では、早期授乳に影響する因子として、分娩時の合併症および帝王切開術などがあげられた。LSIS分析では、MICSでは指標となっていないデータが取得されていた。これらはラオスの国策である母子保健の指標改善上は重要であると考えられ、MICSにおいては国策の優先度を反映していない可能性が示唆された。

<研究3>
新たに開発した統計学的手法を用いることにより、以下のような利点が得られた。
・介入の効果量を、各オッズ比の値に関する信頼度を事後確率により表現することで、1つの数値で表現することが可能になった。
・上記のオッズ比がある値以下を取る可能性に、当該介入の対象となる人数を掛け合わせることにより、当該介入により利益を得ると思われる人数を算出することができた。
・当該介入により利益を得ると思われる人数により、その国あるいは施設において優先すべき介入の順位づけを行うことができた。
・他の国の情報を利用することにより、限られたデータしか収集できなかった国に関しても、各介入のインパクトを推定することができた。
前述の統計学的手法およびWHOMCSデータセットを用いた解析の中途結果をWHOの母子保健部門の担当者と共有し、指標決定に至る過程の標準化に向けて、系統的レビュー、前述の統計学的手法および費用対効果分析、そしてデルファイ法を用いた客観的総意形成の3つのステップによる方法を提案した。

<研究4>
質調整生存年(QALY)など医療介入の健康アウトカム指標を開発し、今後増加させていくことが、本来的な人々のウェル・ビーイングと乖離する方向にあるのではないかという問題点を指摘した。また、QALYに代わり得る新しい概念が望まれることを明らかにした。
結論
現在の地球規模フレームワークにおける各種指標の限界および問題点が浮き彫りになった。今後さらに研究を継続し、これらの問題点を解決する方法の提案およびその検証を行う。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201430003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ベイズ流の統計解析方法を応用し、WHOによる地球規模の周産期データを用いて、様々な介入のインパクトを推定した。この結果、従来主に用いられていた統計解析手法では同様の効果量として表現されていた介入が、対象となる集団によって異なるインパクトを有していることが判明した。これらの結果をWHOの母子保健部門と共有し、系統的レビュー、前述の統計学的手法、そしてデルファイ法を用いた客観的総意形成を3つのステップとする、指標決定のための標準化された方法を提案した。
臨床的観点からの成果
WHOによる地球規模の周産期データであるWHO Global Survey on Maternal and Perinatal Health(WHOGS)およびWHO Multicountry Study on Maternal and Newborn Health(WHOMCS)の2次解析を実施し、発展途上国を含む地球規模での、周産期・母子保健領域の現状および様々な介入の効果に関する評価を行い、論文13本を出版した。
ガイドライン等の開発
妊娠・出産前後の細菌感染症に関するWHOガイドラインの、narrative summary、GRADE summary of finding tableのドラフト作成に寄与した。また、WHO本部(ジュネーブ)で行われたコンセンサス会議に出席し、国際ガイドラインの作成に貢献した。
その他行政的観点からの成果
WHOとの2回のmeetingを通して、これまで標準化されていなかった地球規模での保健指標の決定方法に関してWHOに問題提起するとともに、その解決策となりうる系統的レビュー、前述の統計学的手法、そしてデルファイ法を用いた客観的総意形成を3つのステップとする、指標決定のための標準化された方法を提案し、我が国の国際保健領域におけるプレゼンスを高めた。
その他のインパクト
質調整生存年(QALY)などの医療介入についての健康アウトカム指標の開発やその今後の増加が、本来的な人々のウェル・ビーイングと乖離する方向にあるのではないかという問題点や、QALYに代わり得る新しい概念が望まれることなど、より俯瞰的な視点から、現行の地球規模指標の問題点を示し、包括的な新たな指標の方向性を示した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ganchimeg T, Wehbe M, Mori R, et al.
Moving beyond essential interventions for reduction of maternal mortality the WHO Multicountry Survey on Maternal and Newborn Health
Lancet , 381 (9879) , 1747-1755  (2013)
10.1016/S0140-6736(13)60686-8
原著論文2
Vogel JP, Souza JP, Gulmezoglu AM, Mori R, Lumbiganon P, Qureshi Z, et al.
Use of antenatal corticosteroids and tocolytic drugs in preterm births in 29 countries: an analysis of the WHO Multicountry Survey on Maternal and Newborn Health.
Lancet , 384 (9957) , 1869-1877  (2014)
10.1016/S0140-6736(14)60580-8
原著論文3
Ota E, Mori R ,Ganchimeg T, Morisaki N, Vogel JP, Pileggi C, Ortiz-Panozo E, et al
Risk factors and adverse perinatal outcomes among term and preterm infants born small-for-gestational-age: secondary analyses of the WHO Multi-country Survey on Maternal and Newborn Health.
PLoS ONE , 9 (8)  (2014)
10.1371/journal.pone.0105155.
原著論文4
Lumbiganon P, Laopaiboon M, Intarut N, Mori R, Vogel JP, Souza JP, Gulmezoglu AM, et al.
Indirect causes of severe adverse maternal outcomes: a secondary analysis of the WHO Multicountry Survey on Maternal and Newborn Health.
BJOG , 121 (Suppl 1) , 32-39  (2014)
10.1111/1471-0528.12647
原著論文5
Morisaki N, Ganchimeg T, Ota E, Vogel JP, Souza JP, Mori R, et al.
Maternal and institutional characteristics associated with administering prophylactic antibiotics in cesarean delivery.
BJOG , 121 (Suppl 1) , 66-75  (2014)
10.1111/1471-0528.12632
原著論文6
Ganchimeg T, Mori R, Morisaki N, Ota E , Vogel JP, Cecatti JG, Barrett J, Jayaratne K, et al.
Mode and timing of twin delivery and perinatal outcomes in low- and middle-income countries: Secondary analysis of the WHO Multi- country Survey on Maternal and Newborn Health.
BJOG , 121 (Suppl 1) , 89-100  (2014)
10.1111/1471-0528.12635
原著論文7
Morisaki N, Togoobaatar G, Vogel JP, Souza JP, Ota E, Mori R , et al.
Risk factors for spontaneous and provider-initiated preterm delivery in high and low Human Development Index countries: secondary analysis of the WHO Multi- country Survey on Maternal and Newborn Health.
BJOG , 121 (Suppl 1) , 101-109  (2014)
10.1111/1471-0528.12631
原著論文8
Vogel JP, Souza JP, Mori R, Morisaki N, Lumbiganon P, Laopaiboon M, et al.
Maternal complications and perinatal mortality: findings of the World Health Organization Multi-country Survey on Maternal and Newborn Health.
BJOG , 121 (Suppl 1) , 76-88  (2014)
10.1111/1471-0528.12633
原著論文9
Takahashi K, Kobayashi J, Kakimoto K, Nakamura Y.
Global Health Action: surviving infancy and taking first steps - the window is open, new challenges for existing niche may enlighten global health
Global Health Action. , 7  (2014)
10.3402/gha.v7.23123
原著論文10
Ganchimeg T, Ota E, Morisaki N, Laopaiboon M, Mori R, Lumbiganon P, Zhang J, et al.
Pregnancy and childbirth outcomes among adolescent mothers: a World Health Organization multicountry study.
BJOG , 121 (Suppl 1) , 40-48  (2014)
10.1111/1471-0528.12630
原著論文11
Tuncalp O, Souza JP, Hindin MJ, Togoobaatar G , Santos CA, Oliveira TH, Vogel JP, et al.
Education and severe maternal outcomes in developing countries: a multicountry cross-sectional survey.
BJOG , 121 (Suppl 1) , 57-65  (2014)
10.1111/1471-0528.12634
原著論文12
Ye JF, Mori R, Torloni MR, Ota E, Jayaratne K, Pileggi-Castro C, Ortiz-Panozo E, et al.
Searching for the definition of macrosomia through an outcome-based approach in low- and middle-income countries: a secondary analysis of the WHO Global Survey in Africa, Asia and Latin America.
Bmc Pregnancy Childb , 15  (2015)
10.1186/s12884-015-0765-z
原著論文13
Ganchimeg, T., Nagata, C., Vogel, J. P., Morisaki, E, Souza JP, Mori R.
Optimal Timing of Delivery among Low-Risk Women with Prior Caesarean Section: A Secondary Analysis of the WHO Multicountry Survey on Maternal and Newborn Health.
PloS one , 11 (2)  (2016)
10.1371/journal.pone.0149091
原著論文14
Ota E, Hori H, Mori R et al.
Antenatal dietary education and supplementation to increase energy and protein intake
The Cochrane Library ,  (6)  (2015)
0.1002/14651858.CD000032.pub3.
原著論文15
Ota E, Mori R, Middleton P et al.
Zinc supplementation for improving pregnancy and infant outcome.
The Cochrane Library ,  (2)  (2015)
10.1002/14651858.CD000230.pub5.
原著論文16
Abe SK, Balogun OO, Ota E et al.
Supplementation with multiple micronutrients for breastfeeding women for improving outcomes for the mother and baby
The Cochrane Library ,  (2)  (2016)
10.1002/14651858.CD010647.pub2.
原著論文17
Takahashi K, Ganchimeg T, Ota E et al
Prevalence of early initiation of breastfeeding and determinants of delayed initiation of breastfeeding: secondary analysis of the WHO Global Survey
Scientific Reports , 7  (2017)
10.1038/srep44868

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2019-05-27

収支報告書

文献番号
201430003Z