腎細胞がんに対する免疫遺伝子治療―IV期腎細胞がん患者を対象とするGM-CSF遺伝子導入自己複製能喪失自家腫瘍細胞接種に関する臨床研究

文献情報

文献番号
199800419A
報告書区分
総括
研究課題名
腎細胞がんに対する免疫遺伝子治療―IV期腎細胞がん患者を対象とするGM-CSF遺伝子導入自己複製能喪失自家腫瘍細胞接種に関する臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
谷 憲三朗(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 浅野茂隆(東京大学医科学研究所)
  • 奥村康(順天堂大学)
  • 藤目真(順天堂大学)
  • 濱田洋文(癌研究会・癌化学療法センター)佐藤典治(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、腎細胞がんにより本邦では年間約 2,800人が死亡している。この中でも極めて予後不良なIV期腎細胞がん患者に対する新たな治療法の開発が強く望まれる。1つの候補として、放射線照射・GM-CSF遺伝子導入自家腫瘍細胞の抗腫瘍免疫誘導能が注目されており、米国、オーストラリア、オランダでは、腎細胞がん、メラノーマ、前立腺癌ならびに肺癌患者に大量放射線照射後のGM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞(GVAXと以下省略)を実際に接種し、その臨床結果の一部も最近報告されている。これによるといずれの臨床試験プロトコールにおいても、GVAX接種量が多い患者体内でより顕著な抗腫瘍免疫誘導効果が認められた。今回の我々の臨床研究では以上のような知見を基礎に、患者の抗腫瘍免疫活性をより増強させ臨床効果に結びつける目的で、これまで米国を中心に検討されてきたGVAX臨床試験の結果を参考に、GVAXの皮内接種投与量を最適と考えられる量に設定し、その投与実施の可能性ならびに安全性の評価を行うことを第一の目的としている。同時に実際に患者にもたらされた抗腫瘍免疫誘導効果を評価検討すること、さらには画像診断技術を用い、腫瘍縮小効果についても併せ検討することも本臨床研究の目的である。また本臨床プロトコールに付随した基礎的検討として、固形腫瘍に対する新たな免疫遺伝子治療法の開発も目的としており、その為の新規遺伝子のクローン化ならびに遺伝子導入法の開発研究を行う。
研究方法
98年度は東京大学医科学研究所附属病院において遺伝子治療を開始したことに加え、いくつかの基礎研究も併せ行った。
(1) 第IV期腎癌患者への免疫遺伝子治療の実施ならびにその臨床的・免疫学的検討
病名告知の為されたIV期腎細胞がん患者に対し、本臨床研究プロトコールの内容を十分に説明し、その内容を理解できた患者の中で同意書に署名をした患者について、患側腎の摘出術を行い、腎癌部分より放射線照射培養自家腎癌細胞を作製し、GM-CSF遺伝子導入腎癌細胞の性質の解析を行うと共に、そのワクチン細胞としての安全性を米国MA社により検定する。これらの結果から患者への投与が適切であると判断された後、患者皮内へ4×107個の細胞を接種し、その後は隔週で2×107個を5回接種する。患者の臨床的観察は原則として東大医科研附属病院入院管理下で行い、一般的臨床検査項目に関する追跡検査を行う。また定期的に皮膚生検を細胞接種部位や遅延性皮膚反応(DTH)検査部位について行い、病理学的に詳細に検討する。さらにMRIやエコーを用い、転移病巣の経過観察を行う。さらにPCR法を用いた腎細胞がん患者末梢血Tリンパ球のオリゴクロナリティー解析、腎細胞がん患者腫瘍浸潤Tリンパ球を用いた細胞傷害性Tリンパ球解析などの特殊免疫学的解析、さらには腎細胞がん腫瘍抗原の同定なども可能であれば行う。
(2) 泌尿器系がんの糖鎖発現と浸潤・転移能との関係についての検討
尿路上皮がんにおける血清CA19-9抗原量と転移・予後との関連について検討することを目的に、164例の尿路上皮がん患者より,原発巣摘出前に得た血液標本を用いて検討を行う。
(3) CD154 (CD40リガンド)遺伝子を用いた新規免疫遺伝子治療法の開発
共刺激分子 CD154 遺伝子導入細胞の持つ特異的抗腫瘍免疫誘導により癌治療が可能であるかを検討する目的で、マウスの系において、皮下接種により腫瘤形成を惹起するDBA/2 マウス由来肥満細胞腫 P815 に共刺激分子 CD154 を遺伝子導入し(CD154/P815)、作製した CD154/P815 細胞による抗腫瘍治療効果を、CD80遺伝子導入によるものと免疫学的・病理学的に比較検討する。
(4) 複合的GM-CSF遺伝子導入ワクチン療法の開発
GM-CSF遺伝子導入ワクチン療法をさらに強力にする目的で、GM-CSF遺伝子導入細胞と自殺遺伝子導入細胞との併用や樹状細胞の応用を検討する。さらにリンフォタクチン遺伝子を導入した骨髄樹状細胞(DC)にペプチド抗原を組み合わせることによって強い抗腫瘍免疫活性の誘導を試みる。
(5) mRNA連続解析システムによるGM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞の増殖抑制機構の解析
GM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞の抗腫瘍免疫誘導に関しての作用分子の本体は依然不明である。この分子の同定が可能となれば新規遺伝子治療法の開発につながる。本研究室で作製したGM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞の完全な退縮が認められるマウス腫瘍モデル系を用い、最近開発されたSerial Analysis of Gene Expression(SAGE)法と呼ばれる強力なmRNA発現解析システムを適用し、造腫瘍抑制効果にかかわる新規遺伝子を単離することを目的とした研究を行う。
(6) 腎細胞癌長期転移病巣担癌患者の末梢血単クローン増生Tリンパ球の抗腫瘍免疫能の検討
腎癌患者においては担癌状態で長期生存を来す患者群があり、末梢血中の腫瘍反応性T細胞の誘導との関連性が疑われる。そこでRT-PCR法を用いたTCR Vβレパートア解析法により検索し、単クローン増生を遂げたT細胞の腎癌特異的細胞障害活性を証明することを目的に長期転移病巣腎癌患者末梢血単核細胞からRNAを抽出後、T細胞受容体遺伝子再編成において生ずるβ鎖CDR3再編成領域のサイズ長からT細胞のクローナル増生を検出する。さらに単クローン増生を遂げたT細胞の腎細胞癌細胞に対する細胞障害性を証明する。
結果と考察
結果=(1) 第IV期腎癌患者への免疫遺伝子治療の実施ならびにその臨床的・免疫学的検討
第1例目の患者の腎癌より作製したGM-CSF遺伝子導入腎癌細胞はその性質ならびに安全性に問題なく作製された。実際に患者へ接種された後も著明な副作用は認められなかったことに加え、患者体内に病理学的ならびに免疫学的に検出可能な抗腫瘍免疫反応の誘導を認めた。
(2) 泌尿器系がんの糖鎖発現と浸潤・転移能との関係についての検討
grade3、pT4、N3、M1、stage IVで、他群に比べてCA19-9値が有意に高値を示した。
(3) CD154 (CD40リガンド)遺伝子を用いた新規免疫遺伝子治療法の開発
CD154/P815 細胞は腹腔マクロファージを刺激し IL-12産生を誘導し、マウス体内での抗腫瘍効果を誘導することが明らかになった。
(4) 複合的GM-CSF遺伝子導入ワクチン療法の開発
AdGMCSFとAdCD5FCを併用した場合、AdlacZ/5FC、AdCD/5FC、AdGMCSFのそれぞれを単独で用いた場合よりも、はるかに強い治療効果が得られ、その際にDC、CD8+T細胞の腫瘍内浸潤、さらには特異的なCTLの誘導を認めた。またリンフォタクチン遺伝子を導入したDCにペプチド抗原を組み合わせることで強い抗腫瘍免疫活性を誘導できた。
(5) mRNA連続解析システムによるGM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞の増殖抑制機構の解析
SAGE法に於けるdi-Tag増幅の効率アップとバックグラウンドの減少を詳細に検討し、1 k base以上のdi-Tag concatemerのCloning頻度を80%まで高めることに成功し、この際に発現頻度の高い遺伝子を同定中である。
(6) 腎細胞癌長期転移病巣担癌患者の末梢血単クローン増生Tリンパ球の抗腫瘍免疫
能の検討
転移病巣が発見されてから1年以内に死亡した患者と比較して、2年以上生存した患者群ではクローン増生を示すT細胞が増加する傾向にあり、長期生存を示した患者において出現したVb3 T cellのクローン化ならびにその機能解析を行っている。
結論
結論と考察=腎癌に対するGM-CSF遺伝子を用いた免疫遺伝子治療実施第1例目におけるこれまでの臨床ならびに免疫学的検討結果より、本遺伝子治療法は安全に患者に対して実施できることが明らかになった。また患者体内に同定可能な腫瘍特異的免疫反応を誘導できることが明らかになった。DTH皮膚反応部位に認められた正常腎細胞への反応は、培養過程において存在するウシ胎児血清やトリプシンなどのタンパク分子が細胞表面に堅固に付着し、ある程度の共通抗原として認識されている可能性が高いものと考えられた。
CA19-9抗原の発現機構、その高発現と転移能との関係につき興味がもたれた。これらの結果から今後の尿路系腫瘍を標的化する遺伝子治療開発への方向性が示唆された。共刺激分子 CD154遺伝子を導入することにより、腫瘍細胞に対して特異的抗腫瘍免疫を誘導できる可能性が示唆され、新規免疫遺伝子治療法の開発が可能と考えられた。自殺遺伝子導入とサイトカイン遺伝子導入療法の併用やリンフォタクチン遺伝子を導入したDCにペプチド抗原を組み合わせることなどの方法は、現在進めているGM-CSF遺伝子導入ワクチン療法の効果をさらに強力にするために有力なストラテジーになると考えられた。
SAGE法による解析により新たな腫瘍拒絶エフェクター分子をとらえることが可能となると考えられた。また遺伝子治療後の腎癌患者より腎癌特異的細胞障害活性の証明ならびにそれに関与するT 細胞クローンの単離も可能であると考えられた。

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