建築物環境衛生管理に係る行政監視等に関する研究

文献情報

文献番号
201429022A
報告書区分
総括
研究課題名
建築物環境衛生管理に係る行政監視等に関する研究
課題番号
H26-健危-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 元毅(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 鍵 直樹(東京工業大学大学院情報理工学研究科)
  • 柳 宇(工学院大学建築学部)
  • 東 賢一(近畿大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
8,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年,建物の大規模化,用途の複合化,建築設備の変化などにより,建築物衛生法による監視技術にも多様化,高度化が求められている。一方,環境衛生管理基準を満足しない割合「不適率」の改善が進まないなど,維持管理手法,環境監視方法などの環境衛生管理のあり方が問われている。本研究は,建築物における環境衛生管理に着目して,この現状の把握及び問題点の抽出,原因の究明,対策の検討等について体系的に整理し,今後の建築物環境衛生管理に関する監視のあり方について提案を行おうとするものである。
研究方法
1)空気環境の衛生管理の現状
不適率上昇傾向に着目し,厚生労働省から公表された全国の立入り調査データを用いて都道府県別の動向解析及び,東京都の立入り調査のデータを用いた空気環境の詳細な解析を行った。
2)健康危機に対応した環境衛生管理項目の検討
現在の管理項目にはないが,今後重要性を増すであろう,PM2.5,病原性微生物,総合温熱感、エンドトキシンなどに着目し,実測調査による現状把握と,居住者の健康に関する質問紙調査を併せて行うことによりその関係や測定方法に係る知見を得た。
3)空気調和設備に関する法整備のあり方に関する検討
環境衛生管理基準の中でも相対湿度の不適合率は,50%以上と著しく高い。本課題では,建築時における加湿器の設置及び空気調和設備・換気設備の定義(法解釈の運用実態)に係るパッケージエアコンの取扱いなどについて,平成26年度に保健所の建築物衛生担当者を対象に実施した,加湿装置及び機械換気設備の解釈に関する質問紙調査の自由記載の分析と検討を行った。
結果と考察
1)全国の調査件数及び不適件数を集計し,不適率動向に,3回の顕著な契機を見い出した。1回目は平成11年度,2回目は15年度,3回目は23年度で,夫々省エネ法改正及び建築物衛生法改正の翌年,東日本大震災の年と重なる。また,平成20年と25年のデータを比較し,変化傾向の地域性などを抽出した。大型ビル中心の東京都でも相対湿度の不適率は21%で,冬期の低湿度問題が浮き彫りとなった。
2)実建物5件での実測において,冬期の低湿実態が確認された。中央方式の1件では概ね40%を上回ったが,個別方式の1件においては75%タイル値,2件においては中央値,1件においては25%タイル値が40%を下回り,個別方式における深刻さが明らかになった。
一方、新たな測定項目PM2.5については測定器の特性把握を行い,従来同様に計数値を決定すれば測定が可能であること,PM2.5のI/O比は1未満でも,粒径によっては逆転する場合も見られ,除じん効果の低さ,室内発生の存在が認められた。粒径別粒子の現状把握の重要性も示唆された。エンドトキシンについては,現場測定及び既存の培養法との比較研究を行い,微生物汚染度合いを示す指標としての有効性を検証した。一方,温熱快適性については,空調に係る新技術の導入・建物性能の変化とそれに伴う室内温熱環境の変化などから,従来の均質と定常を想定した測定では環境評価が難しいことを示した。放射温度・代謝量・着衣量までを考慮した総合温熱指標であるPMV等の測定と評価について検討と特性の整理を行い,測定方法,評価指標を模索した。
3)設備の設置指導に関するアンケート調査の自由記載をもとに,空気調和に関係する建築物衛生法,建築基準法,労働安全衛生法・事務所衛生基準規則に記載されている事項に関する認識などの比較を行った。湿度の意識を高めること,結露や加湿のポイントなどの周知,用途別基準の設定,加湿設備設置の義務化,設計段階の標準条件の見直しなど様々な意見を収集した。設置及び運用に関する適切なマニュアル整備の必要性なども示唆された。また,それらの法・規則等の相違点を精査し,個別空調方式の記述や,湿度を調整するための加湿器の記述の有無,浄化のためのエアフィルタの設置など曖昧な部分が指摘された。また,事務所衛生基準規則は,供給空気を対象としているのに対し,建築基準法及び建築物衛生法は居住空間を規定する記述となっていた。これらを統一・整理し,設備の設置まで踏み込めれば,不適率の改善に効果があるものと考えられる。
結論
1)省エネ法,建築物衛生法改正や大震災など,社会情勢や災害が衛生管理に大きな影響を及ぼしている。近年の増減に地域差が見られるが,中でも夏期の減湿と冬期の加湿の不十分さが顕著である。
2)個別空調方式建物での実測において低湿度の実態が観測された。新指標としてPM2.5,エンドトキシン,総合温熱指標などをとりあげ,有効性と課題を明らかにした。
3)保健所職員への既往アンケートの自由記載を再整理して改善への方向性を探り,不適率改善に資する提言を収集した。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201429022Z