科学的エビデンスに基づく「新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル(改訂版)」の作成

文献情報

文献番号
201429021A
報告書区分
総括
研究課題名
科学的エビデンスに基づく「新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル(改訂版)」の作成
課題番号
H26-健危-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木 敦子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
  • 西條 泰明(旭川医科大学 医学部)
  • 柴田 英治(愛知医科大学 医学部)
  • 河合 俊夫(中央労働災害防止協会 大阪労働衛生総合センター)
  • 東 賢一(近畿大学 医学部)
  • 大澤 元毅(国立保健医療科学院 )
  • 吉野 博(東北大学 大学院工学研究科)
  • 大和 浩(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 増地 あゆみ(北海学園大学 経営学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
6,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究代表者らは、平成19年度に保健所等で用いる「シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル」を作成した。本研究では、平成20年以降に論文になった多くの知見を加え、国内外の情報を体系的に整理し直し、科学的根拠に基づく室内空気質およびシックハウス症候群に関する「新相談マニュアル(改訂版)」を作成する。保健所職員、職域や学校の保健担当者、あるいは個人、医師、住宅産業関係者の利用により、我が国のシックハウス症候群の予防や室内空気質対策に役立てることを目的とする。
研究方法
研究体制は公衆衛生学、環境疫学、衛生学、産業医学、建築学や、およびリスク心理学の専門家からなる。新マニュアルへの追加項目として、これまでの知見の整理と情報収集を行う。具体的には:
1.研究代表者ら旧厚生労働科学研究班が実施した全国規模の疫学研究から得られたデータ、特に、平成20年以降の科学的知見の整理
2.建築環境の視点による室内環境汚染と対策
3.化学物質やシックハウス症候群(SHS)に関するリスクコミュニケーションの考え方
4.震災仮設住宅や集中豪雨による浸水後の問題など、最近の問題
結果と考察
平成26年度は、以下の知見の整理と情報収集を行った。
1.旧厚生労働研究班では、①全国6地域で、新築戸建て住宅6080 軒と継続する3年間の自宅環境調査(425軒とその全居住者1,479人)、②全国5地域の国公立小学校22校での調査票調査 (10,871人)と学童の自宅環境調査(178軒)を実施した。これらの調査から得られた以下の結果を整理し、データの再解析を加え、マニュアルに記す。
1)住宅あたりのSHSの有訴率は3.7%。ダンプネスの項目が増えるとSHSのリスクが上がるため、その予防においてダンプネス対策は重要。
2)室内環境要因としてホルムアルデヒド13化合物、揮発性有機化合物(VOC)類29化合物、半揮発性有機化合物(SVOC)、微生物由来VOC(MVOC)の測定法、および日本の住宅における曝露実態を示す。
3)新築戸建て住宅でアルデヒド濃度が指針値を超過していた住宅は3.5%だった。濃度が最も低い住宅の群に対し、濃度が高い群ではSHSのリスクが上がり、量反応関係を示した。従来、多くの指針値は動物実験により定められているが、ヒトでのリスク評価としてのデータが得られた。
4)最近世界的にも関心が高いSVOCのうち、フタル酸エステル類DEHP(di(2-ethylhexyl) phthalate)やリン酸トリエステル類TBOEP(tri(butoxyethyl)phosphate)は日本で諸外国よりも室内ダスト中濃度が高いことがわかった。また喘息やアレルギーを有する人の住宅でSVOCの濃度が高いので、SVOCを含有する内装材は室内空気質汚染源として重要である。
5)世界的に住宅での知見がほとんどなかったMVOCのうち、1-octen-3-olの濃度が高いと、居住者の粘膜への刺激症状、およびアレルギー性鼻炎・結膜炎のリスクになる可能性を示唆した。
6)連続する3年間でホルムアルデヒドやトルエン濃度は減少したが、リモネン濃度はむしろ増加し、居住者が持ち込む化学物質にも注意が必要である。
2.諸外国の室内環境規制やSHS研究の世界的な動向
3.室内濃度指針値のない化学物質のリスク評価に、SHSの訴えが無い住宅の95%値濃度を利用する提案
4.建築物環境衛生管理基準の不適合によるシックビル症候群増加への対策の必要性
5.建築物の特性・用途別の環境特性と環境衛生
6.震災関連住宅の換気不良によるCO2高濃度やカビ発生等の室内空気環境問題と対策
7.タバコ煙による室内空気汚染をPM2.5、総VOC(TVOC)として評価し、この影響を最小限にするための対策
8.化学物質のリスクコミュニケーションの課題として、専門家と一般市民では化学物質に対する理解度が異なる。懸念される健康影響について、曝露源や対策を伝えることで関心が高まり、理解も深まる。リスク対処の支援には、具体的な情報が求められる。
結論
これらの情報や知見の整理に基づき、「新相談マニュアル(改訂版)」の目次構成案を決定した。平成27年度には新マニュアルを完成し、シックハウス症候群に関して、化学的要因、生物学的要因、ダンプネス、建築学的な要因など様々な要因について、日本の調査研究による実態をふまえ、対策を提案する。従来のマニュアルが主な対象層としていた保健所等の相談窓口担当者や一般市民に加えて、地域・職域・学校の保健担当者、さらに建築関係者にも有益な情報を加え得る。完成した新マニュアル(改訂版)はWEBへの公開や自治体への配信による効果的な活用を図り、シックハウス症候群の予防と室内空気質汚染への対策による医療費の削減等に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201429021Z