CBRNE事態における公衆衛生対応に関する研究

文献情報

文献番号
201429015A
報告書区分
総括
研究課題名
CBRNE事態における公衆衛生対応に関する研究
課題番号
H25-健危-一般-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
金谷 泰宏(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 石峯 康浩(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
  • 山口 一郎(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 数藤 由美子(独立行政法人 放射線医学総合研究所 生物線量評価研究チーム)
  • 齋藤 大蔵(防衛医科大学校 防衛医学研究センター 外傷研究部門)
  • 市川 学(東京工業大学大学院 総合理工学研究科)
  • 高橋 邦彦(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 高橋 和郎(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 灘岡 陽子(東京都健康安全研究センター 健康危機管理情報課 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は平成21年度より欧米におけるCBRNE事態への医療・公衆衛生部門の対応について情報収集を行ってきた。本研究において、CBRNEテロの標的となりやすい大都市における医療サービスの流れをAgent Based Modelingを用いてモデル化を行い、過去の地下鉄サリン事件(東京)、新型インフルエンザの流行(大阪)を基に事案発生時の保健医療行政の行動、被災者の行動をモデル上で再現させることで、保健医療対策の脆弱性を明らかにするものである。加えて、放射性物質を用いた事案では、保健医療行政及び医療機関を交えた図上演習等を行うことで、現行の連携モデルの課題を明らかにし、さらなる強靭な地域の健康危機管理体制を構築するための方向性を示すものである。
研究方法
(1) 生物テロの早期探知手法の検討
まず東京都と大阪府における2013~2014シーズンのインフルエンザ定点の定点あたり報告数を観察した。次に大阪府における定点報告数を保健所管轄で集計し,FleXScan法を用いた集積性の検定を行った。結果については,疾病地図を用いた視覚化を行った。次に,各管轄での流行に,上記解析で検出された有意な集積週を示し,府全体の流行との比較を行った。
(2) 化学テロ医療需要予測モデルの構築
「二次医療圏における救急搬送医療モデル」で採用した、社会シミュレーションの領域で標準的なモデル構築手法であるエージェントベースのアプローチの特徴を活かし、公開されている地下鉄サリン事件の全患者を、個別のエージェントと見立てた。時間発生から時系列に沿い患者が傷病程度に応じて該当する搬送手段で医療機関に収容されるまでを表現した。
(3) 放射性物質テロにおける外部被ばく線量検査法に関する研究
初期/一次対応者の健康管理に資する生物学的な被ばく線量評価システムを確立することを本研究の目的とする。初年度は検体受け入れ即日に大まかな線量評価が可能な未成熟凝縮二動原体染色体分析法を確立した。今年度は、より精度の高い線量評価法の開発をおこない、実際の初期対応者の検体を得て適用し、手法の評価をおこなった。
(4) CBRNEテロシナリオの検討
CBRNE事態発生後の公衆衛生対策を検証するにあたり、政府の対応については、「NBCテロその他大量殺傷テロへの対処について」を参考とした。国と都道府県との連携については「NBCテロ対処現地関係機関連携モデル」に従い関係機関の対応の流れを整理する。

結果と考察
(1)保健所管轄単位での流行の様子を観察するため,GISを用いた視覚化を行った。定点あたり報告件数,各管轄の前週までの直近3週間の平均に対する当該週の報告件数の比による相対リスク(RR),RRが高い地域の集積(集積性の検定に基づき検出された地域)を表した。49週で有意な集積地域として検出されたのは藤井寺, 大阪市住吉, 大阪市西成の3地域(p値=0.0047)であり,その地域での報告件数が39件であった。
(2)本モデルでは、救急隊によるトリアージの後、軽傷および中等症の被害者は独歩で各医療機関に移動し、重症者は、救急車で搬送するという前提で、地下鉄サリン事件当時の被害者数と同じ条件で、最短経路で搬送することを条件にシミュレーションを実施した。これにより、現場からどのような経路で被害者が動くかを可視化することができた。
(3)放射線被ばく後の経過時間に左右されない安定型染色体異常を指標とした新たな分析法(3-color FISH法)を開発した。この方法により、初期/一次対応者の長期追跡調査および過去の対応者の遡及的調査での線量推定が可能となる。今年度は、福島第一原発事故の経験から、100 mSv、250 mSvの被ばく量制限値に着目し、低線量域を中心とした検量線を作製し、線量効果関係(線形二次曲線式)を明らかにした。 
(4)放射線テロに関しては、医療用線原を用いた都心ターミナル駅での散布、地方空港における航空機墜落に伴う飛散という2つのシナリオを作成した。

結論
化学、生物、放射線テロのそれぞれにおいて取るべき対策は大きく異なることから、研究として個別の特性に応じた課題の設定が求められる。このため、本研究において、化学テロについては、大量に発生する被災者をいかに適切かつ迅速に治療可能な医療機関に収容できるかを検証できるモデルの構築を行うこととした。生物テロに関しては、社会活動をコンピューター上に詳細に再現することは難しく、感染症についてはモデルの正確性を検証するためのパラメータが不足している。そこで、生物テロ対策に関する社会医学研究の方向性として、地域の感染症患者の集積を早期に捉える技術の開発と実装が急務であると考える。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201429015Z