国際協調を指向した薬剤性光線過敏症リスク評価方法開発の新展開

文献情報

文献番号
201427053A
報告書区分
総括
研究課題名
国際協調を指向した薬剤性光線過敏症リスク評価方法開発の新展開
課題番号
H25-医薬-若手-024
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
尾上 誠良(静岡県立大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,820,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤性光線過敏症とは,医薬品が体内で太陽光によって光化学的に活性化され,皮膚において誘発される有害反応である.創薬や安全性評価の従事者にとっては,国際的なレベルで標準化された光安全性評価方法の開発が急務の課題となっている.また,欧州では化粧品成分に対する動物実験禁止(2009 年)および化粧品の販売禁止(2013 年)が適用され,このような動物実験倫理の急速な変化を鑑み,医薬品開発においても動物実験代替法を用いた安全性評価に関する国際協調を急がねばならない.本研究では,精度と生産性が高い in vitro 光毒性試験法開発を進め,本試験法を信頼性の高い安全性試験へ展開させるために動物実験の 3Rs (Reduction, Refinement, Replacement) の促進を前提とした in vitro/in vivo 融合評価系の開発を併せて行う.
研究方法
応募者のこれまでの研究の結果,薬剤性光線過敏症リスクを予測する上で重要な要因となるのは,(1) 化合物の光化学的反応性,(2) 化合物の体内動態(特に皮膚移行性)の 2 種であり,この何れかが欠ければ光毒性発現のリスクは低い.応募者が開発し International Conference on Harmonization (ICH) Topic S10 guideline で採用が検討されている ROS (reactive oxygen species) assay を基盤により多くの化合物に適用できるよう改良し,さらに ROS assay データと薬物動態情報を融合することで効率良く光毒性リスクを予測できると確信する.
結果と考察
(1) ROS assay の改良
現在の ROS assay は高い陽性検出率が評価されて ICH S10 guideline に採用されたが,難溶性薬物への適用性はまだ完全には解決出来ていない.そこで,平成 25 年度に開発した新しい ROS assay システムを種々の難溶性医薬品や医薬部外品に適用し,その予測精度と適用限界について詳細に検証を進めた.

(2) 光化学的特性と皮膚移行性による統合的光毒性予測法の開発
 光毒性の発現部位は皮膚であり,すなわち投与した薬物の皮膚移行性評価は極めて重要である.しかし皮膚移行性評価は数多くの実験動物と時間を要するため,生産性の高いカセットドージング法の導入を検討する.薬物相互作用の発現有無の確認や,それによる毒性予測への影響についても精査する.ROS assay データと薬物動態情報を考慮して統合的光毒性予測を試み,さらに複数の光毒性薬物群(ニューキノロン系,ヒダントイン系)を用いて光毒性リスクを網羅的に評価し,同化合物群の臨床所見と比較することで本アプローチの予測性と信頼性を検証した.

(3) ROS assay の多施設 validation study
製薬協加盟企業ならびに(財)食品薬品安全センターと共同で ROS assay のプロトコールを標準化し,さらに既報の光毒性化合物や非光毒性化合物を対象とした多施設 validation study を行って,施設内と施設間の再現性ならびに頑健性について網羅的に精査した.今後は国内外での推奨プロトコールの一般普及につとめた.

(4) 国際協調活動
ROS assay が ICH S10 guideline に採用されたので,今後は guideline の日本語訳を支援すると共に,講習会の開催を JPMA や JaCVAM と計画した.また,化粧品の安全性評価に関する米国 PCPC guidance “Evaluation of Photoirritation and Photoallergy Potential” への採用に向けて国際協調活動を推進した.
結論
ROS assay とカセットドージング薬物動態学的データと組み合わせて得た毒性予測と実際の臨床報告を比較して臨床予測性について検証した.また,ROS assay は ICH Topic S10 において採用が決定したので,これに続けて S10 ガイドラインを適切に日本語訳するプロセスを支援するとともに,化粧品に関する Personal Care Products Council (PCPC) guidance “Evaluation of Photoirritation and Photoallergy Potential” への採用に向けて国際協調活動を推進することに成功した.

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201427053B
報告書区分
総合
研究課題名
国際協調を指向した薬剤性光線過敏症リスク評価方法開発の新展開
課題番号
H25-医薬-若手-024
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
尾上 誠良(静岡県立大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は薬剤性光線過敏症リスク評価のため簡便かつ信頼性の高い評価系を提示することであり,国際協調を最終的に達成することで国際的なニーズに答えようとするものである.本研究では,精度と生産性が高い in vitro 光毒性試験法開発を進め,本試験法を信頼性の高い安全性試験へ展開させるために動物実験の 3Rs (Reduction, Refinement, Replacement) の促進を前提とした in vitro/in vivo 融合評価系の開発を併せて行う.
研究方法
ROS assay は光反応性評価法として国際的な認識が高まりつつあるが,本評価系の問題として (1) 難溶性薬物への低い適用性,(2) 高い偽陽性が指摘されており,実用上の技術革新が必要とされているのである.本命題に対峙すべく,ROS assay の信頼性と適用性を拡大するために以下の検討を戦略的に実施する.すなわち,【平成 25 年度】は ROS assay の難溶性薬物への適用性改善を指向して光化学的に不活性な溶解補助剤や界面活性剤を利用して生体膜模倣環境を作り出し,その中でのスクリーニングを試みる.また,JPMA のワーキンググループと共同で,通常の ROS assay の判定基準を改変することで難溶性薬物の光毒性リスク予測精度向上を試みる.【平成 26 年度】はカセットドージング法によって被験物質の血中・皮膚移行性を精査し,体内動態情報と ROS assay データを相互利用することで臨床での毒性発現予測を試み,上市された医薬品を対象にスクリーニングすることでその信頼性を検証することとする.
結果と考察
(1) ROS assay の改良
ROS assay の難溶性薬物への適用性は必ずしも高くない.そこで適用性改善を指向して光化学的に不活性な溶解補助剤や界面活性剤を利用して生体膜模倣環境を作り出し,その中でのスクリーニングを試みた.特に,溶解補助剤としての Tween 20 や血漿タンパク質である albumin の添加は ROS assay の精度を維持しつつ被験物質の溶解度を著しく高めることに成功した.

(2) 光化学的特性と皮膚移行性による統合的光毒性予測法の開発
 光毒性の発現部位は皮膚であり,すなわち投与した薬物の皮膚移行性評価は極めて重要である.しかし皮膚移行性評価は数多くの実験動物と時間を要するため,生産性の高いカセットドージング法の導入を検討する.薬物相互作用の発現有無の確認や,それによる毒性予測への影響についても精査する.ROS assay データと薬物動態情報を考慮して統合的光毒性予測を試み,さらに複数の光毒性薬物群(ニューキノロン系,ヒダントイン系)を用いて光毒性リスクを網羅的に評価し,同化合物群の臨床所見と比較することで本アプローチの予測性と信頼性を検証した.

(3) ROS assay の多施設 validation study
製薬協加盟企業ならびに(財)食品薬品安全センターと共同で ROS assay のプロトコールを標準化した.さらに既報の光毒性化合物や非光毒性化合物を対象とした多施設 validation study (7 施設: 製薬企業,試験委託機関,大学) を行って,施設内と施設間の再現性ならびに頑健性について網羅的に精査した.【平成 25 年度】は JPMA のワーキンググループと共同で,ROS assay の判定基準を改変することで難溶性薬物の光毒性リスク予測精度向上を試み,偽陰性を出さずに適用可能範囲の拡大に成功した.Validation 報告書をまとめ,毒性専門家(日本 1 名,海外 3 名)から第三者評価を受けるとともに,プロトコールについても指摘事項を反映すべく種々検討を行って成熟させた.【平成 26 年度】は ROS assay に関する講習会を計画し,国内外での推奨プロトコールの一般普及につとめた.

(4) 国際協調活動
ROS assay が ICH S10 guideline に採用され,guideline の日本語訳を支援すると共に,講習会の開催を JPMA や JaCVAM と計画した.また,化粧品の安全性評価に関する米国 PCPC guidance “Evaluation of Photoirritation and Photoallergy Potential” にも ROS assay が記述された.
結論
サブテーマごとに戦略的に研究を遂行し,その結果として ROS assay の適用可能範囲の拡大と精度の向上を同時に達成し,さらには ROS assay の ICH S10 ガイドラインならびに PCPC guidance に採用された.

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201427053C

成果

専門的・学術的観点からの成果
薬剤性光線過敏症の発生機序を解明すると共に,それに関係する重要な因子を部分的に特定することができた.これによって,これまでに不明瞭であった薬剤性光線過敏症の光化学的本質がより明らかとなり,今後新たな評価系を構築するに際して一助となる知見を提示できたものと考える.
臨床的観点からの成果
臨床における薬剤性光線過敏症リスクをより正確に予測するためには,被験物質の光化学的挙動と体内動態情報の総合的判断が必要不可欠であることをあたらに明らかにした.すなわち,両者を複合的に評価することによって臨床予測性の高い光安全性評価が可能になる可能性があり,今後より詳細な検討を推進する.
ガイドライン等の開発
本検討で開発推進した ROS assay は ICH S10 に採用され,2014 年 6 月には step 5 に到達した.また,personal care product council guidance においても ROS assay が光安全性評価に有用であることが明示されるに至った(2014 年 11 月).
その他行政的観点からの成果
ICH S10 に ROS assay が採用され,2013 年 11 月に step 4 に到達した後は,一般普及を推進するために技術講習会を開催するとともに,本ガイドラインの日本語化を推進した.今後の薬事行政上の活用が期待される.
その他のインパクト
2014 年 10 月に ROS assay 技術講習会を開催し,一般普及に努めた.また,薬事日報において ROS assay を中心とした光安全性評価方法開発に関する一連の事業が記事として取り扱われた.

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
201427053Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,328,807円
人件費・謝金 0円
旅費 276,740円
その他 214,453円
間接経費 180,000円
合計 3,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
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