遺伝子治療のための標的遺伝子導入技術の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800417A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療のための標的遺伝子導入技術の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
島田 隆(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、臨床試験で使われているウイルスベクターは、細胞に対する特異性がなく、標的細胞以外の細胞にも遺伝子が導入されてしまう。それ故、生殖細胞への遺伝子導入や正常細胞への遺伝子導入による副作用の可能性が危惧されている。又、他の細胞への感染でベクターが消費されてしまうことは、標的細胞そのものへの導入効率を下げる大きな原因の一つとなっている。これらの安全性と導入効率の問題点を解決するため、特定の組織にだけ遺伝子を導入し発現する標的遺伝子導入法の開発を目的としている。
研究方法
CD4+リンパ球特異的HIVベクターはプラスミドベクターをCos細胞にトランスフェクションして作製し、限外ろ過カラム(Centriprep)により遠心濃縮(2000 x g, 30 min)した。HIVエンベロープ(gp120)を発現している、HIV感染細胞に特異的に遺伝子導入するベクターとして、CD4を組み込んだキメラエンベロープの二段階法を行うため、本来はヒト細胞には感染しないレトロウイルス(eMLV)の受容体(EcoRec)遺伝子をHIV-LTR下流に組み込んだHIVベクター(HXEcoRec)を作製した。EcoRec遺伝子の発現はRnase protectionアッセイにより確認した。更に、細胞表面への発現は細胞に結合したレトロウイルス粒子に対する抗レトロウイルス抗体を使ったFACS解析により測定した。EcoRec遺伝子にalpha fetoprotein(AFP)プロモーター或いはdesmin(DES)プロモーターを連結した発現ユニットを組み込んだアデノウイルスベクター(Ad.AFPEcoRec、Ad.DESEcoRec)を作製した。ヒト筋芽細胞は市販(BioWhittaker)のものを、線維芽細胞は同意を得た後健常者から採取した。in vivo遺伝子導入実験では、BaCl2処置により変性を起こさせたウサギ前脛骨筋に対し、アデノウイルスベクターとレトロウイルスベクターを直接注射した。アミノ酸ポリマーD-Lys/D-Ser(30:36 or 53:60)(PLSP)を合成し、C末端にポリエチレングリコールを結合させ、更にLysineのipsilonアミノ基にガラクトースを結合させたgalactosyl PLSPを作製した。Luciferase活性はAuto Lumat (EG&G Berthold)で、粒子サイズはAuto Sizer (Malvern)により測定した。
結果と考察
CD4+T細胞とマクロファージに特異的に遺伝子導入できるHIVベクターを作製した。又、限外ろ過法を利用してHIVベクターを、108 cfu/ml程度まで濃縮する方法を開発した。高力価のHIVベクターにより80%以上のヒト末梢血Tリンパ球に遺伝子導入が可能になった。HIV感受性の細胞に特異的かつ高率に遺伝子導入できるHIVベクターはエイズ遺伝子治療のために理想的なベクターであると考えられる。しかし、HIVが既に感染してしまっている細胞ではCD4の発現が抑制されるため、HIVベクターによる遺伝子導入効率は低下してしまう。HIV感染細胞に対する標的ベクターとして、CD4を組み込んだキメラエンベロープを持つレトロウイルスベクターを開発したが、その力価は100 cfu/ml以下であった。導入効率の低さは、キメラエンベロープをもつベクターに共通した問題であり、エンベロープの構造を改変したことが原因と考えられている。そこで、ベクター側を改変するのではなく、細胞側を改変することにより細胞ターゲティングを行なう新しい二段階遺伝子導入法を開発した。
レトロウイルス受容体(EcoReco)遺伝子を組み込んだHIVベクター(HXEcoRec)を作製し、ヒトCD4+Tリンパ球であるCEM細胞に導入した。この段階ではEcoRecの発現は検出できなかったが、この細胞にHIVが感染するとEcoRecの細胞表面への強い発現が認められた。これはプロモーターとして働いているHIV-LTRが、HIV感染後に作られたTatにより活性化されたためと考えられた。次ぎにbeta galactosidaseとneoR遺伝子を持つeMLVベクター(RE.G1bgSvNa)を感染させると、HIV感染細胞に特異的に高い効率で遺伝子導入が認められた。従って、あらかじめHIVベクターを導入しておくことで、HIVに感染した細胞だけをeMLVベクターで遺伝子治療することが可能になった。
二段階遺伝子導入法を種々の組織に対するターゲッティング技術として発展させた。一段目のベクターとしては、多くの種類の細胞に高い効率で感染し、遺伝子は一時的にしか発現されないアデノウイルスベクターを使い、組織特異的プロモーターとEcoRec遺伝子を組み込んだ。AFPプロモーターとEcoRec遺伝子を持つアデノウイルスベクター(Ad.AFPEcoRec)はAFP+のHepG2細胞にもAFP-のHeLa細胞にも感染できるがEcoRecの発現はHepG2細胞でのみ認められた。Ad.AFPEcoRecとRE.G1bgSvNaによる二段階感染を行うと約2 x 105cfu/mlの力価でHepG2細胞へのneoR遺伝子の特異的導入が確認された。DesminプロモーターとEcoRec遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクター(Ad.DESEcoRec)と、RE.G1bgSvNa により、ヒトの初代培養筋芽細胞と線維芽細胞に二段階遺伝子導入法を行ったところ約30%の筋芽細胞にbeta gal遺伝子が導入された。更に、ウサギの前脛骨筋に対する直接注射でも筋線維特異的な遺伝子発現を認めた。これは二段階遺伝子導入法がin vivoでも応用できることを示している。
肝細胞で特異的に発現しているアシアロ糖蛋白受容体を介した遺伝子導入法として、Galactosyl-D-lysine/D-serine copolymer (Gal-PLSP)を担体とする遺伝子導入法を開発した。PLSPはこれまで使われていたpoly Lysineと比較し水溶性が高いため、大量のDNA複合体を作ることが可能であり、マウス尾静脈からの静脈注射により肝細胞に特異的に遺伝子が導入されることが確認された。
結論
エイズ遺伝子治療のためのリンパ球特異的遺伝子導入法としてHIVベクターを作製し、ヒトの初代培養リンパ球に高率に遺伝子導入できることを示した。HIV感染細胞へのターゲッティングを行なう方法として、CD4配列を組み込んだキメラエンベロープを持つレトロウイルスウイルスベクターを作製した。更に、高率な細胞ターゲッティングを行なうため、標的細胞のみをレトロウイルスベクターに感受性にする二段階遺伝子導入法の可能性を検討した。レトロウイルスの受容体(EcoRec)遺伝子を持つHIVベクターと、レトロウイルスを感染させることでHIV感染細胞に特異的に高率に遺伝子導入させることに成功した。この二段階遺伝子導入法を更に発展させ、組織特異的プロモーターとEcoRec遺伝子を持つアデノウイルスベクターとレトロウイルスベクターを使って、AFP陽性肝癌細胞やDesmin陽性筋芽細胞への特異的遺伝子導入法を開発した。又、二段階法がin vivoでの遺伝子導入にも利用できることを示した。非ウイルスベクターを使った細胞ターゲッティング法としては、Galactosyl-D-lysine/D-serine copolymer (Gal-PLSP)を担体とする遺伝子導入法の開発し、マウスへの静脈注射により肝細胞に特異的に遺伝子が導入されることを示した。

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研究報告書(紙媒体)

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