文献情報
文献番号
201429007A
報告書区分
総括
研究課題名
医療・介護福祉施設を含む地域密着型の感染制御ネットワークの構築に関する研究
課題番号
H25-健危-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
加瀬 哲男(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部)
研究分担者(所属機関)
- 朝野 和典(大阪大学大学院 医学系研究科 感染制御医学講座)
- 浅田 留美子(大阪府茨城保健所)
- 駒野 淳(国立病院機構 名古屋医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
医療機関における感染制御(院内感染対策)は確立しつつあるが、医療関連感染(Healthcare- associated infection)制御の観点から、医療機関以外の施設における対策が必要である。医療関連感染予防を地域で効果的に実施できれば、高い費用対効果で感染症対策を実施できる可能性がある。これは限られた厚生予算の効果的な運用に貢献できる。このような背景の中で医療機関に対し大きな感染対策ストレスになることが指摘されている福祉施設における感染制御について戦略的な対策を講じることができれば、社会に対する貢献度は非常に大きいと思われる。福祉施設における施設内感染は入所者や施設従事者に不必要な苦しみと施設に多大な負担を及ぼす。これは医療機関における状況と全く同じであり、対策においても類似のアプローチが有効であることを示唆する。そこで、医療機関の取り組みを模倣し、福祉施設の感染症対策ネットワークを構築する。これを通じて施設内感染対策を強化すると同時に、感染制御にかかる地域の医療費を削減できる可能性について科学的基盤の提供を試みる。
研究方法
平成25年から26年にかけて、以下の項目について順次行った。1)地区および施設の選定、2)研究事業への参加要請、3)感染制御に係る現状と問題の把握、4)感染制御ネットワーク研究会の活動、5)医療施設との連携、6)ネットワーク運営形態に関する検討、7)多剤耐性菌の地域拡大に関する解析、8)他の地域への活動支援、9)事業活動に対する評価。簡単にまとめると、大阪府吹田市をモデル地区に選定し、管内の特別養護老人ホーム20施設を対象として吹田市高齢支援課、吹田保健所、大阪府立公衆衛生研究所が参加する施設内感染対策支援ネットワークを構築し、現状の把握と効率的な支援活動のあり方を検討するために、アンケート調査を3回実施し、施設訪問を行い、問題点を抽出し、研究会を合計7回行い、その問題点の解決の方策と依然として解決できない点の情報を共有した。また医療機関との連携を深めるために薬剤耐性菌のサーベイランスに着手した。さらに吹田地区以外でのネットワークに参加して、方法論の違いについて検討した。
結果と考察
施設側の要望が高い感染症を題材として2年間で7回の研究会を吹田保健所にて開催した。院内感染、ノロウイルス感染症、インフルエンザ感染症、疥癬、HIV感染症と介護、感染制御の実演、結核、ワクチンについて専門家の講演を受け、施設従業員の感染症対策に関する知識の標準化に貢献した。公衆衛生研究所、保健所、医療機関の専門職による施設の現状調査と勉強会を2年間で6施設にて実施した。感染対策マニュアルの供覧、サイトビジットの結果を研究会にて発表して成果の共有を図った。地域でどのように耐性菌が伝搬していくかを分子遺伝学的に解析するため、長期的視点にたって吹田および茨木地区で検出された各種の多剤耐性菌の収集保存を大阪府立公衆衛生研究所で現在も継続的に実施している。感染制御ネットワーク構築と運営の問題点を検討した。施設主導型の運営では施設が自発的にネットワークに参画するため積極的な発言が目立つ。権力行政権限を持たない衛生研究所がネットワーク調整役になることで施設からはより率直かつ切実な問題提起が期待できる。
結論
高齢化社会を迎え、国民への質の高い介護福祉と医療の提供を財政的に担保する必要がある。本研究は、「地域」と「感染症制御」の視点から介護と医療を捉える事により、課題克服への貢献を目指した。高齢者は感染症への抵抗性が低く、医療施設における感染制御対策において介護施設入所者の関与は深い。我々は介護施設での感染症対策を強化する事で、感染制御に要する医療費を削減できる可能性について検討した。平成26度は大阪府吹田市をモデル地区に選定し、管内の特別養護老人ホーム20施設を対象として吹田市高齢支援課、吹田保健所、大阪府立公衆衛生研究所が参加する施設内感染対策支援ネットワークを構築し、現状の把握と効率的な支援活動のあり方を模索した。感染症対策に関する知識、意識、経験、対策基準には施設間で差があり、現状の対策に不安がある実態が判明した。ネットワーク活動が感染制御に恩恵をもたらすとの共通認識を醸成することができ、ネットワークを通じた感染対策支援が介護福祉の質の改善にもたらす影響について科学的知見を収集できる基盤が整備できたと考える。今後、医療・介護福祉施設を含む地域密着型の拡大感染制御ネットワークを編成することによって、地域住民に安心・安全を提供できる福祉への貢献が期待される。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
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