実験動物の胚・精子の保存方法及びそれらの品質保証技術開発等に関する研究

文献情報

文献番号
199800423A
報告書区分
総括
研究課題名
実験動物の胚・精子の保存方法及びそれらの品質保証技術開発等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
浅野 敏彦(国立感染症研究所動物管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 小倉淳郎(国立感染症研究所)
  • 松田潤一郎(国立感染症研究所)
  • 葛西孫三郎(高知大学)
  • 横山峯介(三菱化学生命科学研究所)
  • 笠井雪憲(東北大学医学部)
  • 勝木元也(東京大学医科学研究所)
  • 中潟直巳(熊本大学動物資源開発研究センター)
  • 松崎哲也(国立精神神経センター神経研究所)
  • 加藤秀樹(浜松医科大学医学部)
  • 山田靖子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、厚生行政に寄与するための厚生科学研究に利用される実験動物有効利用の為に実験動物胚・配偶子の凍結保存、保存される胚・配偶子の品質保証の為の技術開発を行うことにある。
研究方法
すでに大略の技術開発がなされているマウス・ラットにあっては、効率の向上を目的とし、マウス・ラット以外の動物種(マストミスとスナネズミ)にあっては、胚凍結保存のための基礎研究をおこなった。また、遺伝子改変動物においては、改変された遺伝子保存のために精子凍結保存技術の開発を行った。一方、これら凍結保存された胚・配偶子の品質保証技術に関しては、保存胚の取り違え事故、あるいは汚染動物からの胚採取や胚採取時の汚染事故の可能性を考慮し、高感度で簡便なモニタリング技術の開発に努めた。
結果と考察
マウスにあっては、胚バンク事業を行う上で胚の超急速凍結保存技術がきわめて有効であることが明らかになり、またこの技術は動物種あるいは系統の保存を目的にする以外にも、胚操作にも耐えうることから遺伝子改変動物作出に利用される受精卵として用いられることが示唆された。マウス精子保存に関しては、二糖類や三糖類を凍結保護材として用いることで、保存精子の生存率や体外受精の効率が上がることが示唆された。しかしながら、凍結保存により卵の透明体侵入能に障害を受けるマウス系統があることが明らかになり、この技術を普遍化するにはさらなる研究が必要となった。体外受精は遺伝子改変動物の作成や疾患モデル動物の胚保存には必須の技術であるが、ラットにおいてはいまだ安定した成績を得ることは出来なかった。
マストミス胚の体外受精はマウスやラットで行われている通常の方法では行うことは出来ず、円形精子細胞を顕微鏡下で注入することで高い受精率を得、その受精卵を体外培養で発育させることが出来た。しかしながら、このようにして得られた受精卵を凍結保存後融解して、移植しても産仔を得ることは出来なかった。
スナネズミ胚を採取後に移植した場合、効率で妊娠し産仔を得た。一方、得られた胚を凍結しその後融解した場合、形態的には正常であり体外培養で効率で桑実期胚にまで発育したが、移植した場合産仔を得る率は低かった。
国立精神・神経センター神経研究所及び熊本大学で疾患モデルマウス、系統マウスの保存を精力的に行った。
胚の取り違え事故をなくすことは不可能であり、胚保存事業はこれらの対策を考慮しておく必要がある。胚そのものを用いて遺伝学的なモニタリングを行うことは、経済的にも有効である。桑実期胚5個を用いることで系統の識別が可能であることが示唆された。今後はさらに感度を上げて、桑実期胚を二分割し一方の胚でモニタリング、他方を保存する技術の開発を進める予定である。
保存胚が病原体に汚染されている場合、実験動物管理区全体が汚染される可能性があり、保存胚の微生物学的モニタリング技術の開発も胚保存事業に必須である。RTーnested PCR法を用いることで微量の材料で、病原体遺伝子を検出することが可能となった。
結論
厚生科学研究に利用される実験動物の保存あるいは分譲に、マウス胚を超急速凍結法により凍結保存することが有用であることが判った。一方、精子の凍結保存においては凍結保護材として二糖類あるいは三糖類を用いることが有効であることが判ったが、マウスの系統により精子に何らかの傷害を与えていることが示唆された。ラットにおいては、マウスほどの成績は得られていない。安定した効率のよい方法の開発が急務である。マストミスやスナネズミのように、新たに開発された実験動物種では胚採取、凍結・融解、体外培養、移植の各ステージにおいて解決しなければならない問題が多く困難を極めたが、マストミスでは円形精子細胞を卵に注入する方法で受精卵を得ることに成功し、この受精卵が正常に発育することを確かめた。またスナネズミにあっては、受精卵を移植することで産仔を得ることに成功したが、この受精卵を凍結し融解後移植した場合は産仔を得ることが出来なかった。保存胚の品質保証は、保存中の事故等による取り違えあるいは汚染の予防のためにも確立しておく必要がある。遺伝学的な保証に関しては、マウス系統を識別するのに必要な5つのサテライトマーカーを検出するには桑実期胚5個が必要であることが判った。今後さらに感度を上げて、1/2個の胚で検出できれば残りの1/2個は保存胚として貯蔵出来る。一方、微生物学的な保証に関しては、個体でモニターするように抗体検査を行うわけには行かない。病原体そのものあるいは病原体遺伝子の検出が求められる。今回RT-nested PCR法を用いることでその可能性が示唆された。

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