妊娠期のPFAAs・OH-PCB曝露による次世代への甲状腺機能攪乱作用と生後の神経発達へ与える影響の解明

文献情報

文献番号
201428026A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠期のPFAAs・OH-PCB曝露による次世代への甲状腺機能攪乱作用と生後の神経発達へ与える影響の解明
課題番号
H26-化学-若手-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 佐智子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有機フッ素化合物(PFAAs)やPCBは人体へ長期間蓄積し、胎児移行率が高い。これまで血中PFAAs濃度と注意欠陥・他動性障害(ADHD)等児の発達障害との関連や、PCB代謝物の水酸化PCB(OH-PCB)曝露と5-6歳の注意力低下との関連が報告された。そのメカニズムとして脳神経の発生・発育時期の甲状腺機能異常は脳神経発達の障害を招くことから、化学物質の胎児期曝露が胎児成長に必須である甲状腺ホルモン値を攪乱して神経行動障害を引き起こす可能性が考えられた。特にPFNA、PFUnDAはわが国で生産量が多いが、胎児期の長炭素鎖PFAAs曝露が甲状腺ホルモン値撹乱および脳神経系発達への影響についてこれまで全く検討されておらず、OH-PCBの先行研究も少ないため、わが国における早急な検討と予防対策が急務である。本研究では、出生前向きコホート「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」大小2つのコホートを用いて、母児260組の代謝関連SNPs解析および母児1000組の母体血中および臍帯血中新生児甲状腺ホルモン値(TSH、FT3、FT4)と抗甲状腺抗体(TgAb、TPOAb)の測定を行い、長炭素鎖PFAAsおよびOH-PCBの妊娠期曝露による母児甲状腺機能攪乱作用への影響を解明と幼児期や学童期の発達障害との関連を明らかにし、化学物質胎児期曝露による次世代への健康リスク評価を行うことを目的とする。
研究方法
1.代謝関連SNPsの違いによる胎児期OH-PCB曝露と児の甲状腺ホルモン値との関連検討:
2003年~2005年に札幌市内同一産科医院にて参加登録を行った妊婦514名の小規模コホート参加者のうち、妊娠中母体血中OH-PCB濃度と妊娠中の母親および出生時の児甲状腺ホルモン値データが揃う260組の母児を対象とした。母体血中OH-PCB濃度は福岡県保健環境研究所で測定したOH-CB107、OH-CB146+153、OH-CB172、OH-CB187の各異性体の数値を、児甲状腺ホルモン値(TSH,FT4)は、札幌市が実施しているマススクリーニングの結果を用いた。妊娠中母体血よりAhR, CYP1A1, GSTM1, GSTT1の解析を行った。
母体血中∑OH-PCB濃度と児甲状腺ホルモン値の関連について各SNPsの多型ごとに層別化し、重回帰分析を行った。∑OH-PCB濃度、児TSH、FT4値は常用対数変換して用いた。
2.大規模コホート内母児血中甲状腺ホルモン値および抗甲状腺抗体の測定:
2003年~2012年に北海道内の産科37施設で参加登録を行った妊婦20,929名の大規模コホート参加者のうち、2013年までに児が8歳を迎え、妊娠中母体血と出産時臍帯血の両検体とPFAAs濃度のデータが揃い、8歳時Conners3P調査票返送がある母児1000組を対象とした。妊娠期母体血よりPFAAs濃度を測定した500組の母児について、母対決、臍帯血から母児の甲状腺ホルモン値・抗甲状腺抗体の測定を株式会社エスアールエルに委託して行った。
結果と考察
小規模コホート内で妊娠期母体血中OH-PCB濃度が児甲状腺ホルモン値への影響検討を重回帰分析にて検討したところ、AhRのAG/GG型では母体血中ΣOH-PCB、4-OH-CB187濃度が高くなると児のFT4値が有意に高くなる (p=0.016、0.031)が、AA型では有意な関連がみられなかった(p=0.856、0.400)。CYP1A1、GSTM、GSTTの各SNPsでも同様の検討を行ったが、SNPs間での差はみられなかった。本研究の母体血中ΣOH-PCB濃度(35.1pg/g-wet)は先行研究における妊婦と比較して低い濃度であり、一般生活環境レベルでの妊娠中OH-PCB曝露による児甲状腺ホルモン値への影響を、個々の代謝能力差を考慮しながら明らかにすることができる。今後は他のSNPsの追加解析に加え、複数のSNPs組み合わせによる層別化も行って検討する。
大規模コホートでは母児500組の甲状腺ホルモン値および抗甲状腺抗体測定を行い、これは平成27年度も引き続き行う。本研究では、特にFT4に加えFT3を測定することで、FT4、FT3値がほぼ同様の変動をする臨床的な甲状腺疾患と区別する形で環境化学物質曝露による甲状腺機能攪乱の影響を比較して明らかにできると考えられる。
結論
母体血中OH-PCB濃度と児甲状腺ホルモン値との関連を母親のSNPsで層別化し解析を行ったところ、AhRのAG/GG型では妊娠期母体血中ΣOH-PCB、4-OH-CB187濃度と児のFT4値に有意な正の関連がみられたが、AA型では有意な関連がみられず、遺伝子多型の違いによってOH-PCB曝露が甲状腺ホルモン値へ及ぼす影響が異なることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201428026Z