遺伝子治療薬の安全性確保基盤技術に関する研究

文献情報

文献番号
199800420A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療薬の安全性確保基盤技術に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 真弓忠範(大阪大学薬学部)
  • 中西真人(大阪大学微生物病研究所)
  • 鈴木宏治(三重大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
73,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療の実用化と一層の進展に向け、より安全性の高い次世代遺伝子治療薬の開発に資する技術基盤の確立と安全性評価技術の開発に関する研究を行うことを目的とし、1)次世代ハイブリッドベクターの開発基盤研究、2)ミニ人工染色体(独立レプリコン)の開発に向けた基礎研究、3)導入遺伝子の核移行に関する研究、4)細胞質内での遺伝子発現系に関する研究、の各課題について検討を進め、これらを総合することにより遺伝子治療の安全性を確保する次世代ハイブリッド型遺伝子治療用ベクターの開発を目指すとともに、5)遺伝子治療の応用研究、6)関連する安全性等評価技術の開発を行う。
研究方法
1)次世代ハイブリッドベクター開発基盤研究:逆相蒸発法の変法、Bangham法、凍結融解法の変法で調製したリポソームをサイジング処理し、不活化センダイウイルスと融合させて調製法とサイズの異なる膜融合リポソームを作製した。培養細胞への遺伝子導入効率はルシフェラーゼ活性により、封入遺伝子量は3,5-Diaminobenzoic acid dihydrochlorideを用いて定量した。遺伝子分解活性はDNase・処理で検討した。Vesicular Stomatitis Virus (VSV)-リポソームは凍結融解法で調製したリポソームをVSVと反応させて作製した。細胞内物質導入効率は封入したジフテリア毒素フラグメントA(DTA)による蛋白合成阻害を指標とした。2)ミニ人工染色体(独立レプリコン)の開発に向けた基礎研究:テロメアシーディング活性は500 bp の(TTAGGG)nを持つpMYAC1が挿入されテロメアのできたクローン数より測定した。DNAの安定性は、フレオマイシン耐性遺伝子、ラットCytochrome P450 2B1遺伝子を持つプラスミドを作製し、フレオマイシンでポジティブ選択、Cyclophosphamideでネガティブ選択後、出現コロニーより測定した。ヒト染色体断片はOriPを除去したEBVベクターに挿入し、自立複製したものからクローニングした。3)導入遺伝子の核移行に関する研究:核移行シグナル(NLS)を付加したラムダファージの核移行活性はファージ頭部のEタンパク質抗体を用いた間接蛍光抗体法により測定した。ファージによる遺伝子発現はファージDNAにGFPまたはルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだものを用いた。プラスミドをファージに封入するパッケージング大腸菌は、ファージD遺伝子をNLS-Dに置換しE、H遺伝子に変異を導入したファージDNAを大腸菌に溶原化して作製した。4)細胞質内での遺伝子発現系に関する研究:T7プロモーター制御ルシフェラーゼ発現プラスミド(pT7-IRES-L)、T7プロモーター制御T7 RNAポリメラーゼ発現プラスミド(pT7-AUTO-2)、T7 RNAポリメラーゼはLipofectinを用いて細胞に導入し、遺伝子発現をルシフェラーゼ活性により測定した。増殖停止細胞はマイトマイシンC により増殖を阻害して用いた。5)術後肝障害の阻止を目指した遺伝子治療の応用研究:ヒトトロンボモジュリン(TM)発現ベクターを作製し、膜融合リポソームにより遺伝子導入した。肝類洞内皮細胞での遺伝子発現はTMの生物活性、抗原量、mRNA発現により測定した。6)非ウイルスベクター類の安全性評価に関する研究:細胞パネルとして正常ヒト初代細胞4種類、血球系細胞5種類、ヒト培養細胞株9種類を、モデルベクターとして市販の遺伝子導入試薬6種類を用いた。ベクターの毒性評価は遺伝子導入時の細胞膜傷害性と細胞生存率より、遺伝子発現効率はベータガラクトシダーゼ活性により測定した。
結果と考察
1)次世代ハイブリッドベクター開発基盤研究:調製法および粒子径の異なるリポソームを用いて膜融合リポソームを作製した結果、粒子径の増大に伴い遺伝子封入量が増加し
遺伝子発現も高くなること、同サイズでは凍結融解法が最も高い遺伝子封入率、遺伝子発現を示すこと、粒子径増大により大きなサイズの遺伝子も導入可能であることが明らかとなった。また遺伝子とスペルミジンの混合により遺伝子の分解が抑制され、遺伝子発現が増強可能なことを示した。VSV-リポソームは内部に封入したDTAを細胞内にintactな状態で導入可能で、単独では細胞障害性を発現しないことを明らかにした。2)ミニ人工染色体(独立レプリコン)の開発に向けた基礎研究:テロメア配列結合因子hTRF1の強発現によりテロメアシーディングが増加したことから、テロメア配列とhTRF1の相互作用により染色体末端が安定化されることを見いだした。ポジティブ・ネガティブ選択遺伝子を用いる安定性測定系を開発し、遺伝情報の安定性を定量的かつ短時間に測定できることを示した。またヒト染色体断片を組み込んだプラスミドの細胞内複製、安定性を検討し、複製、安定性に関与する染色体断片の候補を取得した。3)導入遺伝子の核移行に関する研究:NLSを頭部に発現させたファージの核移行を解析し、核膜孔を通して能動的に核移行することを示した。またファージゲノムにマーカー遺伝子を挿入して遺伝子発現を検討し、NLSファージでは遺伝子発現が著しく増強されることが判った。さらに小さい頭部と短い尾部を持つNLSミニファージ頭部に任意のプラスミドを封入することができるパッケージング大腸菌の作製に成功した。4)細胞質内での遺伝子発現系に関する研究:T7細胞質内遺伝子発現系の有用性をin vitroで検討し、pT7-IRES-LとT7 RNAポリメラーゼにより短時間で遺伝子が発現し、さらにpT7-AUTO-2を共導入することにより持続的な遺伝子発現、遺伝子発現効率の増強が認められた。また増殖停止細胞でも増殖時ともほぼ同等の遺伝子発現が認められた。5)術後肝障害の阻止を目指した遺伝子治療の応用研究:抗血栓性因子遺伝子導入による術後肝障害の発生阻止を目指してヒトTM発現ベクターをラット門脈からin vivo投与したところ、6日目の肝類洞内皮細胞でTM遺伝子発現の有意な増加が認められ、単離肝類洞内皮細胞でも遺伝子導入48時間で発現が認められた。6)非ウイルスベクター類の安全性評価に関する研究:非ウイルスベクター類の遺伝子発現効率と毒性発現(細胞膜傷害性、細胞生存率への影響)をin vitroでヒト細胞パネルを対象として比較検討し、評価に資するパラメーター及び評価手法に関する有用な知見を得た。
結論
1)膜融合リポソームの粒子設計を検討し、リポソーム調製法の変更、粒子径の増大、スペルミジンの利用等により、遺伝子発現が増強され、より広範囲の生理活性物質が封入可能となり膜融合リポソームの有用性、汎用性が増した。VSVを利用した安全性の高い新規ベクターの開発を試み、VSV-リポソームの有用性を示唆した。2)独立レプリコンの開発に向けた基礎研究として染色体の安定化機構にテロメア配列(TTAGGG)n とテロメア結合タンパク質hTRF1との相互作用が関与していることを明らかにした。また動物細胞で染色体外に存在するDNAの安定性を、正確かつ迅速に測定する系の開発に成功した。3)表面に核移行シグナルを持つNLSファージによりファージ粒子内部に組み込んだマーカー遺伝子の核移行、遺伝子発現増強に成功した。また任意のプラスミドDNAを頭部が小さいNLSファージに組み込めるパッケージング大腸菌の作製に成功した。4)T7プロモーターとT7RNAポリメラーゼを利用するT7細胞質内遺伝子発現系のin vitroでの有用性を明らかにした。5) 術後肝障害の阻止を目指した遺伝子治療研究の基礎検討として、抗血栓性因子トロンボモジュリン遺伝子を膜融合リポソームを用いてin vitro, in vivoで肝類洞内皮細胞に導入し、遺伝子発現を確認した。6) 非ウイルスベクター類を用いた遺伝子導入の有効性と安全性の関係をin vitroで細胞パネルを用いて検討し、安全性・有効性に関与するパラメーターを明らかにした。

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